第12話 血と目的

「大丈夫?」


ウォルトが出た後、龍人族の皆も部屋から出て行った。


「なんとか。」


出ていく前にもらった水を飲み、レイトは一息つくことができた。


「この世界では人が爆発するのが普通なんです?」


レイトとしては今思い出しても吐きそうになるほど最悪な光景だった。漫画や映画のフィクションとはまったく違う現実を実感したのだ。


「まさか。あんたからみれば変な世界でも、急に爆発することなってないわよ。」


「ですよね。しかも魔獣みたいになるなんて。ウォルトさんがいなかったらどうなっていたことか。」


「...そうね。ウォルトもそうだけどあなたもよ。」


「え?」


「とっさに魔法を発動してみんなを守ったじゃない。よくやってくれたわ。よく魔法を発動できたわね。」


「何故か発動出来て...。」


「ちょっと見せて。」


サリヤが拳をレイトの腹に当てる。


「順応してる...。」


「順応?それって前に言ってたような?」


「ええ、この世界に順応してると言ったほうがいいかもね。自分で魔力を作り出す事が出来ているってこと。」


「はい??何で?いきなり?」


「わかんない。全く、あなたが来てからわからないことだらけ。」


椅子に座りなおすサリヤ。その雰囲気は嬉しそうだった。


「多分私と同じ氷魔法を使ったことで、急激に魔力に慣れたんでしょうね。体が冷たいのも無くなったんじゃない?」


「あっ、そういえば確かに。マスターと同じ魔法だったから順応が早まったんですかね?」


「だからわかんないわよ。帰ったらメイガスと話さなきゃ。」


魔力の割合も増やせるかもとブツブツ言ってるサリヤを見ながらもう一つの疑問を口に出すレイト。


「一応確認ですけど、あんな風に魔獣になることなんてあるんです?」


「......あるわけないでしょ。」


それまでとは打って変わって神妙な面持ちになるサリヤ。


「ただでさえよくわかってない魔獣よ?」


「...。」


「今回の事が異例だったのか、どうかもわかんないの。」


「......。」


「彼の血で何かわかれば...何?」


「え?」


「なんか言いたいことでもあるの?」


レイトはサリヤの感の良さに驚きながら返す。


「あるっちゃありますけど、」


「言いにくいこと?」


「はい。」


「言いなさいよ。」


「でも、」


「使い魔と主人は殆どずっと一緒にいるのよ?変な勘繰りあいとかしたくないの。」


「はぁ、じゃあ。」


気合を入れて言葉を出すレイト。


「マスターは魔獣になる事について何か知ってるんじゃないですか?」


「...何で?」


「さっき、血が残っていて良かったって言ってたんで。前に血が残らなかった事象を知っているのかなって。」


サリヤの顔は全く変わらない。


「爆発したのは凄い驚きましたけど、人が爆発したら血が残るくらいは俺でもわかりますよ?」


思い出して気持ち悪くなるのを抑えて言葉を続けるレイト。


「でもあの言葉を言ったってことは、」


「血が残らなかった事例を知っているから、ってことね。」


ふぅ、と一息ついて、


「あんた、すごい考察力ね。」


「親友のお陰です。」


レイトは元の世界の幼馴染の考えを読み取る技術が生きたなと考えていた。


「そうね。何から話そう。」


少しの沈黙があり、


「...ここからの話は他の人にはしないでね。お父様と一緒に、秘密にしていることだから。」


「了解です。」


「一年くらい前、魔獣が出始めた時期に、目の前で魔獣になった人がいたの。...その人は、」

 


