第10話 襲撃と殺し合い
レイトは昔の夢を見ながら目を開けた。
「あっ、おはようございます!」
と横から心配そうな声がかけられた。
「......由佳莉さん...?ここは...」
「ここは城の客間ですよ。サリヤさんと玲斗さんの部屋です。」
「城...、客間……、あのトカゲは…?」
「サラマンダーは玲斗さんが倒したんですよ。覚えてないんですか?」
「...そういえばサラマンダーが飛び掛かってきて、魔力を使って殴ろうとして、それで...倒れた?」
「そこで玲斗さんは魔法を使ったんですよ。大きな氷を出して死んでいるサラマンダー共々凍らせたんですよ。すごい魔法でしたよ!でも氷魔法の練習はしてないって聞いてましたけど何故発動できたんでしょう?」
「なんででしょうね...」
先ほどのことを思い出そうとしていると部屋にサリヤとシルビアが入ってきた。
「目を覚ましたようですね。」
「大丈夫ですか?レイトさん。」
「すいません、迷惑かけちゃって。」
「体温は戻りましたか?氷魔法が暴発したみたいで体がすごく冷たくなってたんですよ...。」
「ちょっと失礼しますね。」
由佳莉がレイトの手とおでこを触る。その手の暖かさに安心感を感じるレイト。
「うん、大丈夫そうですね!倒れたときは凄かったんですよ?本当に氷みたいで。」
「そ、そんなにだったんですか。」
「はい。でもうちのお医者さんの話では魔力も落ち着いていて体温も戻っているみたいなので安心ですよ!」
「ありがとうございます。」
「それではサリヤさん。とりあえずレイトさんには休息が必要だと思いますので私達は自室に戻りますね。またお昼になったら呼びにきます。」
「ありがとうございました。」
二人が出ていった後、部屋は沈黙に包まれた。サリヤのため息があり、
「大丈夫ですか?」
「あっ、はい。なんとか大丈夫です。最初に倒れた時に比べれば動けますし。」
「そうですか…。」
そしてまた沈黙があった。
「……あの、なんかありました?」
「……あなた、本当に大丈夫?」
「えっ?」
「お腹の辺り、冷たいんじゃない?」
「…はい。」
サリヤの指摘通りだった。手足の冷たさはなくなったが、お腹辺りはずっと冷えていたのだ。
「でも、お腹周りが冷たいのは最初からずっとですよ。なんでそんなに変なことでは」
「変ね...。」
「はい?」
「シルビアさんとも話したんだけど元々魔力に耐性がない人...つまりあなたやユカリさんは最初に触れた魔力によってこの世界に順応するんじゃないかって考えがでたの。そしてその魔力に慣れることで自分の魔力を作ることができるようになるんじゃないかって。」
「えーっと」
「つまりあなたは私の、ユカリさんはシルビアさんの魔力を元にこの世界で生きる術を身に着けるっていうこと。」
「はぁ、それでなにが変なんですか?」
「ユカリさんは魔力に直ぐに馴れたのよ。あんたみたいにいつまでも私の魔力に馴れずに冷たくなっているのは変なの。」
「なるほど。なんででしょうかね?」
「それであなたが寝てる間に体の中を確認してみたの。そしたらあなたが最初に触れた魔力が私のじゃないってわかったの。」
「はい?で、でも俺を召喚したのはマスターですよね?」
「そうよ。だから変なの。...でここからが本題なんだけど、あなたの世界で魔力がある人はいなかったの?」
「え?いや、いなかったですよ。」
「本当に?それ以外考えられないのよ。」
「んなこと言われても...」
元の世界のことを思い出しても覚えがないレイト。
「やっぱりないですよ。魔力とか魔法とか使う人なんていなかったし。」
「そう...」
「......あっ、でも...」
「でも?」
「一回だけあったような気も。」
「いつごろ?どんなこと?」
「えっと、あれいつだったっけ、今思うとなんか魔力っぽいものに包まれた気が...」
「......。」
少し唸っていたレイトだったがあきらめたようで、
「すいません、思い出せないです。」
と結論を出した。
「はぁ、まあそのうち思いだして。まだわからないところは色々とあるから後で話しましょう。私はシルビアさんの所に行ってくるから。ウォルトを置いていくから何かあったら言って。」
「了解です。」
サリヤは部屋を出て外にいたウォルトと少し話し離れていった。入れ替わりでウォルトが入ってきて、扉の横に手を後ろに組んで立つ。
「......」
「......」
そんなウォルトにレイトは気まずさを感じていた。
(横になっても眠れないし...、人に見られながら寝たことあんまりないし。)
「......レイト様。」
「は、はい!」
「そこまで怯えずとも何もしませんよ。」
「あ、いや、怯えてるわけじゃ。」
「レイト様は記憶喪失との事ですし、周りが魔族ばかりだと不安に思うのも無理はありませんが。」
「ま、まあ最初は怖かったですけど皆さんには優しくしてもらってますから。」
「人間の大半は魔族を無条件に怖がりますので仕方ないのですけどね。」
