第7話 龍の国と使い魔
次の日の朝はレイトの驚きから始まった。馬車は元の世界と同じような物だったがそれを引く馬の足が八本あったのだ。スレイプニルと説明を受けるレイト。それは移動に特化した馬で、更にスレイプニルや馬車に魔力を込めて早さと耐久を両立しているのだ。そのおかげでまったく休まずに走れるので目的地に早く着けるようだ。しかしその魔法はおいそれとつけられる代物ではなくほぼ王族専用となっているようだ。そんな馬車で出発したはいいものの凄い速さで走っているせいで景色が全然見れなかった。レイトとしては初めての外出で景色を楽しみにしていたのだが全くわからず、森ばかりという事しか分からなかった。その速さに圧倒されるていると馬車が止まり御者が着いたと教えてきた。サリヤに続いてレイトが降りると、
「サリヤ皇女様。お待ちしておりました。」
出迎えてくれたのは二足歩行の龍だった。ディスブル城と同じように町の回りを高い壁で囲っていて、目の前にはとても大きな門があった。龍というより翼が生えたリザードマンという印象を受けるレイト。
「ご苦労様です。出迎えありがとうございます、サイル殿。」
「長旅お疲れ様でした。サリヤ様。護衛隊の方々もお疲れ様です。…そちらの方は?」
「彼は私の使い魔です。記憶喪失なので多少の無礼を許してください。」
「そうでしたか。人間を召喚されたというのは本当でしたか。サリヤ様の使い魔ならば歓迎いたします。それでは立ち話もこの辺で。」
というと門の方を向いた。それと同時に門が大きな音をたてて空いていく。空いた先にいたのは…。
「お久しぶりです!サリヤさん!」
銀髪の長髪が綺麗な少女だった。周囲の龍人族と違い人間のような外見をしている。だが顔の所々に鱗があり、普通の人間とは違うというのをわからせれた。
「シルビア様!城で待っているという話では!」
「サリヤさんがいらっしゃるのに待っている事なんて出来ません!お久しぶりです!」
と一目散にサリヤに近寄ってきた少女。
「お久しぶりです、シルビアさん。元気でしたか?」
「はい!サリヤさんもおかわりなく!あれ?そちらは?いつもの方々に加えて新しい方がいるようですが。」
「彼は私の使い魔です。レイトと言います。」
「どうも。」
「そうだったんですか!はじめまして、レイトさん。私はシルビアです。よろしくお願いします。」
と深々とお辞儀をされたので慌ててお辞儀を返すレイト。
「シルビア様。そろそろ。」
「あっ、そうですね!サリヤさん!行きましょうか!」
シルビアとサリヤが先頭を歩き、その後ろに護衛と一緒についていくレイト。レイトは街の住人を観察しながら歩いた。鱗の色や翼やしっぽの形の違いはあれど同じ種族のようだった色などが違うのはそれぞれの個性みたいなものだろうと結論付けるレイト。
(そういえばティーナさんに聞いた話だと龍人族は炎魔法と変身魔法しか使えないけど、龍になったら人それぞれ色々なブレスを吐けるって言ってたな。魔族によって特徴が違うんだなぁ。)
「そういえば、サリヤさん。ティーナさんはお元気ですか?」
「元気ですよ。今回は色々あってこれませんでしたが。」
「そうでしたか…。」
更に街を観察しているとレイトはサリヤの言葉の意味を理解した。この世界、というか魔界には人間の姿をした者はほぼいないのだ。この国で言えば殆ど人間で一部だけ龍というのはいるが完全に人間なのはサリヤ以外はいない。シルビアも人間とは少し違うのだ。一行が歩いていると入ったときは遠くに見えていた城の門が見えてきた。この城やディスブル城は中世の城のイメージそっくりの城。二つの城は同じ建て方のようだったが大きく違うことが一つあった。
「……なんであんな穴が空いてるんだ?」
「この国は龍人族の国ですからね。」
レイトの疑問に答えたのは護衛部隊の隊長、イフリートのウォルト。猿の筋肉が太くなったような見た目で手首や足首の辺りには炎を纏っている。
「どういうことです?」
「龍人族は変身魔法で龍になることが出来ます。急務の時に龍になった状態で城に出入りするにはああいった空に出られる場所が必要なんです。」
「なるほど。実用性を考えて城を作ってるんですね。」
「…当たり前です。」
大きな城門をくぐって格式高そうな階段を登っていくと室内にしては大きな扉についた。
「ちょっと待ってて下さい!」
シルビアが扉に入っていったのを確認してサリヤがレイトの方を見る。
