第18話 食事会と新しい出会い
「痛い。」
今は食事会の真っ只中。今来ているお客さん、ロンナ国が来たときには相手の王家と兵士を招いて豪勢な食事会をするらしい。こちらの国からも貴族や兵士とその家族が食事会に出ている。目の前には俺目線でも美味しそうな料理が沢山あるのだが、頬が痛すぎてあまり食欲がない。ミールさんからもらった塗り薬は物凄くひりひりしてまだ痛い。にやにやしてたし絶対わざとだ。
「レイト!美味しそう、だね。」
隣から幼い男の子の声が聞こえてくる。但し高さがおかしい。俺の耳の直ぐしたあたりから聞こえてきている。身長が180cm近くある男が横に立っていた。男といっても顔や身体付き、雰囲気は幼子の様な感じだ。それもそのはずこの少年、クロア君は歳が10歳らしい。右目が隠れていて、左額に小さな角が生えている。
「レイト、食べないの?」
「あー、頬が痛いんで。ゆっくり食べます。」
「あ、ごめん、ね。でもお姉ちゃんも悪気があったわけじゃ、ないから。」
と言いつつちょっと不満げなクロア君。敬語はいらないと彼自身から言われたが、子供?相手とはいえ初対面の人に直ぐにタメ口が出来るほどコミュ力は高くない。しかも相手は、
「お父様とお母様とお姉ちゃん達、どこいったんだろう。」
ロンナ国の王子様らしい。つまり王族だ。タメ口なんか出来るかぁ。
「にしても。」
周りを見ると見たことのある魔族とは別に大きな体躯の魔族が多くいる。ロンナ国の人達だ。
「鬼...」
「?うん。僕達は鬼人族だよ?」
ロンナ国は鬼の魔族、鬼人族の国らしい。竜人族の国もそうだけど、一つの種族で国を作るのが普通なのか。...日本も昔はそうか。ディスブルが特殊なんだな。
「マスターはっと。」
探して先に部屋に戻らせてもらおう。
「多分お姉ちゃん達と一緒、だよ。さがす?」
「そうっすね。っと、いたいた。」
大きな魔族で見えなかったが、少し向こうにマスターとクロア君のお姉さん達がいた。マスターを3人の大女達が囲んでいる。元々の小ささもあって、更に小さく見える。
「鬼って女の人でもでかいんですね。」
「鬼人族って他の魔族より、大きい魔族、なの。僕はこれから大きくなるみたいだけどね。」
えっへんと胸をはるクロア君。
「将来が楽しみですね。」
「えっへん。」
2回目のえっへんをかますクロア君を横目にマスターを見る。
「お姉さん方にモテモテですね。」
「お姉ちゃん達はサリヤさんが大好き、だから。」
「...鬼人族の人は女性が女性を好きになるんです?」
「ううん。お姉ちゃん達がサリヤさんを好きなだけで、女の鬼は男の鬼を好きになる、よ。」
「あっ、そうなんですね。」
「うん。」
クロア君はお姉さん達の方を指差した。
「あの髪が短いのが一番下のトライルお姉ちゃん。サリヤさんに試合で負けちゃって、好きになったんだって。」
活発そうで赤髪赤角が特徴のようだ。
「髪を纏めてるのが真ん中のお姉ちゃんのニーナお姉ちゃん。なんか昔サリヤさんに助けられて好きになったんだって。」
サードテールの青髪青角の元気そうな子がマスターの隣にいる。子といっても俺より大きいが。
「髪が長いのが一番上のアイリスお姉ちゃん。お父様と同じくらい強くて、凄いんだー!ニーナお姉ちゃんを助けてもらって好きになったんでって。」
さっき俺をぶっ飛ばした茶髪のロングで黒角の人がマスターの目の前に立っている。ていうかお父様の強さを知らないんですが。
「とりあえず凄い強いん、だよ!ニーナお姉ちゃんがサリヤさんに助けられた戦いで、その倍の敵と戦って勝ったん、だよ!」
興奮気味に説明をしてきた。
「へぇー、それはそれは。」
しかし、彼女の顔には、
「すげぇ、傷。」
遠くからでも分かるほどの傷跡があった。こちらから見えているのは顔の右側だが、そうとう広く、耳から目まで広がっているようにみえる。
「あれはね、その戦いでついちゃったの。でもでも、ニーナお姉ちゃんはあれが「戦いのくんしょうだからいい!」ん、だって。」
「...鬼人族は戦いが好きなんです?」
「うん。戦いがしじょうの喜びの種族なん、だよ。」
龍人族とは考えが違うんだな。
「っていうか好きの理由を俺に言ってもいいんです?」
