第14話 少女と夢

先ほどの騒ぎがなかったかのように、城の中は平穏そのものだった。


「なんか、静かな感じっすね。」


一応こそこそとマスターに言う。


「ゼール王の情報統制がしっかりしてるんですよ。」


「SNSで拡散されることないもんな...。」


「?着きましたよ。」


メイドさんや衛兵さんをかわして歩き、ある扉の前についた。歩いていて気付いたがこの国、というかこの世界のドアは全体的に一回り大きい。多分魔族用なんだろうな。


「シルビアさん?サリヤです。いらっしゃいますか?」


ノックをして、呼びかけるマスター。


「サリヤさん!?ちょ、ちょっと待ってください!」


少したって扉が開く。


「どうぞ、サリヤさん。あっ、レイトさん。体調は大丈夫ですか?」


「はい。なんとか。お二人は大丈夫ですか?」


「私は大丈夫なんですけど、ユカリさんが...とりあえず中にどうぞ。」


シルビアさんの後に続いて中に入る。王女とだけあり部屋は広い。窓はとても大きく、その側にキングサイズくらいのベッドがあり、由佳莉さんが寝ていた。


「ユカリさん。ずっと寝ているんです。うなされてるようで、何もしてあげられなくて。」


由佳莉さんの寝顔は苦しそうだ。


「お医者さんの話じゃ、いつ起きてもおかしくないっていうのに...。」


「そうですか...。あなたの考えはどう?」


「どおって?」


「あなたとユカリさんは同じ世界の人間でしょう?その世界での起こし方とかないのですか?」


「んなこと言われても...。」


寝かせる歌は知ってるけど、起こす方法なんてなぁ。そう思いながら由佳莉さんを見ていると、


「シルビア様。ドリスです。今よろしいでしょうか。」


扉がノックされた。


「はい。どうぞ。」


失礼します、と青い鱗の竜人族の人が入ってきた。


「サリヤ様もいらっしゃいましたか。血の解析が少し終わって、報告できることがありましたので報告に参りました。」


右手で敬礼を、左手には紙を持っている。


(...敬礼ってどの世界でも同じなんだな...)


「寝ている人の近くで話すことじゃありませんね。シルビアさん、行きましょう。」


「あっ、はい。レイトさん。ちょっとユカリさんのことをお願いします。」


そう言うと二人は扉の方に向かった。


「......。」


由佳莉さんの方に目を向けると、苦しそうな顔をしながら寝ている姿があった。


「...由佳莉さん...。」


そりゃ目の前で人、じゃないけど爆発して死んだら気絶するよな。


「みんながついてるよ。」


何となくゆっくり頭を撫でながら言う。シルビアさんもマスターもいるし。俺は、役には立たないとは思うけど。


「頑張って由佳莉さんを元の世界に戻すからね。」


「ん、んん。」


少し唸った後、由佳莉さんが目を開けた。


「玲斗、さん?」


「由佳莉さん!起きたんですね!」


「......」


俺の顔を見つめてくる由佳莉さん。


「?おはようございます?」


「玲斗さん。」


「は、はい?」


「...頭を撫でてくれたのは玲斗さんですか?」


「え?今撫でたのは俺ですけど。」


「そうですか。...玲人さんは大丈夫ですか?」


「??はい。大丈夫ですよ?」


「......」


由佳莉さんの表情は暗い。


「あの、」


「ユカリさん!起きたんですね!!」


横から由佳莉さんに飛びつく影。シルビアさんが飛びついたみたいだ。


「おはようございます!ユカリさん!お体は大丈夫ですか?」


「シルビアさん。体を気にするなら飛びついてはだめですよ。」


注意しながらシルビアさんを引き離すマスター。


「はい。大丈夫です。ありがとうございます。」


そういう由佳莉さんの表情はまだ暗い。


「...こちらの話も終わったことですし、ユカリさんには休養がまだ必要でしょうし、お暇しましょうか?」


「あっ、はい。了解です。」


立とうとすると、由佳莉さんに裾を掴まれた。


「?どうしました?由佳莉さん?」


「...玲斗さん。......玲斗さんは私と同じですよね...?」


??何が言いたいんだ?


「...玲斗さん。」


由佳莉さんの顔はさっきよりも暗い。あんなことがあったばかりで不安になって、心が弱っているんだろう。顔を由佳莉さんと同じ高さに下げ、目を見て、


「おんなじですよ。だから一緒に頑張りましょう。」


と励ましの言葉をかける。俺と彼女はこの世界で二人だけの異世界の存在。彼女の気持ちをわかってあげれるのは俺だけかもしれない。だからその気持ちを理解しよう。そして、元の世界に還してあげなきゃ。


「...そうですか。...よかった、と思う私はいけないのでしょうね...。」


少し微笑みながら、そんなことを言う由佳莉さん。ちょっと変な感じなのは気絶から起きたばかりだからだろう。


「じゃあ。」


由佳莉さんに軽く手をふって、マスターと一緒に部屋を出る。

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