「今から会うのはこの国の王様です。くれぐれも失礼のないように。」
「はいっす。」
「…まあ話すことはないでしょうが。」
「お待たせしました!どうぞ。」
シルビアに促され中に入る。中は大きな部屋で右側には壁が無く外が丸見えだった。先ほど外から見えていた穴だ。目の前の玉座にはいかにも王様みたいな服を着て片目に眼帯をしている龍人族がいた。シルビアはサリヤ達に軽く頭を下げると王様の右手側に歩いていった。その先には
(……剣道着に竹刀?というか見た目が完全に日本人の女の人なんだが…。魔界で人間の見た目なんてそうそういないんじゃ?…後、どっかで見たことあるような。)
「ようこそ、サリヤ殿!お久しぶりですな!」
「お久しぶりです、ゼール王。お元気そうでなによりです。」
「サリヤ殿も元気そうで!そちらはまさか?」
「彼はレイト。私の使い魔です。」
「はじめまして。」
「ほぅ。まさか人間の使い魔ですか?シルビアの使い魔と同じですな!良い理解者になれるといいですな!」
それを聞き横目で剣道着の少女を見るレイト。違和感の正体はそれだったのだ。
「使い魔同士の話は後程させるとして、今回はどのようなご用件で?」
「おお、そうでしたな!大したことではありません。是非ともシルビアと修行をしてもらいたいと思いましてな!シルビアの使い魔は大変優秀でして!サリヤ殿も使い魔を召喚されたと聞きご一緒に修行をと思いまして!」
「そうでしたか。断る理由はありません。こちらこそよろしくお願いします。」
「ありがとうございます!それでは後は若いのでどうぞどうぞ!シルビア案内してさしあげなさい。護衛部隊の方々もおくつろぎ下さい!」
「ありがとうございます、お父様!それではサリヤさん!行きましょう!」
「はい。ご厚意に甘えさせてもらいます。」
全員で一礼した後部屋を出る。
「それにしてもシルビアさんも人間を召喚していたとは。」
「はい!最初は驚きましたけど、ユカリさんは凄く強いんですよ!」
「そのようですね。 彼女はどこの出身で?」
「それがわからないんですよ。ね、ユカリさん!」
「はい。私のいた所には魔界や魔法はありませんでした。シルビアさんの様な方々もいませんでしたし…。」
「…もしかしたらあなたと同じ所から来たんじゃない?」
「かもしれないです。」
「えっ!?レイトさんも魔法が無いところからきたんですか!?」
「はい。違う世界から来たんです。日本って所から来ました。」
「日本ですか!?私もです!京都です!」
それを聞いたレイトは飛び跳ねてしまったと思うほど驚いた。
「本当ですか!俺は神奈川です!まさか同じような人がいるなんて思わなかった!」
「……そうですね。どんな縁があったんですかね。」
「まあ、おいおいわかっていきますよ!さ!着きましたよ!」
と案内されたのは屋外の運動場。
「まずサリヤさんに私の成長を見てほしくて来ちゃいました!」
「そんなに張り切らなくても…。」
「まあまあ見ていてください!」
サリヤらを遠ざけ腰から水色の杖を取り出し、杖をふると音もなく…。
「ほぉーー。」
レイトはその幻想的な光景に目を奪われた。元の世界のテレビで見たオーロラや流星群などとは違うリアルな光景。現実かわからなくなるような芸術。……水が舞っていた。杖から出た水がシルビアの周りを飛び回る。時に離れ、時に纏まり飛んでいる。
「シルビアさんの魔法は本当に綺麗なんです。私がこの世界に来てパニックになった時に水魔法で舞を見せてくれたんです。私に魔法を信じさせつつ、落ち着きを取り戻させてくれたんです。」
「……こんなの見たら信じちゃいますね。」
「彼女の使う水魔法はオーソドックスなだけに個性がでやすいんです。」
「水魔法……。じゃあマスターの氷魔法とは相性が悪いんですか?」
「単純なぶつかり合いでは私に分がありますけど、彼女の技術を見てもそう言えます?」
「まあ、あんな風に四方八方から来たら対処が難しそうですね。」
「そうでしょう?…でも昔、お互いに魔法が拙いときに彼女の魔法を全て凍らせてしまった時があったんです。そのせいで私に対するある種の劣等感というか、崇拝というか、とにかく私の事を上だと思ってしまっているんです。」
「だからあんな感じなんですね。今はシルビアさんの方が上なんですか?」
「………そんなものはやってみないとわかりません。後、あなたは私の使い魔なのですから主人を下に見るような発言は控えてください。」
