第44話 おんぶと帰還

夕方前になり、一団はディスブル城に着いた。俺にとってはとても速かったのだが、マスター曰く行きよりは速度を落としていたそうだ。その事実に驚いている俺は


「ありがとね、クロア君。」


「だいじょうぶ、だよ!」


クロア君におんぶされながらディスブル城に戻っていた。途中までは自分で走っていたのだが木にぶつかったり、枝から落ちたり、足が地面に埋まったりなど身体強化魔法で走るのに慣れていなかったのだ。魔法を使うことには慣れたもののそれを使いこなすには時間と反復練習が必要みたいだ。それを見かねたクロア君が半ば強引におんぶをして帰ってきたというわけ。門の前で降ろしてもらい皆に続く。周りの住民達は魔王やマスターに声をかけてきたりお辞儀をしたりしてきて、それが城まで続いた。城の中に入ると、


「「「「お帰りなさいませ。」」」」


中で待っていた魔族達が一斉にお辞儀をしてきた。


「みなご苦労。怪我をしているものは医務室に行け。ラセツ殿。今回は助かった。あなた方も疲れを癒してくれ。」


頭を下げてラセツさんにお礼を言った魔王。それを制して、


「かまわん!ドルファス殿も今回は大変であったな!終わり良ければ総て良しとは言うが此度の騒動は一件落着だな!」


がっはっはと豪快に笑うラセツさん。


「疲れを癒すという申し出はありがたいが今回は遠慮させてもらおう!我らも国に戻って情報を集めなければいけないからな!それに」


ちらっと俺とマスターの周りにいる自分の子供達を見てきた。


「これ以上子供達がここにると帰りたくないとダダをこねそうなのでな!早めに帰らせていただこう!」


そしてまたがっはっはと笑う。


「わかった。では見送る準備をしよう。」


それを気にそれぞれの一行は帰り支度、送り支度をしていく。


「レイト様。」


後ろから声をかけられる。振り向くとそこにいたのは、


「ティーナさん。」


「あぁ、レイト様ご無事で何よりです。」


近づいてきて俺の体を見るティーナさん。


「...お体は動くようですが大丈夫ですか?」


「大丈夫ですよ。ありがとうございます。」


「レイト様がいなくなった時は驚きましたよ。でもメイガス様がサリヤ様の所に召喚されたみたいだから大丈夫だっていうので。本当にサリヤ様の元にいかれていたんですね。」


「そうなんですよ。いきなり召喚されて、なんか色々大変でした。」


あの戦いを思い出してうんうんと唸る。大変って一言で片付けられない内容だよな。


「ですが、その戦いで魔法のコツを掴まれたようですな。」


視界の外から話しかけてきたのはメイガスさんだった。


「メイガスさん!メイガスさんのおかげで生き延びれました。」


頭を下げてしっかりとお礼をする。盾を出せたのはメイガスさんの特訓のおかげだしな。


「いやいや、私がお教えしたのは基本的なものだけ。それを戦いの中で応用して生き延びたのは間違いなくレイト様の成長の結果ですよ。」


直球に褒められて顔が熱くなる。


「いやー、そういわれると嬉しいっす。」


更に談笑をしていると先ほど解散した魔族達がまた集まってきた。


「鬼人族をお見送りしなければいけませんね。レイト様もこちらへ。」


ティーナさんに促されてお見送りの為に横一列に並んでいる従者の端に並ぶ。


「ではラセツ殿。われわれはここで。」


「そうですな!ドルファス殿もこれから忙しくなりそうですからお体に気を付けて!」


ラセツさんは力強く握手を求め、魔王は紳士的に応じた。


「姫またな!!何かあったら呼んでくれよな!すぐ来るから!」


「直ぐは来れないでしょ。まあ呼んでほしいのは私もだけどね。」


「そうだね。ぜひ呼んでくれたまえ。」


三姉妹がマスターに集まる。そして俺の方には


「レイト、ぎゅー。」


末の弟が来て力強いハグをされた。


「クロア君、痛いよ。」


「あ、ごめんなさい。」


ハグは直ぐに終わったが鬼人族の力強さを改めて俺の体に刻み込んだ。


「レイト。」


「あ、アイリスさん。」


「今回の戦いで君は成長をした。今後の成長も楽しみにしているよ。」


「はい。期待に応えられるよう頑張りますね。」


俺はしっかりとした笑みで返したつもりだったが、アイリスさんは少し怪訝な顔をしている。


「...ふむ。」


「?何かありました?」


「いや、なんでもない。良いペンダントをしているなと思ってね。またね。」


「?あ、ありがとうございます。またいつか。」


握手を求められてしっかりと握手をする。その手は大きくも柔らかかった


「よし!帰るぞ皆のもの!」


ラセツさんの号令と共に鬼人族が撤退していく。遠くに行って見えなくなる時までクロア君はこちらに向かって手を降っていた。

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