第16話 組手と魔法生成

「さて、帰るか、とどまるか、どうしよう。」


研究室を出て、客間に戻るとマスターからそんな言葉が出てきた。


「っていうとー?」


「元々この国にはシルビアさんに会うためだけにきたの。」


「シルビアさんに?なんで?」


「あなたを会わせるため。同世代で私の魔法とは毛色が違う魔法を見せたかったってこと。」


「わざわざ隣の国に来てまで?いや、めっちゃありがたいけど、そこまで?」


「ええ。あんたは魔法、っていうかこの世界に関しては赤ん坊のようなもの。なので色々な刺激、色々な魔法を見せた方がいいと思ってね。赤ん坊の頃の経験は後の生き方を左右するっていうでしょ?」


「いう、のか?」


「い、う、の。それがなに?あなたと同じ世界から来た異世界人がいて?竜人族が魔獣に変わって?その血の中に人間の血が入っていた?私の経験にないことが起きすぎてパニックよ。」


若干あきれているように言っているマスター。


「なんか、ごめん。」


「なんで謝るの?」


さっきの表情とは一変。キョトンとするマスター。


「私、びっくりはしてるけど、期待もしてるの。」


「えっ?」


「あんたと一緒の境遇の人がいて、今までわからなかった魔獣の手がかりが見つかった。あんたの召喚の事と、魔獣のことが一気にわかるかもしれないって考えたら期待もするってもんよ。」


「マスター。」


なんやかんや気にしてくれてるよな。


「じゃあ、修行にでも行きましょうか。」


「なんでこの流れで!」


「調査の結果をただ待つのは暇でしょ?魔獣のことがわかり始めたら多分修行する暇なくなるしね。」


「...なんか。」


マスターって、


「結構行動力あるよね。」


「はぁ?」


「いや、王族ってそういうイメージなかったから。」


まず王族を漫画とかでしか見たことないけど。


「なにそれ。」


クスっと笑うマスター。


「あんたの常識がどんなものか知らないけど、一回捨ててみたら?文字道理違う世界なんだから。」


行くわよ、と部屋を出るマスターを追いながら、


(なんかマスター元気になったな。)


と思う。


部屋の前で警備をしていたウォルトさんに声をかけるマスター。


「ウォルト。」


「サリヤ様。いかがなさいました?」


「鍛錬場を借りてきてくれますか?体を動かしたいのですが。」


「かしこまりました。」


ウォルトさんはもう一人の魔族に命じてどこかに行かせた。


「サリヤ様。先ほどはお休みをいただきましてありがとうございました。」


「いえ。気持ちの整理は出来ましたか?」


「はい。ひとまず警護任務に集中できます。レイト様。」


「はいっす。」


「命を助けていただきありがとうございました。レイト様のおかげで今こうして警護ができています。」


しっかり目を見た後に深々とお辞儀をされた。


「いや、あれは自分の意思で出たものじゃないですから...、こちらこそありがとうございました。」


しっかりお辞儀をして礼を言う。あの肉弾戦がなかったらどうなっていたことか。


「自分の意思で出すためには、鍛錬あるのみですよ。」


「はいっす。」


「...そういえばウォルト。後で護衛の全員に確認してほしいのですが...」


「はいかしこまりました。それでは...」


2人が話し始めると、蚊帳の外になってしまった。...こうして見るとほんとに部屋の中と外で雰囲気が全く違うな。部屋の中では活発な感じ、外ではかなりクールだな。氷月はずっとクールな感じだったけど、マスターの方が人に関心がある。っていうかあいつは周りに関心がなさすぎた。なんて言うか大人びてたっていうか、精神年齢が高かったなうん。


「サリヤ様!鍛錬場を借りられました!」


鍛錬場を借りに行っていた青毛の狐の魔族の人が戻ってきた。身長が2m近くあり、すらっとしていて、かなりのイケメンだ。


「では、行きましょうか。」


狐さんについて行き、鍛錬場に向かう。



少し歩いて着いた鍛錬場。両開きの扉は俺より一回り、二回り大きい。っていうかこの世界の扉は大体でかい。魔族用だかららしい。人間と違って魔族とひとくくりにしても体の大きさが色々と違うからのようだ。中は体育館のように結構広い。所々床や壁が焦げているのは竜人族の人たちが炎を操る種族だからだろうか。


「さてと。」


4人が中に入ったところでマスターがこちらを向く。


「あなたはウォルトとここで見ていてください。ハリス。組手の相手をしてください。」


「かしこまりましたぁ!」


元気な返事をしてマスターについていくハリスさん。


「レイト様。壁際に行きましょう。巻き込まれては危険です。」


「はいっす。」


様ってのはどれだけ聞いても慣れない...。


「ウォルトさん。組手って魔法をぶつけ合うんですよね?」


「その通りです。」


「それって危なくないですか?仮にも王族でしょ?」


ウォルトさんは少し呆れたように


「私たちも止めました。サリヤ様に万が一があったら危ないと。ですが、「いざというときに自分を守るため。」と言われてしまい、それを否定するとサリヤ様が倒されてもいいと言ってしまうことに...。」


