第29話 見抜きと答え

あの後地上に戻ったら散らばっていた魔族が集まっていた。他のところでオーク達を倒していたドルファスさんたちがオークの数が想定より少ないことに違和感を感じて集合をかけたそうで、俺たちのグループだけが集まらなかった。それで心配して探しに来たらしい。あのオークの大群は討伐対象のほとんどだったってわけか。集合した時にはオークは大体殺されていたらしいが、マスター達は結構消耗していたようだ。


「アイリス!!」


向こうの方から鬼人族の族長、ラセツさんがやってきた。なんか怒ってる?


「無事か!!」


違った大声で心配しているだけだった。


「はい、お父様。私も彼も大丈夫です。」


ラセツさんはほっとしたように


「そうか!お前がサリヤ殿の使い魔を助けに行ったと聞いたときは度肝を抜かれたが、無事なら良い!では帰るぞ!」


直ぐに踵を返し皆に叫んだ。


「お父様はいつもあのような感じなんだ。気を悪くしないでくれ。」


「わかりました。」


ちょっと怖かったけど。その後は何事もなく城に帰ることができた。帰りの最中アイリスさんにはトライルさんが俺にはクロア君が引っ付いていた。自分で言うのもなんだがなんでこんなになつかれてるんだ?城に帰り、ミールさんのにやにや健康診断を終えてマスターの部屋に戻ってきた。相変わらずつかみどころのないうさぎだ。そして帰り道終始無言だったマスターが口を開いた。


「洞窟でなにかあった?」


「...わかります?」


「わかりやすいからね。」


俺は相当わかりやすいらしい。


「ありましたよ。それで何と言うか、えーと。」


「...へぇ。私には言いにくくて、アイリスさんには言えるんだ?」


「あ、いやそうじゃなくて。言うと前に約束したことと矛盾しちゃうと言うか、何と言うか。」


「そう。今のであなたの悩みがわかったから言わなくていい。」


「はい?」


「その悩みに対する私の答えはこう。」


一呼吸置き、


「あなたがこの世界で生きるために決めたならそうしなさい。よ。」


目を見ながら言われた。


「同じような見た目をした敵と戦うのが怖くなったとかでしょ?あなたのいた世界は人間が多かったから人間と同じ見た目の魔族が傷つくのを見たくないって思ったと。」


「正解でございます。」


「で、それを私に言ったら私の手伝いをするって約束を反故にするかもってことで言えなくて、アイリスさんに相談したと。でもアイリスさんのことだから気にするなって言ったんじゃない?」


「そうです...。自分のやりたいことを突き通せって。」


「でもその考えを突き通すには力が必要。あなたのいたところは平和だったみたいだけどこの世界は違うからね。弱肉強食。魔族って大きなくくりの中でも敵は殺す。殺さないためには殺されない力が必要。だからその力をつける決心をつけて、さっき言おうとした。」


「なんでそこまで...。怖い。」


「私も驚きよ。こんなに相手の考えが読めることなんてなかったもの。そういう意味でも一番相性がいい相手なんでしょうね。」


「もうその通りでございます。なので!これからもよろしくお願いします!」


しっかり目を見返して宣言する。この二日間で自分の考え方が変わった気がする。これからは生きるために力をつけなければ、と。


「はいはい。じゃあこれからはびしばしいくからね。これまで以上に!」


屈託のない笑みを浮かべて言ってくるマスター。


「...今までも俺にとってはきつかったんだけど。」


「何かを成し遂げるためにはそれ相応の修行が必要だからね。メイガスにも協力してもらいましょ。明日から出来るしね。」


「メイガスさんか...。あれ?明日もオークの討伐じゃ?」


「討伐予定のオークはもう殺したから終わり。」


「ああ、やっぱり俺たちの所にいたオーク達でほとんどだったんか。」


「そういうこと。明日は皆で修行でもしましょう。多分鬼人族は乗ってくるでしょう。」


「鬼人族って戦い好きなの?戦闘民族?」


「戦闘民族、という言い方が適切かはわからないけど好戦的ではあるわよ。それが種族の血ってやつ。」


やっぱりそうなんだと思いつつ所々痛い体で寝床についた。この寝床にも慣れてきた。ふわふわだし枕もあるし。一つ難点を言うなら。


「すー....。すー...。」


マスターと同じ部屋で寝るのかドキドキしてしまうことだな。いまさらながらドキドキしてきた。今までは氷月と同じようなもんと考えてたけど、


「違う人だもんな。」


なるべく意識しないようにしないと眠れなくなる。

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