第6話 謝って済む問題ではない

 8月9日、思恩と奏が第二次復讐計画を実行する日。


 相原と上田が死んでから、俺は中田と和田に呼び出されることはなくなった。

 俺の気分も晴れやかではなかった。

 あの時は冷静でなかった。俺はやっぱりおかしいのだ。

 でも、上田は俺の味方だった。


 その上田からの遺言を神前さんから聞いた。スマホに入れられた音声を再生する。


『思恩ごめん。助けてあげられなくて。でも真人は俺が叩き落としておくから安心して。あとの二人も君に殺してほしい。頼んだよ。そして、天国で待ってるから』


 こんなことを聞いて俺は復讐計画をやめるわけにはいかなかった。

 奏時のためにも、上田のためにも、もうやり通すしかないんだ。

 俺はおかしいことをする。こんなの狂っている。


 でも謝罪は天国ですればいい。俺が天国に行けるかは分からないが、もう運命は決まっている。


 ナイフをポケットに入れ、強い日差しを浴びながら、俺は2‐3教室に向かう。中田と和田を殺す。そして、神前さんと一緒に飛び降りる。

 そうすれば、俺は解放される。奏時もきっと。




 中田と和田は俺が呼び出した。相原が殺された件に俺が関わっていたと二人は考えていなかったので、すんなりと来てくれた。

 ただ、俺から呼び出すなんてことは今までなかったので、怪しまれはした。それでも計画は順調に進んだ。



「あの、相原が死んだ時のことなんだけど……」

「それがどうしたってんだよ?」

 中田が鋭い目つきで吐き捨てる。


 中田も和田も俺のことをじっと見つめる。


 今だ!


 まずは神前さんが後ろから中田を殺さない程度に切る。


「ぐふぁあ」


 俺はそれに恐怖して倒れ込む和田の胸をナイフで刺して思いっ切り捻った。


 血を吐きながらぜーはー言っている中田は立ち上がって俺に襲い掛かってくる。

 俺はそれに対して、ナイフを振りかざす。



「やめろ──!」



 その刹那。目の前に人が現れた。


 そこにいたのは夢見さんだった。


 俺と中田の間に飛び込んできた夢見さんに俺のナイフが牙をむく。


 もう動きを止められなかった。

 次の瞬間には夢見さんの背中にナイフが刺さり、彼女はその勢いのまま中田の上に倒れる。



 俺は崩れ落ちるようにしてばったりと床に手をつく。



 神前さんが仰向けに倒れていた中田の顔面に思い切りナイフを突き刺す。




 俺が夢見さんを刺した……?


「……大丈夫?」

 神前さんがナイフを放り投げ夢見さんの意識を確認している。


「死んじゃってる……」


 え……? 死んだ? 夢見さんが?


 なんでだよ。何が起こって……。


「ごめんなさい。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 どうして、どうしてこんなことになってしまったのだろうか。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 俺がしたかったのはこんな事じゃない。


「ごめんなさい、ごめんなさい」

 こんなの、こんなの嘘だ。




「ごめんなさい」


 俺はあまりの塗炭の苦しみに耐えきれず窓の外に飛び出した。




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