第45話 魔力と撃退

「はぁはぁ......」


「やっぱりあなたに渡せる魔力が増えてる。そしてあなたが自身で魔力を生成できるようになっている。」


「いや、あの...」


疲れすぎて鍛錬場の床に倒れていたが、マスターにモノ申そうと体を起こす。


「それを調べるのは、良いんですけど、魔力を使い切る必要は、あったんですか?」


うまく言葉が出ないほど息が荒い。


「ないわよ?前みたいにあなたのお腹を触ればわかるし。」


「じゃあなんで!?」


「初めてあんなに多くの魔法を使ったでしょ?その感覚を覚えているうちに体に刻み込む必要があるの。」


「そういうものなのか。」


「あの戦いであなたは三つの魔法を詠唱破棄で使っていた。アイスランス、アイスシールド。そしてあなたのオリジナル魔法。」


「あれか。」


「あれ。あの戦いはちょっとした極限状態だったから詠唱破棄でイメージが出来ていたと思う。だから普段の戦いでも詠唱破棄で使えるように訓練しときなさい。」


「はーい。」


そう言って床に寝転がる。まだ体力回復には時間がかかりそうだ。


「まあ疲れてる、っていうのはあなたが魔力を生成出来ているって証拠だから。」


「ああ。たしかに魔法を使って疲れたのって最近の事かも。」


「でしょ?前はあなたが自身で魔力生成を出来なかったから私から渡された魔力を消費して魔法を使っていた。でも今は自身で魔力を生成出来ている。自分で魔力を生成するのって体力使うからね。そしてその魔力を変換して魔法を使っている。」


「ってことは俺は氷魔法の適性があったってこと?」


「うーん。そうじゃなくて私の適正をあなたも使えるってことだと思う。だから私の魔力が多く渡されるようになれば闇属性も使えるようになってくる、と思う。」


「確証はないんだな。」


「あなたみたいなイレギュラーの事なんてわからないわよ。とりあえず今のあなたの課題は得意な魔法を作ること、その魔法を直ぐに使えるようにすること、そして魔力の生成量を増やして魔法をたくさん使えるようにすること。そして私の魔力を多く受け取れるようすること、ってところね。」


「多いなぁ。因みにマスターの魔力を多く受け取ったらどうなるの?闇属性が使えるようになる以外にもあるの?」


「簡単に言えば魔法の威力が上がるわ。まあ、直ぐに全てをする必要はないから、ゆっくりとやっていきましょう。」


「はーい。」


その後ティーナさんが水や軽食を持ってきてくれて、休憩と修行を交互に繰り返して日が暮れた。次の日。今日も修行と気合を入れて起きたところにウォルトさんがやってきた。


「昨日の地震の後に魔獣の動きが活発になっているようです。」


との事だった。そこで魔獣の調査をする為に何組か調査隊を出すみたいだ。


「わかりました。私達も出ます。」


とやる気満々の答えが出たマスター。


(でしょうね。)


付き合いは短いが、そう出ることは俺にもわかり切っていた。ウォルトさんもわかっていたのか、


「かしこまりました。ではお二人はこの辺りをお願いします。」


持っていた地図の上辺りを指さして場所の確認を行ったのだ。そしてその場所に向かう道中。


「ねえマスター。」


「なに?」


「なんで俺は魔法を使いながら歩いてるの?」


俺は右手にアイスランスを出しながら歩いていた。


「でかい木とか根っことか、昨日の地震のせいか地割れとかあって危ないと思うんだけど。結構魔法に意識を持っていかれるし。」


「理由は三つ。一つはあなたが今一番得意な魔法を維持し続けることでその魔法に慣れるため。二つ目は森の中を歩きながら魔法を使うことで周囲の状況を確認しながら魔法を使えるようになるため。」


「ふんふん。三つ目は?」


とマスターに聞いた時、


「グルルルル。」


前のほうにある巨木の裏から巨大な何かが出てきた。


「...え?何あれ?」


それは巨大なイノシシのフォルムをしていた。全身の毛が赤黒く艶びやかになびいており、眼は赤黒く光っていて牙は赤と黒が波打っていた。それでいて大きさはこの間の狼王ほどもある。


「三つ目はこういう場合に魔法を使って撃退出来るようにするため。」


「撃退?あれを?誰が?」


「あれを。あなたが。」


「いや、あれって...」


淡々と話すマスターに相手を見るように指を指す。


「めちゃくちゃ凶悪そうだけど。」


そのイノシシはこちらをじっと見ている。


「そうね。多分魔獣化して長いんでしょう。残念だけど殺すしかない。全力でかかりなさい。」


「は、はい。」


槍を構えたとき妙なことに気が付いた。


「マスターも戦うんだよね?」


「いいえ。あなただけで戦ってね。」


そう言うと一瞬で高い枝の上に移動してしまった。


「え?そんな急に」


「ブロォォォォォォ!!!」


マスターの言葉に驚く間もなくイノシシが突っ込んできた!!


「くっ...。」


辛うじて槍を盾に突進を受け流す。


「あぶな!!」


向きをこちらに合わせた魔獣と目があう。何を考えているかはわからない。だがわかるのは


「ブォォォォォォ!!!!」


戦わなければやばいということだ。

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