「見た目が違いますもんね。ていうか人間ってここらへんにはいないんですか?」
「はい。魔界ですので。」
魔界という言葉に違和感を感じるレイト。慣れるのは先になりそうだ。
「魔界と人間界で分かれているんでしたっけ?」
「明確な境界線などはありません。争っているわけでもありませんので。山脈を境に魔族の国がある側を魔界、人間の国がある側を人間界と区分しているだけです。ただ、人間の大半は魔族より弱いのでこちら側には来ないという具合です。」
「じゃあ、人間界には魔族はいるんですか?」
「ええ、自分の意思で行ったものや争いに負けて逃げて行ったものなど様々な理由で行っています。」
「なるほどなるほど。」
国境よりあいまいなものと自分の中で結論付けるレイト。
「稀に召喚されるということもありますが、まあそれは召喚される側が応じないと駄目なのでほぼないでしょう。」
「応じないと駄目?」
「はい。召喚陣を使われたら問答無用で召喚されるなんてあったら大変ですからね。召喚にはお互いの合意が必要なんです。」
「あれ?でも使い魔に選ばれるのって主と一番相性の良いやつが呼び出されるんじゃ?」
「はい、魔法陣が一番相性の良い使い魔を探し出します。しかし家庭などがあったら行きたくないでしょう?」
「まあ、それはそうですね。...俺なんか応じたっけ?」
「あの召喚陣はドルファス様とサリヤ様が作った特殊なものらしいのでそれがなにか関係があるのかも知れませんね。」
「特殊なもの...。そんなの作るなんてマスターと魔王さんってすごいんですね。」
そこでレイトはサリヤの教えのうまさと、魔王の威圧感を思い出していた。
「...なんで特殊なもの?」
「はい?」
「あ、いやなんでもないです。」
「?」
何が特別なんだとレイトが考えていたらドン!と扉から大きな音がした。音がしたと同時にウォルトが扉とベッドの間に入る。扉が少し空くがレイトの位置から人影は見えない。
「え、なに!?」
「レイト様はそちらにいてください。誰だ!!」
腕に炎をまとわせながらウォルトが叫ぶ。
「......」
何も返答がないまま数秒。レイトがあれ?と思った途端、
「がぁぁ!!」
雄叫びをあげながら人型の何かが飛び込んできた!
「はぁ!?」
「しっ!!」
飛び掛かってきた何かの両手を握り突進を止めるウォルト。
「なっ!君は!」
突進を止められた人影は龍人族のものだった。
「えっ!なんで龍人族の人が!?」
「私は彼を知っていますが...こんなに話が通じない感じではなかったですね。」
「じゃあ、なんで、」
「話は後で!」
「ガァァァァ!!」
雄たけびをあげながらウォルトに突っ込んでくる龍人族。
(うるさ!!)
その咆哮はレイトが今まで聞いたことのないもので、耳を塞いでも頭がしびれるほどうるさい。
「せいやぁ!」
ウォルトの炎を纏った右ストレートが龍人族の腹にきまる。レイトが見えたのはそこまでだった。敵が突進を繰り返すのに対し、ウォルトが拳のラッシュをしているのは分かるがどう攻撃をしているのかはわからない。
(これが...戦い...)
さっきのサラマンダーとの戦いは比べ物にならない緊張感に思わず喉を鳴らすレイト。
(これが殺し合い。)
サラマンダーとの戦闘では感じなかったひりひりとした感覚。腹の冷たさとは違う寒気。寒くもないのに自然と体が震えてくる。どういう戦いをしてるのかは何一つわからない。でも、
(怖い...)
恐怖がレイトを包んでいた。
《フレイムスマッシャー!》
ウォルトの右手が炎に包まれ、敵を扉の横の壁まで吹き飛ばす。さっきまでのひりひり感がなくなり、深呼吸をした後、
「大丈夫でしたか?」
とレイトの方を向くウォルト。
「......」
「レイト様?」
「あっ、はい。大丈夫です。」
「彼はゼルシム君。この国の軍の子で、私が来るたびに稽古をつけていました。でもこんな暴れるような子ではないです。まるで魔獣になったようだ。」
「魔獣...。」
「とりあえず衛兵を。」
と言ったその時、入口から誰かが入ってきた。
「どうしましたか!?」
一番に入ってきたのは由佳莉とシルビア。その後ろに衛兵が続く。
「シルビア様!ゼルシム君が暴れだしまして!」
ウォルトがシルビアに状況を伝えようとしたその瞬間、倒れていたゼルシムの体が膨れ上がっているのをレイトは見た。角度を考えるとシルビアと由佳莉は気づいていないようだ。
(あれはやばい!何かまずい事が起きる気がする!)
レイトには今起きてることのほとんどがわからないが、一つだけわかることがあった。彼をこのまま放置しておくのはまずいと!
「!シルビア様!後ろ!」
異変に気づいたウォルトがシルビアの元に向かう。シルビアが由佳莉を庇おうとしてるが動けておらず、衛兵の人達も反応が出来ていない。
(危ない!!)
そう思った時にはレイトは右手を前に出していた。
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