第3話 流れに任せた覚悟
次の日、俺はいつものように相原たちに呼び出された。
相原のスマホは壊れていたらしく、またぶん殴られた。中田からの罰がなくとも、結果的にはこれだ。でも、痛くも痒くもない。奏時の苦しみに比べれば。
女子トイレでの拘束プレイを終えた俺は早足で家に向かった。神前さんからLIMEがきているかもしれない。
夜ご飯を食べずに部屋に直行。今は一緒に暮らしている母さんに心配されたけどそれどころではなかった。
スマホを確認すると、通知がきていた。神前さんからだ。
不在着信。何か緊急で話したいことがあったのかもしれない。すぐに電話をかけるとワンコール目で繋がる。
「思恩くん、ごめんね」
いきなりの謝罪。昨日のことは言いすぎだったとかだろうか?
「今日、見たの。思恩くんのこと……」
「え? それっていつ?」
「放課後」
見られた? 最悪の展開だ。せっかく知られていなかったのに。
「思恩くんもあんな目にあってただなんて……。私、知らなくて……」
神前さんは俺のためにも泣いてくれていた。それは温かくもあるが、凍った心が溶けきるまではいかない。
「いや、いいんだよ。神前さんは何も悪くないよ。俺は平気だし」
「平気なわけないじゃん! 奏時は死んだんだよ! あいつらのせいなんでしょ? どうして平気だなんて言えるの? 奏時は辛かったんだよ。それを君は平気だって言いたいの?」
神前さんの訴えが強烈に頭に響く。
「そうじゃなくて……。ごめん」
そこまでは考えが及んでいなかった。
確かに、奏時の苦しみが大したことないように聞こえることを言ってしまった。
俺は奏時と比較して自分は大丈夫だなんて思っていたけど、それは大小あるものではないんだ。いじめはなんであれ許されることじゃない。
「いや、違うの。思恩くんを責めたい訳じゃなくてね。思恩くんのためにも復讐しよう。二人分の恨みを込めるんだよ」
「それって奏時も望んでいるのかな?」
「当然だよ。奏時はしたくてもできなかったんだと思う。きっと一人で心細かったよね。だからあんなことになった。過ちを繰り返すわけにはいかない。だから、お願い。力を貸して!」
「神前さんはそれでいいの? 最悪神前さんがいじめの対象になりかねないよ。そんなの奏時絶対に望んでない。だから復讐はいいよ。それにこれは俺が奏時の苦しみに気づいてあげられなかった罰なんだよ」
俺は予定通り誘いを断る。これでいいはずだ。
「それでいじめを正当化しろって言うの? 私には無理だよ。それに、あいつらに報復の余地なんて与えない」
「相原たちを舐めちゃダメだよ。めっちゃ強いよ。誰も逆らうことなんてできないんだ。大人でさえも」
神前さんは知らないのかもしれない。
相原たちからすれば俺みたいなのは虫けらみたいな力しかない。
「そんなことないよ。私たちならできる。私の計画を聞いて。まず私が上田を呼び出して告白すると見せかけて上田を殺す」
「え? ちょっと待って! こ、殺す?」
神前さんからあまりにも物騒な言葉が飛び出し思わず聞き返してしまう。
「そうだけど?」
「それ本気で言ってる?」
「私は本気だよ。ちゃんとついてきて」
「それは犯罪だよ」
「そのくらい知ってるよ。まあ、最後まで聞いてってば。その間に申し訳ないけど思恩くんにはいつも通りやってもらって、その後ろから私が様子を窺って相原をぶっ刺す。死なない程度にね。次に中田を二人がかりでぶっ刺す。あ、もちろん最後は思恩くんの手でやっていいよ。で、和田をグサッと。からの相原に思恩くんがとどめをさすでしょ。最後に一緒に飛び降り自殺しよ。だって人殺したら人生終わりじゃん? ということでどうかな? ナイフとか持ち出せそう?」
「………………」
声が出なかった。
それは復讐計画というよりも殺害計画と言えるものだ。途中から内容が頭に入ってこなかった。
「神前さん、それは無理だよ」
「思恩くんが無理なら私一人でやる」
「いや、でも……」
神前さんはいたって穏和なトーンで話すので、とても信じられない。
「思恩くんは相原たち殺したくないの? もしそうならおかしいよ。いじめてる人間は悪」
「もちろんあんな奴ら死んでほしいと思ってるけど、思うのと、本当に殺すのは違うというか。それと上田に関しては恨みはそこまでないんだ」
「分かった。それなら上田は殺さない。戦闘不能にはするけど。それならいいでしょ」
「うーん……」
「思恩くんがやらないなら私が思恩くんの敵討ちもやってあげるから。この計画あのクズどもにばらさないでね? よろしく」
苛立ちを隠せていない神前さんを肌で感じていると、いつの間にか通話は終了していた。
本当にやるのだろうか。だって犯罪だよ? やるわけ……。
でも、もしそうなら神前さんはどうなる? 失敗したら神前さんが殺されるかもしれない。あいつらならやりかねない。
成功しても、神前さんは捕まる。
失敗しても成功しても俺はクラスメイトと同じ傍観者になる。
そんなのいやだ。怖い。
そう思う前に俺は再び通話ボタンを押していた。
神前さんもすぐさま応答する。
「俺も! 俺もやるから!」
「ありがとう! そう言ってくれると信じてたよ!」
神前さんの声は抑制していた感情を放出するかのように弾んでいた。
「計画はいつやるの?」
「7月21日。相原の誕生日に」
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