第38話 回避と狼王
「がぁぁぁぁ!!!」
咆哮をやめた狼はこちらを睨んでくる。その瞳には先ほどまでの迷いはない。
「とりあえず動きを封じましょう。レイト。魔法は撃てるようになりましたか?」
「はい、氷魔法をちょっとは。」
「ちょっと、は?まさか、あんたは魔法が使えないのか?」
「わかりました。では魔法で狼王の気を引いてください。あなたの存在とかけあわせて乗ってくるでしょう。」
「わかりました!」
「ザーガさん?あなたはとりあえず満足に動けるようになるまでその氷の中にいてください。」
「あ、ああ、わかった。」
俺が魔法初心者とわかりうろたえていたザーガさんだったがそれを俺に聞く前にマスターに氷の中に守られた。それを確認したくらいで狼もといルプスさんが仕掛けてきた!
「ぎゃおお!!」
咆哮と共にマスターと別れてドームを回るように走る。先ほどまでのメイガスさんとの訓練で身体強化魔法がある程度スムーズに使えるようになっていた。メイガスさん曰く
『呼吸をするのと同じくらい普通の事と思って使えば直ぐに使いこなせるようになりますよ。魔法に必要なのは一に心構え、二にイメージです。』
らしい。その言葉の通り魔法を「全く知らない技術」ではなく「当たり前に使う技術」と思い込んだだけで発動が少し容易になった。ただまだ身体強化魔法だけで氷魔法とかはイメージがうまくいかなくて発動が遅いけど。
「うぉぉぉ!!にん、げんんんん!!!」
マスターの予想通り俺を狙ってくる。恐竜映画のように追われる!が俺の心には不思議と恐怖は少なかった。魔法を少し使えるようになったからだろうか?狼から逃げながらも魔法を使う。
《氷よ地面を覆いつくせ アイスグランド!》
詠唱をして魔法を使う!初めて実戦で使った魔法は俺の足から伝わり、イメージ通り地面を凍らせることが出来た。詠唱に決まったものはなく自己流でいいらしい。さっきは詠唱せずにうてたが、イメージにはまだまだ詠唱が必要だ。
「がぁ!」
薄く張り、狼の重心をずらそうとした氷はその効力を発揮する前にお手により粉々に破壊されてしまった!
「流石に滑ったりしないか!」
氷を破壊し直ぐに雷の玉を用意したルプス!
「やば!!」
《氷よ壁となれ アイスウォール!》
手を地面につけ詠唱をすると自分と狼の間に氷の壁が出来る。その壁は狼の一撃を防いだ後砕け散った。
「うわぁ!」
その破壊の余波を受け少し吹き飛ぶ。その間にも狼は距離を詰めてくる!
「うぉ!!」
距離を開けるように後ろに飛ぶが突撃してくる狼!そのスピードは車以上だが魔法を考えられる!
《氷よ壁となれ アイスウォール!》
もう一度氷の壁を張るが体当たりで破壊されこんどは弾けた氷で腕を切った。
「いって。ってやば!」
傷を見るために腕に目線を落としたすきに狼に間合いを詰められていた!
「くっ!!」
強烈なお手をしてきたので身体強化をかけ腕でガードをする!ドガァ!と生き物が出せるとは思えないほどの音を出して俺は吹き飛んだ!
「ぐはぁ!!」
そしてその勢いのまま雷のド-ムに叩きつけられてしまった!
「ぐっ、あぁぁぁぁ!!」
ドームにぶつかると雷の痺れが襲ってきた!突き抜けることはなくその場に崩れ落ちる!痺れは取れてきているが迫りくる狼には対処できない!口を大きく開けて突っ込んでくる狼!
「はぁぁぁぁ!!」
そこにザーガさんが割り込んできた!
《サンダーシールド!!》
雷の盾で突進を受け止めるも俺の目の前まで押し込まれてしまった!
「ザ、ザーガさん...。」
「早く、立つんだ!!長くは耐えられない!!」
「そうは、いっても...。」
まだ痺れが残っていてうまく立つことができない...。狼の頭上に雷の球が出現し、そこから出た雷が盾を攻撃する!ザーガさんがそれに押されている間に狼が距離を取り口を大きく開け、口の中に雷を溜め始めた!
