第11話 混乱と動揺

「くっ!」


ウォルトはシルビアの盾になる位置に辛うじて着いた。だが、ゼルシムの体が膨張しているのは止められそうになく、今にも爆発しそうだ。シルビアの盾になれるようありったけの魔力を放出する!


(私の身がどうなろうともシルビア様だけは!)


ドォォン!!


爆音がしてゼルシムの体が爆発する!ウォルトは衝撃が来ることを覚悟していたが、数瞬で来ると思っていた爆発が来ない。力を抜きゼルシムの方を見ると、


「......氷?」


氷の球が出来ていた。中には血が飛び散っていて、ゼルシムを取り囲むように球が出来ていた。


(今この国で氷魔法を使えるのはサリヤ様のみのはず。では、誰が?...魔力の共有が出来るのは、使い魔...)


ウォルトがまさかと思いレイトの方を見ると、


「はっ、はっ、はっ。」


過呼吸気味のレイトが右手を氷の方に向けていた。


(この氷はレイト様が?...使い魔の魔力共有のおかげで氷魔法が打てたのか?しかし、右手を出したままで硬直しているレイト様を見るときちんと詠唱をして魔法を出した、という感じではなく、瞬発的にでたものなのか?。)


「ユカリさん!大丈夫ですか?衛兵さんたちはお父様とサリヤさんに連絡を!」


「「「はっ!」」」


衛兵がそれぞれ分かれる。ユカリはへたり込んでしまっていてシルビアがその介抱をしていた。ウォルトも気を取り直してレイトの元へ行く。


「レイト様。あの氷はレイト様が?」


「えっ?あっ、多分。」


「レイト様が詠唱をしてあの氷を出したのではないのですか?」


「ゼルシムさんが爆発するって思って...でみんなが巻き込まれると思って...それで危ないって思って、それで...」


(完全に気が動転している。)


「何があった!!」


衛兵に連れられサリヤとゼールが入ってきた。


「お父様!サリヤさん!ゼルシムさんの体が爆発して!」


「爆発!?ウォルト!なにがあったんですか!!」


「はっ。サリヤ様が部屋を出た後に、ゼルシム君が部屋に押し入ってきました!その風貌はいつもと違いまるで魔獣のようで、私が無力化したのですが彼の体が爆発してしまい...。」


「さっきの爆音がそれということですか。この氷は?」


「レイト様が出してくれたものです。それで爆発を防いでくれなかったらどうなっていたか。」


「そうだったのか...。ゼルシムが魔獣のように...。なぜだ...。...よし、衛兵!彼の血をこのまま研究班の所に持っていくのだ!班長のトーラス以外には詳細を伝えるなよ。この件に関しては緘口令を敷く!ゼルシムは私の機密任務についていることにする!よいな!」


「「「ははぁ!!」」」


号令を出した後衛兵は直ぐに動き出した。統率がとれており行動が速い。そしてゼールはシルビア達の所へ。サリヤはウォルトの方へやってきた。


「二人とも無事?」


「はっ。レイト様に助けていただいたので。ただレイト様が。」


「...何を呆けているのですか...。」


「いや、だって、魔法を出せたのもびっくりしたけど、人が、爆発する、なんて。」


ゼルシムの爆発を見て混乱してしまったのか、レイトは気が動転している。


「...そうね。落ち着くまで、寝ておきなさい。」


《ダーティスリープ》


サリヤがレイトの目の前に手を置くと、レイトが直ぐに眠りについた。


「また寝かしておいて下さい。」


「かしこまりました。」


ウォルトがレイトをベッドに寝かそうとしたとき、


「はっ!また気絶してた!?」


サリヤの魔法がきいてないかのように跳ね起きるレイト。


「...あなた眠くないの?」


「え?いや全然。」


「魔法がきいてない?とりあえず今は置いておきましょうか。気分はどうですか?」


「え?いや、ちょっと、まあ。」


軽く吐きそうになりながら話しているところを見るとまだ完全には良くなってないようだ。


「さっきまでのは一体なんだったんですか?」


「さあ?ウォルトの話を疑うわけではないですが、いきなり魔獣のようになるなんで聞いたことがないので、まだなんとも言えないですね。」


「そう、ですね。対応した私もまだ実感がないです。まさかあんな風になってしまうなんて。」


「外の者たちが魔獣になる理由もわかってないのに、城内の、しかもゼルシム君ほどの手練れが。」


「血が残っていて良かったです。魔獣になる原因が彼の血からわかるといいのですが...あなたは彼と親しかったですね、すいません。」


「いえ、私のことよりもシルビア様方が無事でよかったです。レイト様、ありがとうございました。」


自分の力では全員を守れなかったと考え、レイトにお礼を言うウォルト。


「あっ、いえ、俺も考えて出来たわけじゃないんで...」


「......」


とそこでウォルトはサリヤが難しい顔をしていることに気付いた。


「サリ...」


「サリヤ殿!!」


シルビアのもとに行っていたゼールがベッドに近づいてきた。それにまったく気づかなかったウォルトは自身の気の消耗に気が付いた。


「シルビアさんとユカリさんは大丈夫でしたか?」


「それがユカリ殿の顔色が悪くなる一方なんです。なので部屋に戻らせます。皆を引かせますのでレイト殿も安静にできるでしょう。」


「わかりました。よろしくお願いします。ウォルトもお疲れ様でした。あなたに護衛を任せて正解でした。ゆっくり休んで下さい。」


「ありがとうございます。」


遅れてやってきた近衛兵達に部屋を警備するよう言ったウォルトは近衛兵に割り当てられた大部屋に戻った。


(あんなことで体が動かなくなるとは、まだまだ修行がたりないな。ゼルシム君...。落ち着いたら供養しに行くよ。)

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