第33話 狼人族と拮抗

「サリヤ。気をつけろ。いつもの相手と思うな。」


「はい。お父様。」


鬼人族と従者達が散らばった後、魔王とサリヤが二人残り、相手も狼王と一人の剣士が残った。


「お前はあの剣士を相手しろ。だが私から離れるな。」


「離れたほうがやりやすいと思いますが?」


「狼王の様子がおかしい。何かあるぞ。」


「わかりました。」


サリヤは自身の魔具をだし、戦闘に備える。相手の剣士も剣を構える。二人の王は魔具を出していない。周囲では戦いの音がしているが、不思議と4人の周りは静かだった。


「行くぞ!魔王!」


そう叫んだ狼王は腕に雷の魔法をまとわせ魔王に飛んできた!


《ダークランス》


魔王は近づかれる前に闇の槍で吹き飛ばす。何度も様々な方向から突撃を繰り返してくる狼王。だが魔王は闇の槍と触手を用いてそれを撃退している!その間にもサリヤと剣士は何度も剣と槍を交わしているが、サリヤはその場を動かないように戦っている。本来のサリヤの戦い方は機動力を活かした飛び回ってのものだが、父の言いつけを守り離れないように戦い狼王と魔王の戦いをちらちらと横目で見ているが、


「よそ見とは!!」


その隙をつき相手の剣士が猛攻を仕掛けてきた!


「ふっ!!」


それを持った槍で受けるサリヤ。剣を槍で受け、魔法で押し返す。その攻防を数回行った時、


「ルプス様の邪魔をするな!!」


ひときわ強い力で打ち込んできて押し込まれる形となる!


「邪魔って、侵攻してくるのを見過ごせと?」


「ルプス様の悲願の道が進もうとしているのだ!侵攻される方が悪なのだ!」


「...古き魔物は魔族を愛し、人間を憎んで人間を殺していた存在でしょう?同じ魔族に対しては良き存在だったはずですよ?」


「人間と良き関係を築こうとする魔族もまた敵なのだ!そこに例外はない!」


「...ここまで話が通じないとは。」


(確かにお父様の言う通りなんか話がかみ合わない。人間を憎む心があからさまに強くなっている?)


「そこまで古き魔物に原点回帰したいってことは人間と何かあったのですか?」


「ふざけるな!人間が目の前にいたら問答無用で殺しているわ!」


(やっぱり変だ。狼人族は確かに人間をひときわ憎んでいる種族。それも今の世代が何かされたわけではなく、一族の古くからの掟のようなもの。でも今の狼人族はそういう憎み方じゃない。...あいつを置いてきて正解だった。)


サリヤは狼人族が侵攻してきていると聞いて人間のレイトを置いてくることを決めた。それは単なる勘によるものだったが当たっていたようだ。


(今の彼らの前にあいつを出したらとんでもないことになりそう。)


《ブレイクサンダー!》


つばぜり合いの中剣から魔法を出し、サリヤを吹き飛ばす剣士。


「くっ。」


(ハリスの狐魔族一族の雷魔法とは違う。いわば剛の雷魔法。まともに撃ち合うと氷が破壊される。かと言って避けまわることは出来ない。全く難しい。)


剣士は少し血走った目でサリヤをにらみつけている。


(となれば。)


相手が前に出ようとしたタイミングで飛び出すサリヤ。


「ちっ!!」


《ブレイクサンダー!》


かろうじて反応し、魔法を放つ剣士。体は追い付いていないが魔法でサリヤの特攻を防ぐ算段だ。剣に当たる瞬間!


《ダースアウト》


サリヤは右腕で闇の空間を発生させ雷魔法を防ぐ!


「くっ!」


更に剣士が反応しようとしたところでサリヤは追撃を入れる!


《ダースタイ》


その闇から更に触手が飛び出し、剣を持っている手を絡め取る!


「しまっ!」


元々右手がなく、右腕からは精密な魔法が出てこないと考えていた更に直接的な攻撃ではなく、拘束するような動きの魔法に一歩出遅れる剣士。その瞬間をサリヤは見逃さなかった。


「ふっ。」


剣士の足元に氷を出し、バランスを崩した上で触手で地面に倒す。そこで地面の氷を拡張させ完全に動きを封じ込める!


