第8話 戦いと魔獣

「魔獣の討伐…?」


朝食を食べた後、二人が客間で寛いでいるとサリヤがレイトに提案をしてきた。


「そうよ。魔法を身に付けるには実戦あるのみ。特にあんたには戦力になってもらわなきゃだからね。私もいるから大丈夫よ。」


レイトは実戦への恐怖はあったがサリヤがいることで少し安心していた。だが新しく出てきた魔獣という単語にひっかっかってもいた


「?どうかした?流石に実戦は緊張する?」


「緊張というか、…怖いですよ。」


「ああ、あなたの世界にはそういうことはなかったんだものね。無理もないけど、知っておかないといざというときに動けないわよ。」


「それはそうかもしれないですけど...というかこの世界ってそんなに危ないんですか?この国に来るときも襲われなかったし。」


「一応言っておくと道中襲われなかったのは馬車に魔獣よけの結界を張っていたからだから。危なくなったのはここ一年くらいよ。それまでは城下町や町に住む魔物とそれ以外の山や海、まあ自然に棲む魔物で棲み分けができていたのよ。でも一年くらい前から自然に棲む魔物達が凶暴化するようになってきたの。意思の疎通もできないくらいにね。」


「それまでは何にもなかったのに?」


「ちょっとしたいざこざはあれど小さいものばかりだったのよ。でも凶暴になってきてからは村が襲われたり、酷いときは城下町が襲われたりしてるの。だから狂暴化している魔物を魔獣って呼んで大きな国何か国で集まって討伐していこうってなったの。」


心苦しいけどねと付け足すサリヤ。


「なんで凶暴になったんですか?」


「それは調査中。人間のせいって声もあるけど人間界でも魔獣が出てるらしいからそれは薄いと思う。」


魔界以外を知らなかったレイトは人間界があると聞いて少し安心してしまった。


「……ああ、そういえば最近姫が帰ってきたって人間界の国が騒いでいたらしいわね。」


「姫?帰ってきた?」


「なんでもどこか秘境に修行に出ていた姫様が帰ってきたらしいわよ。異世界から帰ってきたなんて噂もあったけどね。あなたの事があったからそれもあながち嘘じゃないかもね。」


「へー。それも魔獣に関係あると?」


「いや?ただ、思い出しただけ。まあその姫が凄腕で魔獣を押し返してるらしいけど。それは一旦置いといて、とりあえず今日は魔獣の討伐よ。準備して。」


「出来てますよー。」


「…準備することないのね…。」


シルビアと由佳莉と合流した後四人は城下町の外に出て、森の奥に歩き始めた


「それでサリヤさん。何を討伐するんですか?」


「そうですね。朝、サイル殿に聞きましたがこのあたりでは最近サラマンダーが多く出るようです。」


「ああ、フロックサラマンダーですね。シルビアさんやサイルさんと一緒に腕試しに倒しに行きました。戦闘力は強くないですが、数がどんどん多くなってきているみたいですね。」


「それを狩りに行きます。あなたが弱いからって気にしないで下さい。私達がなんとかしますから。」


「それはそれは…心強い。」


見た目ではか弱い少女に守られると言われると魔法があるとわかっていてもへこんでしまうレイト。


「サリヤさん。護衛の方は連れて行かないんですか?」


「ええ。人数が多すぎるとサラマンダーが出てこないですから。それに遠くに行くわけでもないので大丈夫でしょう。」


「………。」


魔族の二人はともかく由佳莉がやる気なのが少し不安なレイト。


「由佳理さん。由佳理さん。」


「はい?」


「その、サラマンダーってのはどんなやつなんですか?」


「赤い鱗がついたトカゲのような感じです。後、口から炎を吐きます。」


「炎!?火炎放射みたいな感じ?」


「そうですね。結構小さかったです。最初は怖かったですけど、身体強化魔法を覚えたら平気になりましたよ。」


「……それでも怖いでしょ…。」


「ま、まあ……。そ、そういえば玲斗さんはこっちの空気にはなれましたか?」


「空気?なんか、ノリ的な?」


「いえいえ、そのままの意味の空気です。こちらの世界は空気の中に魔力が混同しているらしくて最初は息苦しくて、動きにくかったんですよね。極端な話水の中みたいでした。」


「そ、そんなにでしたか……。んー動きにくいとかはなかったですね。失神は何回かしたけど…。」


「失神も凄いですね……。」


レイトは今までの記憶を思い出しながら歩く。


「この世界にいるだけで魔力を接種するので慣れるらしいですけど、玲斗さんは慣れるのが早かったんですかね?」


「どうなんですかね?最初から大丈夫だったような。」


「ほら、いましたよ。」


「おお、ってうわ!」


自分の召喚時を思い出しているレイトにサリヤが声をかけた。その指さす方向には赤いトカゲがいる。レイトが驚いたのは色ではなく、


「があああああ!!」


その大きさが大型犬並みに大きかったことだった。


「でっか…。ていうか多!」


加えて数は20匹は程度おり、レイトが考えていたよりは多かった。


「こんなに多いんですか!?トカゲってわりにはでかいし!」


「フロックサラマンダーは群れで生活する種類ですからね。前はもうちょっと小さかったんですが、凶暴化の時期から大きくなったみたいです。」


「突然変異なんですね…。」


トカゲとは思えない大きさと数にレイトが気持ち悪がっていると、


「あなたは後ろで見ていてください。この世界の戦いを見せてあげます。」


と言いながらサリヤは腕を前に向け、


《アイスランス》


と唱えるとサリヤの周りにサラマンダーと同じ程度に大きい氷の槍が現れ、次々と敵を貫いていった。


「……すげぇ。」


「では次は私が!」


《ウォーターウィップ》


魔法を発動するとシルビアの手に水の鞭が握られていた。


「それ!」


鞭は敵に当たっても止まることなく横薙ぎにはらわれていく!


「やっぱり魔法ってすごいですよね!」


「そうですね...やっぱり元の世界とはまったく違いますね。由佳莉さんの身体強化魔法ってあのトカゲ倒せたりするんですか?」


「結構簡単に倒せますよ!玲斗さんも倒せるようになりますよ!」


「は、はぁ...」


ここでレイトは違和感を感じた。


(由佳莉さん戦うの怖いって言ってなかったっけ?)


「ちょっとやってみますね?」


「えっ?」


違和感の元を考えていたレイトが反応する間もなく由佳莉が動く。レイトに見えたのは動いたということだけで、次の瞬間には残っていたサラマンダーの大体が倒れていた。


「これが私の身体強化魔法です!」


「まったく見えなかったんですけど...」


「ユカリさんは魔法による強化が入りやすかったみたいで、最初からすごかったんですよ!」


「なるほど。元々の身体能力が高かったおかげで魔法にうまく対応できたということですか...。岩で気絶したあなたとは大違いですね?」


「すいませんね、貧弱で...」


「じゃあ最後はあなたがやってみてください。」


「はい?」


「一匹残っていますから魔力を使って倒してみてください。」


「いや...まだ全身に魔力を巡らせることしか出来ないんですけど...」


「それで殴ってみては?大丈夫ですよ、後ろには私たちがいます。」


そう言われてレイトが残る二人を見ると頑張ってみたいな目を向けた。レイトも覚悟を決め、ヨシっと気合を入れて前に出るとそこには敵意むき出しで今にも襲い掛かってきそうなサラマンダー。襲い掛かってこないことを祈りつつレイトは全身に魔力を込める。

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