第17話 買い物と別れ

目が覚めたら客間のベッドの上だった。


(何回目だよ。)


「何回目よ。」


マスターが横から声をかけてきた。


「あ、マスター。...おはようです。」


「はい、おはよう。もう夜だけどね。」


目線を向けるとマスターは寝巻に着替えていた。


「俺、なんで。」


「気絶したか、ね。正直わかんない。」


「そうなんすね。」


「多分魔力切れだとは思うけど、詳しいことは帰ってメイガスと話しましょ。明日帰るから。」


「もう帰るのか。」


気絶の思い出が濃い旅だった。


「明日はもう帰るだけ?」


「気分転換に買い物に行きましょーってシルビアさんが言ってきたから、街に行こっか。」


「はーい。ってあれ?街に行って大丈夫なの?マスターの国では出ちゃダメって。」


「ここの城下町は大丈夫。」


「っていうと?」


「うちの国には色んな魔族がいるの。だから中には人間が好物なやつもいる。でもこの国はほとんどが龍人族なの。大通りにいて、私たちと一緒にいれば大丈夫。」


「今さらっと人間が好物って。」


「だってその通りなんだもの。人間しか食べないわけじゃないけど、弱い人間がいたら食べるわよ。」


そう言われると途端に怖くなってきた。この世界、魔界怖い、なんか寒気が...。


「だからディスブルで街に出るときは逃げれる力を身に着けてからね。」


「りょうかいっす!」


「じゃあ、お休み。」


ろうそくの火が消されてほぼ闇の状態になる。どうでもいいけどこの国はろうそくなんだな。ディスブルはなんか蛍光灯みたいなのが光ってたけど。


起きて朝ご飯を食べて、帰り支度をする。といっても俺はなんもないし、マスターも自分ですることはないようだ。


「買い物に行きましょう!」


朝から元気に部屋に入ってくるシルビアさん。


「シルビアさん。そんなに急がなくても大丈夫ですよ。」


「だって、サリヤさんとレイトさんと離れてしまうので早く来なきゃって思って!」


マスターに駆け寄るシルビアさん。


「シルビアさんって皇女様とは思えないほど元気ですよね。サリヤさんの方が皇女様っぽいっていうか。」


と、こそっと言ってくる由佳莉さん。


「そうっすね。って言うか俺の中の王族のイメージがゲームの中しかないんで。」


「日本に皇女とかいませんでしたもんね。」


あははと苦笑しながら日本を思い出す。


「とりあえず行きましょうか。」


マスターの一言で外に出た。


城下町に出た。建物は木造が多い感じで、城と同じレンガ造りの建物もちょこちょことある。建物や扉は日本の物と比べて一回り大きい。それは龍人族や他の魔族が人間より大きいのが多いからだろう。違うのは建物より街にいる人、魔族達だろう。大体が龍人族で少し違う魔族もいる。人間が物珍しいのかみんなこちらを見てくる。っていうか姿だけだと、4人全員人間だもんな。


「劇的に日本と違うわけじゃないんですね。」


「はい。何度かシルビアさんと一緒に外出したんですが、日本と同じ感じなんですよね。売ってる物は結構違うんですよ?龍人族が鱗を洗うようのブラシとか、魔族用の娯楽品とかですね。」


「へぇー。...じゃあ俺達が買えるものってないんじゃ。」


「ま、まあこの世界を知るって意味でも色々見てみましょうよ。」


「そうっすね。」


マスター達の後を追って、街を歩く。それに伴いここが異世界の街なんだとしっかりわかってきた。買ってるのも売ってるのも魔族。売ってる物も日本とは違う物。疑ってたわけでも、信じてなかったわけでもないけど、この世界は魔族が当たり前にいて、元の世界とは全く違う世界なんだな。歩いている中でマスターとシルビアさんに色々と教えてもらった。本はトーラスさんが書いていた文字で書かれているのが主らしい。それぞれの魔族の文字もあるが、古い文字のため、今ではあまり使われていないとのこと。戦いがある世界なのに武器屋などがないのは、龍人族が己の肉体と魔法で戦う種族だからで、ディスブルには普通に武器屋と防具屋があるらしい。というか、変身魔法を使うと武器や防具が意味ないからっていうのが一番の要因みたいだ。遠くを見れる水晶や、物を浮かべて運べる袋など珍しい物が沢山あったが中でも興味を惹かれたのが、


「光ってる。」


光っている石だった。その店はその石の専門店のようで様々な大きさの光っている石が大量に置かれていた。


「それはボンドストーンっていうんですよ。」


とシルビアさんが教えてくれた。


「ボンド、ストーン?」


「はい。その石は奇妙な特性があって、光っている石を割ってそれが近づくと光が強くなって、離れると光が弱くなるんです。で、割れた石を別々に持つんです。離れ離れになる友達とか、戦いにいく恋人とかと一緒に持って、また会おうねって思いを石に込めるんです。大きさが色々あるのは、その分多く分けれるようにですね。」