「いつも皆に言ってるから、大丈夫、だよ。」
大丈夫か、それ?そんなことを思っているとクロア君に手を引っ張られた。
「行こ?」
マスター達の方に連れて行かれる。
「クロアさん。お姉さんに会った瞬間にぶったたかれないですかね。」
「むーー。」
膨れっ面になるクロア君。身長のわりに可愛く見えるのが凄い。顔が幼いせいだろう。
「言葉使いやだ。」
「...クロア君。」
パァっとわかりやすく顔が晴れる。
「なーに?」
笑顔で返事が来た。何故こんなにかわい、じゃなくて嬉しそうなんだ。
「俺ぶん殴られない?初対面の前にぶっ飛ばされたんだけど。」
「んー。大丈夫だよ!たぶん!」
行きたくねー。行くのを拒否する間もなくマスターのところに着いてしまった。
「お姉ちゃーん。」
「おお、クロア。どうした。」
アイリスさんがこちらを向く。そして手を繋いでいるのを見て怪訝な顔になる。
「もうそんなに仲良くなったのか?」
「うん!ね!」
そんなに笑顔で向かれると否定しづらい。
「そ、そうね。」
多分引きつっている笑顔で対応し、マスターの方を向く。部屋に帰りたいと言おうとしたら、
「そうだ。あなた、皆さんに挨拶はしましたか?」
「いえ、まだですけど。」
ぶん殴られた後は医務室に行って、戻ってきたら直ぐに食事会だったし。
「そうですよね。皆さん、彼が先ほど言った私の使い魔、レイトです。こちらの方々はロンナ国の王女様達。お隣のクロアさんのお姉さん方です。」
「はじめまして。神藤玲斗です。よろしくお願いします。」
「レイト、でいいんだってお姉ちゃん。」
いいけど先に言わないでほしいな。
「はじめまして、レイト君。私はアイリス!先程はすまなかったな。私の姫に会いたくて仕方がなかったんだ!それに姫に人間の使い魔が出来たと聞いてその実力を試したかったんだ!」
いちいち挙動が王子様系のキャラクターみたいだ。
「ニーナだよ!よろしくね!」
元気っ子なニーナさん。マスターの事を後ろから抱きしめている。体格差のせいで大人と子供になっているけど。
「俺はトライルだ。よろしくな。」
言葉が強いわけではないが、なんか主張が激しそうなトライルさん。三者三様だ。
「僕はクロア、だよ!」
左側にいるクロア君が自分を指さしながら自己紹介をした。...知ってます。
「ふむ、うちのクロアと随分仲が良いんだな。」
繋いでいる手を見ながら言ってくるアイリスさん。
「うん!」
もの凄い笑顔でうなずくクロア君。懐かれたなぁ。
「ふふふ。いいじゃないか。仲が良いのは。」
「レイト。あなたのことは伝えてあります。」
「ってことは、」
「ああ、君が記憶喪失だというのは聞いている。」
「だから強くもなさそうなのに俺たちを見ても怖がらないのか。」
ナチュラルに弱いと言ってくるトライルさん。
「鬼人族って怖がられてるんですか?」
「ま、この図体だからな。魔族の中でも大きい部類だから大体のやつらには怖がられるぜ。」
そりゃそうか。
「レイトは記憶喪失との事だが、自分の魔法は使えるのかい?」
アイリスさんがこちらを見てくる。
「使い魔ということは姫の魔法は使えるんだろう?君はどんな魔法を持っているんだい?」
「あー、そのー。」
横目でマスターに助けを求める。
「彼は召喚の影響で自分の魔法が使えないんです。」
「なんだと?」
怪訝そうな顔になるアイリスさん。
「加えて言うと元々魔力に耐性が無いようで、私の魔力に耐えられなかったんです。ですのでメイガスに協力してもらって一割の魔力と契約をしているんです。」
「それってー。」
「使えねえ使い魔だな!」
トライルさんの言葉がぐさっ!と心に突き刺さる。
「せっかく姫が使い魔を召喚したってのに、こんなのがきてるとか。なあなあ姫。俺を使い魔にしないか?」
「私がなるよ!」
ぐいぐいとマスターを取り合う二人。
「ふふふ、私も名乗りをあげようかな。さて、姫が使い魔を召喚したということは戦力が必要ということだろう。だがその使い魔が魔法が使えず、耐久は人間並み。」
並みっていうか人間そのものです。
「そんなやつに姫を任せるわけにはいかないぜ!」
「ではどうするんです?」
ずっと聞いていたマスターが入ってきた。...なんか不機嫌?