「あっ、すいません。……ていうかシルビアさんって龍人族ですよね?炎魔法しか使えないって話じゃ?」
「シルビアさんはちょっと特殊なんですよ。だからこそ使い魔を召喚したというか…。詳しい事は本人に了解なしでは話せません。」
「了解です。」
話していると魔法を終わらせたシルビアがやってくる。
「サリヤさん!どうでしたか!」
「前より美しく、華麗になっていましたね。流石シルビアさんです。」
「!ありがとうございます!」
二人は崇拝っていうより子犬と飼い主のような関係性のようだ。
「そういえば、シルビアさんの使い魔の……ユカリさんはもう魔法を使えるんですか?」
「はい。シルビアさんに教えてもらいました。属性の魔法は使えないんですが、私の身体強化魔法は他の人より強化の具合が強いみたいで。それに竹刀を強化する度合いがずば抜けているらしいです。自分ではよくわからないんですけどね。」
「なるほど。じゃあ、あなたにとって竹刀とは自分の身体の一部なんじゃないですか?」
「そうですね。元の世界ではずっと持っていましたし、この竹刀のおかげで全国一位にもなれましたし、大切な相棒です。」
照れながら竹刀を見せてくるユカリさん。
「……竹刀……全国一位…。あー!思い出した!ユカリさんって去年インターハイで優勝した神藤由佳莉さん?」
「!そうです!知っていてくれたんですか!?嬉しいです!」
「ニュースで見ましたよー!綺麗すぎる女子高生剣士で、百年に一人の逸材って言われてましたよね!やっと思い出したー!」
「ちょっと恥ずかしいですけど、元の世界の事を知っている人がいると安心できますね。あっ、シルビアさんが怖いとかではなくて…。」
「わかっていますよ、ユカリさん。異世界なんて恐ろしいですもんね。私だったらどうなっていたか。」
「シルビアさんの使い魔で良かったですね。」
「はい!」
その後シルビアはサリヤ達の旅の疲れを気遣い客間で休むよう言った。夜は大広間の様な皆で食べることになったのだが王族もその他の人も一緒になって食べている光景はディスブル城とは違っていてレイトは少し違和感を感じた。
「ゼール王は使用人との繋がりを大事にする方ですから。」
とサリヤからの説明があったが漫画などのイメージがあるレイトにとっては簡単には受け入れ出来なさそうだ。夜ご飯の後にレイトと由佳莉は客間に二人きりになっていた。シルビア由佳莉が客間に来た時、シルビアがサリヤの昔の話を始めようとしたときにサリヤに外に連れ出されてしまったからだ。
「あの二人は仲がいいですよね。」
「ですね。マスターの昔の話聞いてみたかったな…。」
「……玲斗さん。」
「はい?」
「玲斗さんはこの世界に居続けたいですか?」
「……まあ今のところはいてもいいかなって感じですね。マスターの助けになりたいし。帰る手段もないみたいですしね。」
「…そうですか。……私は……帰りたいです…。」
「…………。」
「異世界に来てわくわくしてはいます。魔法を覚えて、強くなって。それにシルビアさんや城の人達にも本当に感謝しています。右も左もわからない私に良くしてもらって。…でも怖いのも事実なんです…。ちょっと剣道が強いからって戦いなんてしたくないです。それに…」
少し震えながら話す由佳莉。
「それに?」
「家族や友達に会いたいです。好きな人に好きって言ってないです。だから元の世界に戻りたいんです。」
「……由佳莉さん…。」
「ただいま。」
そこで扉が開き、戻ってきたシルビアは頬が赤くなっていた。
「お、お帰りなさい、マスター。」
「なにを動揺しているんですか?」
「何でもないですよ。ははは…。あ!シルビアさんの頬っぺたはどうしたんですか?」
「聞いてください、レイトさん!サリヤさんが頬っぺたをむにーってしてきたんですよ!痛かったです。」
「シルビアさんが話すと言って聞かないからですよ。」
「お二人は本当に仲がいいんですね。」
レイトは二人の仲の良さを褒めながらも由佳莉の言葉が心に残っていた。
その日の夜。久しぶりのベッドに寝ながら、俺は由佳莉さんが言っていたことを考えていた。契約の時はマスターの顔が悲しそうでつい帰らないなんて言っちゃったけどよく考えるとここは戦いがある世界なんだよな。覚えた魔法も戦うためのもの…。相手を、殺すための魔法……。…急に怖くなってきた。………今日はもう寝よう。今は考えたくない。
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