第32話 砦と侵攻

「何故このタイミングで侵攻してきたんでしょう。」


現場に急ぐ中、サリヤは魔王に疑問を投げかけていた。周囲には同じように身体強化魔法を使って走っている魔族が山ほどいる。その速度は自動車並の速度だが、その中でも隊列を組み王族を守るように走っている。


「...さあな。こちら側が弱っている事はない。ということは、」


「向こうが侵攻が成功するとまで考える強い力を手に入れた、ってことですよね。」


「そういうことだろうな。とにかく急ごう。敵はスウド砦に攻め込んでいるようだ。」


「しかし確かあの砦は魔獣対策で魔防壁が張られているのではなかったか?」


「ええ。ラセツ殿の言う通りですが、それはもう破られたそうです。」


「なんと!!では余計急がねば!!」


そういうとラセツはスピードを上げ、隊列の先頭に行き隊を率いていく。


「鬼人族達がいて良かったですね。」


「ああ。」


少しして森を抜けた。抜けた先にはとても大きそうな村がある。そこがスウド砦なのだが、


「砦の中から火が!」


「各自五者一組で別れて突入せよ!非戦闘員の安全確保を優先しろ!」


「「「「はっ!!!!」」」」


それぞれの魔族達が綺麗に別れて砦の中に飛び込んでいく。ここまで連携がとれているのは今までの賜物だろう。魔族が突入した直後、


どぉん!!


と砦の中心の方向から轟音がした。


「私達はあそこに行こう。」


「はい。」


「了解した!!」


王族と近衛兵は砦の中心に向かっていく。道中戦闘の後はあれど双方の死体はないようだった。


「非戦闘員は逃げられているようだね。」


とアイリスは少しほっとしている。


「だが避難場所は中心にある地下室のはずだ。先ほどの音、嫌な予感がする。」


建物が多いためスピードを落として中心部に向かう。少し走ったところで中心部の広場に着いた。そこには噴水があり近くには大きな木製の平屋があったが、もう既に壊されていた。そして壊れた建物を見る形で多くの狼人族がいた。


「狼王!」


その中で装飾を多く身にまとい、青毛で貴族のような狼人族に呼びかけるドルファス。


「おお、これはこれは魔王。久しぶりだな。」


大げさに手を広げ見返してくる狼人族の男。


「鬼王までいるではないか。血がたぎるなぁ。」


「何度言ったらわかる!わしは王ではなく族長だ!」


三つの国の長が一堂に会した!そばにいる従者達は緊張しているのが目に見える。この戦いの大将達がそろっているのだから無理もない。


「狼王。何故侵攻をしてきた。」


「ふん。そこで魔法が出てくるわけではなく、何故と出てくるのが私がここに来た理由だ。」


「なに?」


「原初の魔族とは言葉ではなく戦いで道を切り開いてきた!」


体中から魔力を放出させながら言ってくる狼王。


「それがなんだ!お前は人間や他の魔族との対話を行い、交流を深めようとしているようではないか!そんなことで魔王の威厳が保てるか!!」


そう叫びながら体中から魔力を放出する狼王。その放出で周囲にいた従者が少し気圧されたようだった。


「......。」


「この戦いは古き魔物を取り戻すための第一歩だ!ディスブルを滅ぼし、我らの魂を!心を!全魔族に伝えるのだ!」


「それでやることが何も考えずに侵攻か!考えなしにやってきてどれだけの犠牲を出した!自分の仲間のことを考えていない侵攻!見損なったぞ!」


「我が同胞らも歓喜している!この一歩を!その為に傷つくなら本望だろう!」


「......。」


(なんだ?狼王はこんなにも好戦的で、威圧的だったか?何故今さらそのことで侵攻してきている?)


二人の長の会話を横に考え込むドルファス。


(確かに狼王は古き魔物への原点回帰を目指している。それとは別の人間などと対話で交流を進めている私へ敵対心を持っているのは昔からだ。だが戦いで道を切り開くとはいえ考えなしに行動を起こす愚か者ではない。なにより)


狼王の周りにいる従者をみて思う。


(仲間をおろそかにする愚王ではない。周りの従者の反応もおかしい。狼人族は仲間意識が高く、下の者の意見も聞く王だったはず。何故従者の目はあんなに怯えている?)


「さあ!魔王!鬼王!雌雄を決するぞ!どちらが真の魔族か決めようぞ!!」


そう叫び魔力を放出する狼王。周りの従者も戦闘態勢に入る。


「ラセツ殿。狼王は私とサリヤでやる。周りの者たちを頼む。」


「あいわかった!まかせるぞ!」


お互いの陣営が少し散らばり、戦いが始まる!!


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