「これはまずい!!」
ザーガさんは慌てているが狼から押されているのか盾を解除して逃げることが出来ないようだ。
「がぁぁぁぁ!!!」
雷のビームが俺たちを襲う!!轟音とともに着弾し一気に押された!
「うぉぁ!!」
なんとか踏ん張るザーガさんだったが、だんだんと押されていく!
《ダークパルチザン》
俺たちを押していた狼に黒い槍が突き刺さった!!
「ぎゃおぉぉぉ!!」
先ほどまではこちらの攻撃を全く気にしていなかった狼が初めてよろけた!
《アイスクラッシュ》
その隙を見逃さず狼の前に氷の塊を出し、破裂させた!
「ぐぉぉぉ!!!」
後ろと前から攻撃をくらった狼は少しよろけていたが、直ぐに立て直し盾に体当たりしてきた!!
「くっ!!にげろ!!」
ザーガさんが叫ぶと同時に盾が割られてしまった!前にいたザーガさんをはねとばして俺に向かってきた!!
「やばっ!!」
逃げようとしたが足が痺れて動かない。口を大きく開けて突進してくる狼に対して氷の盾と身体強化魔法を使い受け止める!!
「レイト!!」
盾ごと壁まで押し切られる!!強化のおかげで感電は抑えられているが前からの圧が大きく跳ね返せない。押されすぎて口の中に入っている気さえする。
「ん?」
切羽詰まった状況にもかかわらず俺は狼の口の奥に目がいっていた。
「人??」
口の中ということ、魔法が発動しているということによりよくは見えなかったが、
「ルプスさん、なの?」
薄暗い中に見えるその人影は弱っている顔だった気がした。攻め込んでいる暴君ではなく何かを後悔し、懺悔し、悔やんでいる暗君のような。
「.....」
口が動いている?
「..ない。」
誰かに語りかけている。
「...すまない...」
ドゴォ!!
口の外側から轟音が聞こえ、狼の体が右へ傾いた。その体に黒い球がめり込んでいた。
「こっちへ!」
左を見るとマスターとその周囲に黒い球が何個か浮いていた。痺れる体に鞭をうちマスターのところまで跳んでいく。
「食べられていましたが無事のようですね。」
傷がない俺を見て言うマスター。
「おかげさまで。」
「しかしどうやって大人しくさせましょうか。あれも時間稼ぎ程度にしかならないでしょう。」
その視線の先には複数の黒い球に翻弄され、少しだが傷を負った狼がいた。傷を負っていても楽観視はできない。
「ザーガさん。」
「なんだ?」
「ルプスさんって左目に縦に傷があって、右耳がちょっと欠けてますか?」
さっきの狼の中にいた人の特徴を伝える。
「?あ、ああ。そうだが何故それを知っているんだ?会ったことがないだろう...?」
「あの狼の口の中にその人がいました。」
「口の中?」
「そこにルプス様が??」
「さあ?でもそこにいるならルプスさん自身を攻撃すれば、」
「あの狼を止めることが出来るかもしれない、と。」
「はい。」
3人で狼のほうを見ると魔法による傷が癒えはじめ、戦う準備を始めている。
「ルプス様の本体を攻撃するのか...。」
「あれは体は狼王であり、意思はそうではないと判断できます。あれを止めるには仕方ないことです。」
「...わかっている。なるべくルプス様に苦痛がないよう協力しよう。」
「ではレイトが陽動、ザーガさんが防御し、私が攻撃をして狼王を叩きます。」
「よし、わかった。」
「...変わらず俺がひきつけなんですね。」
「ええ。先ほどの陽動は良かったですよ。あの調子で私の準備が整うまで逃げて下さい。狼王は魔力を放出しているだけで魔法は使っていません。恐らく使えないのでしょう。単なる魔力の放出なら威力も効力も強くはありません。危なくなったらザーガさんに助けを求めて。」
「了解です!」
「では。」
マスターのその一言で最後の戦いが始まった!
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