「大勢で持つときは大きい石を使うと。」


「そうです。それにこのお店は持ちやすいように加工してくれたり、石に文字や模様を彫ってくれるんですよ。」


「文字...。」


ちらっと後ろにいる由佳莉さんを見る。昨日会ってわかったけど由佳莉さんは気分が落ち込んでいるみたいだ。そりゃああんなことがあったらね。少しでも力になりたいけど、


「買いたいんです?」


シルビアさんが由佳莉さんの所に戻り、代わりにマスターが隣に来た。


「欲しいっす。」


「で主人ではなく、元気がない他の使い魔に渡そうと。」


「うっ。」


「他の使い魔とはあまり仲良くしないようにと言ったはずですが。」


「うぅぅ。」


とげのある言い方。マスター急に怖い。


「...まあいいでしょう。買ってあげます。」


「えっ!ほんとっすか!」


「あの時は、ここまで変な事になるとは思っていませんでしたから。その償い、ってことにしてください。」


「ありがとうございます!すいませーん!」


奥にいた店員さんを呼んで、石を購入する。割る前にある漢字を入れてもらうことにした。


「なんだいこれ?変な模様だな。これでいいのかい?」


漢字を知らない人にはやっぱり変な模様に見えるんだな。


「はい。その二つの模様を縦に並べて、その間で割ってください。」


「あいよ。シルビア様のお友達だからね、しっかりやらせてもらうよ。少し時間がかかるからその辺を回ってきたらどうだい?」


「はーい。お願いします!」


お店から出て、マスター達と一緒に周りの店を回る。ドリンク屋で買った名物ドラゴンウォーターは舌が驚くほどの刺激的な味で、スイーツ店のブラックマッシュケーキは暗黒茸を使ったシフォンケーキで、頭にガツンときてとてもスイーツとは思えない味だった。これを普通に食べれる魔族って。


「サリヤ様。そろそろ。」


遠巻きに警備をしていたウォルトさんが近づいてきた。もう帰る時間か。


「もうそんな時間なんですね。」


名残惜しそうに言うシルビアさん。


「また会いましょうね、玲斗さん。絶対ですよ。」


絶対のところに力が入っている由佳莉さん。やっぱりなんか変だな。


「最後にさっきのお店よらせてください。」


ウォルトさんに了解をとり、石の店に行く。


「はい。出来てるよ。」


ネックレスにしてもらった石を受け取る。二つの石は輝いている。


「由佳莉さん。」


「?はい。」


「これ、一緒に持ちませんか?」


「え?私と、ですか?」


横目でマスターを見ながら言う由佳莉さん。


「はい。この世界...。あー、同じ故郷なのって俺と由佳莉さんの二人だけなんで、それを忘れないようにって言うか、故郷に帰ろうって思いの確認って言うか...。」


いい言葉が出てこない!プレゼントとかそういえばあんまりしたことなかった!


「......。」


なんか由佳莉さんぼーっとしてない?...やりかた間違えたかな。


「ふふっ。」


小さく笑う由佳莉さん。


「嬉しいです。ありがとうございます、玲斗さん。」


ネックレスを受け取ってくれた、由佳莉さん。よかったー!


「あれ、これは。」


由佳莉さんにあげた石には「剣」の漢字が彫られている。


「剣?」


「はい。俺のほうには道が彫られてて、二つ合わせると」


「剣道?」


「日本とか京都とか何にしようか迷ったんですが、由佳莉さんに渡すならそれのほうがいいかなって思って。」


そのまま彫られるから綺麗に漢字を書いて正解だった。いつもの感じで書いたら汚い文字になるところだった。


「ふふふ。そうですね。この言葉を忘れなければ日本のことを忘れない気がします。」


ネックレスをつけてくれた由佳莉さん。とりあえず喜んでくれたみたいだ。


「また会いましょうね、由佳莉さん。」


「はい。必ず。」


しっかりと握手をする。次に会うまでに由佳莉さんが帰れる手段が少しでもわかってるといいな。......その後城下町の門まで送ってもらう道中はちょっと気まずかった。別れの言葉が早すぎたな、うん。しっかりと門のところでお別れをして、馬車に乗る。帰りも半日くらいで帰れるみたいだ。


「この国に来たおかげであなたの魔力も上がって、目的もできて良かったって感じですね。それにあなたの故郷の人もいて。...まさかここまで進展があるとは。」


「そうっすね。来てよかったです。ありがとうございました。」


頭を下げてお礼を言う。


「帰ったらあなたがある程度戦えるように特訓しましょう。解析が終わったらトーラスさんから連絡がありますから...それまでに文字が読めるようにもしましょうか。」


英語を覚えるくらいの感じで覚えられるといいけど、多分無理だな。象形文字みたいだったし。

それからは会話はなく、ずっと外を見ていた。行きは早すぎてその余裕がなかったけど遠くのほうに大きなドラゴンが飛んでいたり、遠くからでもわかるほど大きい木がそびえたっていたりと異世界感が凄いことになっていた。ディスブル城に入る時には夕方になっていた。


「お帰りなさいませ、サリヤ様。」


迎えてくれたのはティーナさん一人。あれ?


「ティーナさん。他の方々はどうしたんです?」


ウォルトさんが聴く。やっぱり王族の帰還は皆でお迎えするのが普通なのかな?


「申し訳ございません。突然ロンナ国の方々がいらっしゃって、その対応でばたばたしておりまして。」


ものすごく申し訳なさそうに言うティーナさん。ロンナ国?


「...ってことは彼女たちも?」


「はい。来ています...。」


「はぁ。」


ちらっと俺を見てため息をつくマスター。そして俺のほうを向き、


「とりあえずあなたは部屋に、」


最後までその言葉を聞くことは出来なかった。なぜなら


「どぅべらぁ!!」


右ほほに人生で最高の衝撃を受け、吹っ飛んだからだ。


「痛ってぇ!!」


気絶しなかったのがおかしいと思うほどの威力だった。それでも痛みで動きづらい首をまわして殴られた方向を見る。そこには、


「やあ、私のお姫様。君と会えない時間はまさに地獄の時間だったよ。」


高身長イケメン巨乳の角あり人間がいた。

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