「それはだめですもんね...」


今の言い方で言われた時の苦悩が分かった。


「ですが流石はサリヤ様。私達が手を抜かずに組手をしても勝ってしまうのです。」


「強いんですね。」


「はい。お強いです。ただ、それも右腕があったころの話なんです。」


「えっ?ってことはそれ以降は、」


「組手をしていないんです。今回が久しぶりの組手なんです。ですから不安があります。」


ウォルトさんがハラハラしているのが目に見えてわかる。


「一年もしていなかったのに何故今になってしようとしたのか、私にはわかりません。」


「そうっすね。相手のハリスさんはどんな魔法を使うんですか?」


「彼は雷魔法と雲魔法を使います。狐魔族は雷魔法を使う一族で、彼固有の魔法が雲魔法です。」


「雲?雲って空の雲ですか?」


「そうですよ。雨を降らす雲です。」


「そんな属性もあるんすね。水とか炎みたいな単純な属性だけかと思ってました。」


「サリヤ様やシルビア様はそういう感じですもんね。結構細かく属性がありますよ。特異なのでいったら粘土属性の魔族なんかもいましたね。足をとられて大変でした。」


「色々あるんだ...。」


「...組手が始まるようです。私から離れないでくださいね?」


はい、と返事をしようとしたがピシャア!ととんでもなく大きな雷が落ちる音がした!組手の方を見ると、


「はっや...。」


口で説明するには早すぎる程の戦いが繰り広げられていた。マスターは雲から出てくる雷を氷や黒い盾で防御していて、ハリスさんはマスターを囲むように魔法を発動させながらマスターの周囲をとんでもないスピードで回っている。


「ハリスさんはっや。」


「狐魔族は足が早いのが特徴ですから。身体強化魔法を使わずともあれぐらいは早いです。サリヤ様はスピードでは敵わないのでとどまって対応してますね。」


「マスターのあれより早いのか。」


前に見せてもらったあれより早いのとは。しかもそれを制御できるって、俺には無理そう。


「それに雷魔法は威力をそのままでその場にとどまらせるのは難しい魔法なんです。」


「そんな特徴があるんすね。」


「しかしハリス君は雲の中に雷魔法をとどめておくことで、少しの間威力をそのままにその場にとどめる事ができるのです。そのおかげで一人時間差攻撃ができるのです。」


「そんなことが出来るんですね。うまく属性がかみ合ったのか。...曇ってそんなやつだっけ?」


「違う属性の魔法がかみ合って相乗効果をうむことは多々あります。例えば毒属性と煙属性で毒煙を出したり、風属性と炎属性で炎の竜巻を作る魔族なんかもいました。」


「自由に出来るんっすね。流石にゲームとかとは違うか。」


そんなことを聞いている間にも二人の戦いは続いていた。それでも話の間に状況が変わっていた。ハリスさんが立ち止まっている。というかゆっくりマスターに距離を詰められている。 雷魔法で反撃もしているが防がれてじりじりと詰め寄られている。


「ハリスさん。動かないですね。疲れたのかな?」


「いえ。床です。」


「床?」


床を見ると俺達の近く以外が全て凍っている。


「氷?」


「サリヤ様が床を凍らせたのです。ハリス君の足を潰す為に。」


滑るからってことか。


「ハリス君も打開は出来ないことはないですが、他国の鍛錬場と久々の組手と言うことで遠慮しているのでしょう。」


「打開策あるんだ。そういう戦略がわかるっていいなー。」


「こればっかりは経験が物を言いますから。」


ウォルトさんは更に何か言いたげだったが、口を塞いだ。多分早く記憶を取り戻せって言いたいんだろうな。...めっちゃ心苦しいわ!


