第15話 奏、舞います

「この世界に思恩の弟さん、奏時くんがいるんだ」


「奏時が………!」


 それは驚きの情報だった。未練が関係しているのだとしたら確かにいてもおかしくない。奏時は満足な人生ではなかったのだから。


「……え? ほんとに? ほんとに?」

「うん。本当だよ」


 それを聞いて神前さんは喜びの舞的な何かを踊っていた。足を滑らかに前へ横へ体を反ったりくねらせたり。その勢いは増すばかりだ。そして、それが終わると勢い良くオーラの残像を残しながらこちらにぐいと近づき思いのたけをぶつける。


「奏時に会えるってことだよね? 奏時はいつ? どこで? 誰が? 何を? なぜ? どのように?」

「神前さん落ち着いて! 5W1Hが出てるよ!」


「もー早く言ってよ! まじで良かったうれしいいい」

 ジタバタと足を地面にたたきつけながら喜びを嚙み締める神前さん。


「奏時のことどうやって知ったの? 上田が転校してくる前に奏時は亡くなってるけど……?」


「真人から……」


 一瞬の気まずい空気。


「何しょげてんの、二人とも? 奏時が生きてる……って言い方でいいんだよね。てことはまた会えるんでしょ? やっぱり愛は世界を超えて存在するんだよ!」

 神前さんは両腕を広げ天に感謝を伝えている。


「そっか。会えるのか」


 俺も少しばかり喜びを感じてしまう。


 しかし、俺たちとは違い上田は真剣な面持ちで俺たちに告げる。


「それが、簡単にはいかないんだ」

「この世界にいるんでしょ?」


「いるのはいるんだけど、拘束されてるんだ。それが悪い情報」

「……は? なんで?」


 神前さんのキラキラオーラがどす黒くなるのを肌で感じる。直視できない。


「また魔法の話になるんだけど、奏時くんは《所有権しょゆうけん》ていう魔法を持っててそれがあまりにも国家的に危険だから政府によって拘束されてるんだ」


 拘束。そんなまるで悪人みたいな扱いを? 奏時がなんで……。


「奏時何か悪いことしたの?」

「したと見なされてるって感じかな」


「じゃあ不当じゃん。それこそ犯罪でしょ! 人権侵害! 身体的拘束反対!」

 神前さんが腕を突き上げ遺憾の意を示す。


「それは国家に言ってもらわないと……」

「了解」


 そう言うと神前さんが駆け出す。


「ちょっと待って神前さん! どこに行くの?」

「それは……どこ行けばいい?」


 急ブレーキをかけた神前さんはこちらに振り向き苦笑する。とても行動力のある人だ。


「本土に渡らないとたぶん何も交渉はできないと思うよ。奏時くんはこの島にいるけど」

「はぁああああ。って、え? この島にいるの? やったー!」


 神前さんは跳び跳ねて喜んでいる。


「この島にいるってことは、面会くらいはできたりしない?」

「うーん。警備員を倒せばいけるんじゃないかな? 正規の方法はないから」


「じゃあ無理か……」

 今度は萎れる神前さん。感情の乱高下が激しい。


「いや、望みがないわけではないと思うよ?」

「どういうこと?」


「まだ説明してなかったけど、俺がネットで調べたら政府のホームページにあったんだよ。奏時くんに関する情報が。奏時くんは今、この島の南東にある拘束施設に収容されてる。奏時くんの周りにはバリアが張られているんだけど、このバリアはこの島の住人、計三万人の魔力によって強度が維持されてて、そのバリアに装着されてる三つの魔力管理装置に三人の転生者が同時に魔力を放出すればバリアを解除することができるんだ」


「すごいね。でもなんで奏時のことを調べてくれたの?」


「それは思恩と神前さんが神陸に転生してくるだろうなって思ってたから。全員が全員、神陸に転生するわけではないってさっき言ったけど、二人は未練がありそうだったしね」


 それでもそこまでしてくれる理由は分からなかった。上田は奏時と接点がないのだから。

 でもその気持ちはありがたい。


「もう一つ質問いいかな?」

「どうぞ、神前さん」


「なんで転生者じゃないとその装置を解除できないの?」

「転生者は神陸生まれの人よりも最大魔力量が多いからだよ。神陸生まれの人たちには解除できないようにして、政府高官やその周りの役人には転生者が多くいるからそういった人たちは解除できるようにしてある。この島の住人はみんな魔力が吸われているからいくら束になっても解除はできない。もちろん、ちゃんとした理由がない限り解除するのは法律違反だから逮捕される。でも、最近の国会でとある法律が改正されたんだ。転生者は神陸生まれの人同様に14歳未満の者は罪に問わないという規定を変更して魔法を使って犯罪をした転生者に関してはこれを16歳未満に引き上げたんだ。なんでかっていうと、転生者はどうしても特殊な魔法を持って転生してくるから、例えば神陸生まれの15歳と転生してきたばかりの15歳だったら、転生者の方がより故意でないのに魔法を使って罪を犯してしまう確率が高いから」


「つまり、この世界に来てから間もないこの世界特有の常識を知らない人を救済するためってこと?」

「そうそう。あと、正確には16歳未満もしくは、転生から三年以内の18歳未満の転生者がそれに該当することになってる。もちろん、魔法を使わずに行った犯罪は関係なく捕まるけどね」


「奏時は例外なの?」

「うん。残念ながら……。保有禁止魔法を使える者に関してはそれの適用外なんだよね。これっておかしいと思うんだけど、やっぱり政府からしたら怖いんだろうね」


 上田はとても神陸の事情に詳しい。賢い彼にはどうってことないのだろう。


「上田の話を聞いて分かったんだけど、私たちって犯罪犯してもセーフってことだよね?」

「まあそうなるね」


「だってよ! 思恩くん!」

 再び喜びのオーラが解き放たれる。


「神前さん、まさか……」

「そりゃあもちろん! 行くよ! この三人で!」


「待って神前さん! 拘束施設には警備員がいるんだってば」

「そっか。うーん、どうしよう」


 神前さんは腕を組み思索する。


「私思いついちゃった! 奏時救出計画を」


 不敵な笑みを浮かべつつ自信満々な神前さんに俺たちはなす術がなかった。





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