「私のお母さん。」


「お母さん!?」


「そう。そして、」


サリヤは右の袖をつかんで、


「私の右腕を消し飛ばしたのも、お母さん。」



「け、消し飛ばした?切り落とされたとかじゃなくて?」


「切られて、消し飛ばされたの。切られただけならうちの医者がつけられるからね。」


と言いながらマスターは右袖をまくる。マスターの右腕は肩と肘の中間あたりで、なくなっていた。


「うぉ...。」


そりゃあ、無いのはわかってたけど、じかに見るとやっぱすげえな。


「ずっと長袖を着ていたから見たことはなかったでしょ?」


「そりゃあ、まあ。」


「こうなったのは、一年位前。魔獣が出始めた時くらいだったの。」



私のお母さん、人間だったの。

お父様と出会う前のことは全く教えてくれなかったけど、綺麗な長い銀髪が大好きだった。

お母様って呼んだら「堅苦しいからやめて」って言われたわ。

なにより強かった。

お父様と同じくらい強かった。

それで、あの日はお父様とメイガスが稽古をつけてくれていたの。

魔物が凶暴化してきているからってことでね。

...その時、お母さんが乱入してきたの...。

入ってきたときからおかしかった。修行場の扉を壊して、いきなりお父様に切りかかっていったわ。

「ミナ!どうしたんだ!私がわからないのか!」

お父様と斬りあってたところで、爆炎魔法を使ってお父様と、私の盾になってたメイガスを吹き飛ばして、私に斬りかかってきた。

私は全く反応できなかった。

ただ、後ろに下がろうとして転んだだけ。

それで右腕を斬られたんだ。

そこでお母さんの動きが止まって、...体が爆発したの。

内側から爆発した、って感じじゃなくて、自分の爆炎魔法を使って、自爆したみたいな感じだった。

そして跡形もなく、血とか、持ってた剣と私の腕諸共消えたの。

正直何もかもがわからなかった。



「って感じで、お母さんと右腕をなくしたの。」


いやいや...。


「淡々と話しすぎでしょ。そんな重い話。」


「どんなにつらそうに話しても、過去のことは変わらないでしょ?だから事実だけを言ったの。」


「それはそうですけど。っていうか色々すごい事実があったんですけど。お母さん人間だったんですか?」


「そうよ。だから私の姿は人間なの。」


「遺伝、ってことですか?」


「察しがいいわね。異種族間で子供を作ると、どっちかの種族の容姿になるの。」


「魔法はどっちのを引き継ぐんですか?」


「規則性は無いって言われてる。どっちの親の魔法を引き継ぐかはランダムってことね。だから龍に変身する悪魔族とか、闇魔法を使う龍人族とかもいるかもってことね。」


言い方的に異種族での結婚ってあんまりないのかな?


「って話がそれたわね。お母さんの話でしょ?」


「そうでした。王女様がいなくなって、マスターの右腕がなくなって周りの人は不審がらなかったんです?ティーナさんとか特に。」


マスターの事が大好きそうだし。


「ティーナだけじゃなく、城中、国中がてんやわんや。お母さんはみんなに愛されてたし、私もそこまで弱くなかったから。」


自分で言うのか...。


「お母さんは生まれた街が魔獣に襲われたから帰省、私の腕は魔獣に食われた、って事で皆に説明したの。」


あんまり納得はしてもらえなかったけどね、と溜息をつくマスター。


「お父様はお母さんの事は忘れなさいって言ってた。自分が一番つらいはずなのにね。でも、そんなことはできない。私は、お母さんを死なせた魔獣化を止めたい。って思ってたんだけどね。」


「今回の、あれですか...。」


「そう。今回の魔獣化とその後の爆発。お母さんの時とほぼ同じ状況。もしかしたら魔獣化の原因がわかるかもしれない。お母さんの死んだ原因がわかるかもしれない。お母さんから、」


「ストップストップ、マスター落ち着いて。」


急にテンションあがったな。それだけお母さんの死んだ原因をはっきりさせたいんだろうな。


「ごめんなさい。ちょっと感情的になっちゃった。とにかく私は魔獣化をなんとかしたいの。誰も魔獣に悩まされないようにしたいの。」


そう言うマスターの目は今までで一番決意に満ちていた。


「...じゃあ、それ、手伝わせてください。」


「えっ?」


「今までは漠然とマスターを助けたい、って感じでいましたけど、目標があった方がいいでしょ?だから魔獣化を止めるのを手伝います。」


「...過酷な道になる、なにせまだ何もわかってないんだから。」


「この世界にきて、ずっと過酷な道ですよ。マスターの役にたてるなら、やりがいが出来るってもんです。」


「わかった。」


俺の前に立つマスター。そして


「あらためて、これからもよろしくお願いね?レイト。」


手を差し出してくる。


「はい。こちらこそ、よろしくお願いします。マスター。」


その手をとる。これからの道は大変だろうけど、この世界で生きる目的が出来てよかった。そんなことを考えていると、マスターがずっとこっちを見ているのに気づく。


「どうしました?」


「いえ、召喚の魔法陣があなたを選んだ理由がようやく分かったの。」


「??」


「召喚されたのがあなたでよかった。」

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