「まいったっす!」


ハリスさんに巨大な氷の槍が何本も突きつけられている。全部マスターが持っていたような槍と同じ形のところを見ると、あれがマスターにとってイメージしやすい形なんだな。


「流石はサリヤ様。久しぶりの組手でも余裕の勝利でしたね。」


「そんなこともないですよ。前より魔法を放つ速度が落ちました。右腕を無くしたのは大きいですね。」


ない右腕を見ながらこちらに来るマスター。


「それでもめちゃくちゃ強かったですよ!何を撃っても防がれるし!じりじり追い詰められるし!流石サリヤ様です!」


見た目に反してすごいテンションが高い。見た目はクールな感じで、話すとテンションが高い人になるギャップが凄い。


「あなたも前より早くなっていましたよ。日々の鍛錬の成果ですね。」


「ありがたきお言葉!このハリス!感無量です!」


尻尾を振って嬉しいのをアピールするハリスさん。こういうところは普通の狐と同じだな。


「さてと、私は感覚を戻せましたので次はあなたです。」


と言いながら俺を見るマスター。


「あなたの感覚をとり戻りましょうか。」


記憶喪失っていう体ですもんね。


「魔法を出す感覚は最近やったのでわかるはずです。」


「そう言われても、」


その魔法を出した時って気絶して思い出せない時と、思い出したくない時なんですが。


「やったことを思い出すだけなので、大丈夫でしょう。」


「いやー、聞いた話だと思い出すのも大変なんじゃ。」


難しいことではないとばかりに言うマスターと、乾いた笑いと共に言うハリスさん。


「まあとりあえずやってみてください。何が起きても何とかしますから。」


そう言われてとりあえず前に出る。マスターにそう言われるとなんか大丈夫な気がしてくる。説得力が凄い。


「ふーー。」


深呼吸を一度して、目をつぶって魔法を出したときの事を思い出す。2回目の時は完全にとっさにだったから1回目を思い出そう。まず、魔力を全身に巡らせたな。


「はぁーー。」


やっぱり魔力を巡らすと全身が冷たくなるな。あの時のことを思い出す。サラマンダーが飛び掛かってきて、咄嗟に右手を前に出して、


「......」


で確か右手に力が入って、全身の冷たさが右手に集中する。


「魔法はイメージ...。」


マスターは魔法の発動に必要なのは頭の中でのイメージと言っていた。イメージする。...何を?と、取り敢えずマスターが使ってた氷の槍をイメージするか。冷たいのが指から出ていく感覚がやってきた。冷たさがなくなったのでゆっくりと目を開けると、


「お、おお!」


氷の槍が出来ていた。感動したのも束の間氷の槍は直ぐにボロボロと壊れていってしまった。


「アイスランスを出した後のイメージが出来ていませんでしたね。」


とマスター達が近づいてきた。


「後のイメージ?」


「えぇ。魔法を使う時は魔法を生み出すイメージと一緒に、それを使うイメージがいるんです。身体強化魔法なんかはそういうイメージをしなくてもいいんですけどね。」


「ってことは出した後の動きも考えなきゃだめなのか。」


めんどくさ!!


「めんどくさ!って思ってますね!」


心のうちを呼んでくるハリスさん。怖いわ。


「使うイメージは魔法を使い慣れれば自然と出来ると思いますよ。アイスランスなんかは直進するしかイメージ出来ないでしょう?あれがブーメランみたいに回転するイメージは普通起きないはずです。」


まあ確かに。


「後、こめる魔力量も気を付けなければいけませんよ。」


「えっ、まだあるの?」


「先ほどのアイスランスは直ぐに崩れたでしょう?あれはこめた魔力が少なかったからなんです。形ある魔法なら直ぐに崩れて、凍らせるような魔法ならそれが直ぐに終わったりですね。」


「こればっかりはどんどん使っていくしかないっすよね。俺の雲魔法なんかも使い始めたときは直ぐになくなったり、逆に魔法をこめすぎて魔力切れになったり大変でしたよ。」


尻尾が下がりながらやれやれという感じで言うハリスさん。


「考えることが多いんすね。」


「...あなたの場合は思い出すのが、と言うほうが正しいですけどね。今日はとりあえず一つの魔法を直ぐに出せるように特訓しましょうか。」


「はいっす。氷魔法ってどういうのがあるんですか?」


「そうですね。あなたに出来そうなのを一通り見せますので、その中から一つ選んでください。」


「はいっす。」


それからマスターは4種類の氷魔法を見せてくれた。

《アイスボール》拳くらいの氷の球が飛び出す。壁に当たると弾けて床に氷の破片が突き刺さった。あれも魔法の効果なのか。

《アイスアロー》何本もの氷の矢が出てきて壁に突き刺さった。本数が多く、曲射も出来るみたいだ。

《アイスハンマー》俺が完全に入りそうな氷のハンマーが上空に出てきて、床に落とされる。床は凹み、周りにはヒビがはいっている。

そして最後は《アイスランス》腕より太く長い槍が一本出てきて、真っ直ぐ飛び、壁に半分以上突き刺さる。どうでもいいけど鍛錬場?とはいえこんなに壊していいのだろうか。


「この4つがわかりやすい氷魔法だと思います。1つ完全に習得してしまえば、後の習得が楽になると思いますよ。」


「了解です!」


その後4つを一通りやってみた。で、


「出来そうなのはアイスランスのようですね。」


少し疑問気に言うウォルトさん。


「そうですねー...。」


少し気まずい様な気がするのは気のせいかな?まあ理由は、


「レイトさん。なんで、アイスボールが出来なくて、アイスランスが出来るんすか。」


俺が氷の球より、氷の槍をうまく作れたからだろう。なんで、氷の球は直ぐ崩れて、氷の槍は飛ぶまで形を保ってたんだろうか。

その後はアイスランスを飛ばす鍛錬をずっとしていた。結局飛ばせるのは2mくらい。形を保てるのは10秒くらいに落ち着いた。飛ばして、的に当てたときは感動が凄かった。やっぱり魔法ってロマンだな!と思っていたら


「あら?」


目の前が真っ暗になった。


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