「ああ、姫!そういうことじゃないんだ!ええっと、そうだ!こいつを鍛えてやるよ!」
多分本気で使い魔を変わろうとしたんだろうけど、マスターが不機嫌になって話を変えたな。
「そうだな。今回の目的の中で、彼を鍛えることもできるだろう。」
「目的ですか?」
「魔獣って、知って、る?」
首を傾げながら聞いてくるクロア君。いちいち仕草が可愛らしい。
「ああ、なんか凶暴化しちゃった魔族でしょ?」
「そう。魔獣が増えてきて、それを一緒に倒そう、って話なんだって。」
「ロンナとディスブルの間の山岳で様々な種類の魔獣が増えてきてな。ディスブルと共に掃討しそうと言うことになったのさ。」
「そんな国同士が一緒に倒さないといけないほど、数が多いんですか?」
「多い。それに、鬼人族では倒しにくい奴らもいてな。」
少し伏し目がちに言ってくるアイリスさん。
「ま、俺達は姫に会いたくて着いてきたんだけどな!」
「うんうん!」
あの二人はおまけらしい。
「細かい事は明日話そう。今は楽しい食事会中だからな。」
「うん、そう、だね。行こ、行こ!」
クロア君に手を引かれて会場内を練り歩く。色々な食事を少しずつ食べたけど、やっぱり頬が痛い。
「ごめんね。お姉ちゃんたちが変なこと、言って。」
マスター達から離れたところで謝ってくるクロア君。
「悪い人じゃないってわかってるから大丈夫だって。」
心にはささったけど。
「うん。ニーナお姉ちゃんとトライルお姉ちゃんは、サリヤさんのことになると周りが見えなくなる、から。」
「シルビアさんといいマスターはモテモテですねぇ。」
「シルビアさん?」
「竜人族の王族の人ですよ。クロア君達と同じ王族。」
「僕たちは王族じゃないよ?」
「はい?でもロンナ国の代表の鬼の人の子供なんでしょ?」
「そうだよ。僕たちは族長の子供、なんだよ。」
「族長...。」
「ロンナ国には王がいないの。そのかわりが、族長。」
まあ、そういうのもありなのかな?
「王様がいないのは鬼王にけいいを表してるん、だって。」
「きおう?」
「おとぎ話の中の鬼の王様、なの。大昔に悪い悪魔に追いやられて、鬼達がめつぼうしかけていた時にどこからともなく来た鬼が悪魔を倒したん、だって。その鬼が鬼達をまとめて作ったのがロンナ国で、最初の王様になったの。」
「建国のおとぎ話の英雄みたいな人ってことか。」
「うん。その後鬼王は王のざを他の鬼に譲って、何処かに旅に出ちゃったんだけど、その譲られた鬼が「私が王を名乗るなんて、鬼王に申し訳ない」っていって族長を名乗り始めたんだって。」
「はぁー。だいぶ鬼王ってのが凄かったんだな。」
「みたい、だよ。」
「おとぎ話なら本とかあるんかな?メイガスさんに聞いてみよ。」
「後で聞いてみよ?でも、今は、」
はいっとお皿に山盛りのご飯を出してきた。
「美味しそうだし、食べよ?」
こんな笑顔で言われたら、頬の痛みを我慢するしかないのか...。
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