「...。」


ズキっと痛む右腕、それを顔に出さずに剣士を見下ろし、更に氷を厚くし拘束が外れないことを確認する。


(やっぱり右手がないと精密な魔法は難しい。相手が「右腕から魔法はでない」と油断してなかったら拘束出来てなかった。それにこの痛み。右手を失った戦力ダウンは大きい、か。)


右腕を軽く振り調子を確認する。腕があった時の戦闘の感覚はなく、改めて大きなものをなくしたという喪失感が出てきた。


(お母さん。なんであの状況で私の右腕を?ただ単に私を殺そうとして失敗した?それとも...。まあ今は置いておこう。)


「お父様。こちらは、」


そう言いながら魔王の方を見ると、その戦いも終わりそうな所だった。


「どうした、狼王。前戦ったときと変わりがないぞ?」


魔王は腕を組み、膝をついている狼王を見下ろしている。狼王は傷だらけだったが、魔王の体には傷一つついていなかった。


「いや、むしろ以前より弱くなっているか?何を隠している。侵攻してきて負ける意味はなかろう。」


この戦いで魔王の中では不信感が大きくなっていた。


(何かを、抑えている?)


「はぁ、はぁ。流石腐っても魔王だ。まだここまで強いとは。」


息を切らしながら睨んでくる狼王。


「むしろ私は失望したぞ、狼王。何故勝ち目が無い侵攻をしてきた?」


「勝ち目がない?」


膝立ちから下を向きながら立ち上がる。


「私に勝ち目がないと、本当に思っているのか?」


「...なんだと?」


「そう思っているなら、」


少し力をため、


「貴様は浅はかだなぁ!」


全身から一気に魔力を開放する!


「なっ!まだこれほどの魔力が!」


気圧された後、直ぐに攻撃をしようとする魔王。しかし、


「させるかぁ!!」


鬼達と戦っていた狼人族達が二人の間に割って入ってきた。それを皮切りに鬼達と戦っていた狼人族達がこちらの戦いに入ってきた。魔王が撃退しようとしたところで、


「逃げるな!!」


鬼長が娘たちを連れて戻ってきて、混戦となる!狼人族の個々の力は魔王陣営には力及ばないものの雷魔法を使い、連携をとり狼王に近づけさせないようにしている。


「くっ!」


サリヤは周囲から不規則に襲いかかってくる雷撃を氷で防ぐので精一杯だった。


「急に主を守り始めた...。」


「どうやら何かするようだな。」


いつの間にか隣にいたアイリスが雷を防ぎながら従者の中心にいて魔力をためている狼王を睨みつける。


「あの魔力を解き放った後の何か、それが侵攻してきた理由のようだな。止めたいところだが、」


狼王の周りには陣形を組んでいる従者たちがいる。


「難しそうだな。」


「でも早く止めなくちゃ。アイリスさん、援護してください。」


「わかった。気を付けてな、姫。」


自身の魔具を手に持ち一呼吸置くサリヤ。相手の陣形が空いた一瞬を狙い突撃する!


「!通すか!」


それに気付いた二人の従者がサリヤを雷で襲う!


「させん!」


サリヤの後ろから土でできた盾を飛ばしてサリヤを守る。盾は直ぐに壊れてしまったがサリヤが飛びぬけるにはそれで十分だった。


「はぁぁ!」


狼王の胸に入り込もうとしたその時!


「一歩遅かったな!皇女よ!」


狼王の体が煙に包まれた!それに構わず胸に槍を突き立てようとするサリヤ。だが、


「うぉぉぉぉぉ!!!」


槍が届くより早く天に向かって咆哮をする狼王。その直後に全身から魔力と煙が放出される。その勢いが凄まじく、サリヤは元いた位置まで弾き飛ばされてしまった。狼王を中心としてなにかの魔法陣が描かれる。それはとても大きく、サリヤにとっても見覚えのあるものだった。


「なに!?」


「なんだい、この魔力は?まるで、」


サリヤ達、敵だけではなく味方である従者達も戦いを忘れたかのように狼王を見ている。それほどまでにこの《戦い》の場にはふさわしくない光景だった。


「まるで使い魔の召喚魔法じゃないか!」


アイリスや鬼長達が驚くのも無理はない。魔族にとって使い魔は基本無用の物。知識としては知っていてもその生涯で一度も召喚の儀を見ないこともよくある。サリヤと魔王も困惑していた。


「この状況でなにを?」


「......。」


魔王も口を閉ざしたまま考えを巡らせている。


「まさか、とは思うが。」


「?お父様、何か。」


「さあ!魔王!」


咆哮とも言える声で叫んでくる狼王、


「これが!」


その姿は見る見るうちに大きくなっていき、


「勝ち目だ!」


銀色の毛を纏う身の丈10mはありそうなとても大きく、迫力のある狼に変身した!

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