第42話 夜空と人間
レイトが狼人族達の土下座をやめさせた後、三勢力の全員でスウド砦の復興を行った。力仕事は主に鬼人族が。がれきの撤去や道路の整備などは狼人族が。ディスブル国の面々は兵士や住民の世話、防衛設備の修理。そして狼人族の監視をしている。それぞれの上の面々はお互いに害を与えないとわかっているのだが住民の不安を取り除くため狼人族を監視しているのだ。そして俺は、
(体が痛い...。)
無事だった外周の方の家でベッドに寝かされていた。寝かされておそらく数時間。外からの音が聞こえなくなっていて、窓から見える光は月明りだけだった。ベッドに運んできたクロア。回復魔法を使いに来てくれたアイリス、おそるおそる様子を身に来たザーガ以外とは会っていない。その三者が来てから寝てしまい起きたら夜になっていたのだ。
「......。」
体が痛くて寝れないので考え事をしてしまう。。その考えはとてもネガティブなものでどんどんと悪いほうに考えてしまうのが自分でわかる。
「...外出よ。」
やっと動かせるようになった重たい体を引きずって外に出る。昼間に戦闘があったとは思えないほどの静寂がそこにはあった。寝る前に見えていた炎や煙も無くなっているようだ。見上げるとそこには、
「おおぉ。」
思わずため息が出てしまうほどの星空があった。綺麗に輝く月。色とりどりの星。元の世界とは全く違う夜空に見惚れてしまった。今まで夜空を意識したことはなかったが考えをまとめるのにはよさそうだ。座ろうとすると横から声をかけられた。
「何してんの。」
空から横に視線を送るとそこにはマスターが立っていた。
「マスター。」
「もう動いて大丈夫なの?」
「ええ、まあ。」
「大丈夫よ。皆こっちにはこないから、私の部屋の中の感じでいいわよ。」
「あ、うん。」
そういうと俺が寝ていた家の前にあるベンチに座り横に座るようにジェスチャーをした。それに促されて隣に座る。
「今日はお疲れ様。」
「いーえ。流石に今回は驚いた。マスターもお疲れ様。」
「ありがと。」
…そして長い沈黙が起きた。
「あんなに魔法を使ったの初めてね。どうだった?」
「んー。なんというかがむしゃらにやってたからあんまり覚えてないんだよな。考えずに戦っていたというか、頭に体がついていったというか。」
「その感覚が大事なの。多分次に魔法を使うときは当たり前のように使えてるわよ。」
「メイガスさんに魔法の打ち方教えてもらっといて良かった。」
「早めに帰ってメイガスを安心させてあげなきゃね。目の前のやつがいきなり召喚されるなんてメイガスでも初めての体験よ。」
「電話が無いのが不便だなー。あれ?この砦の危機ってどうやってわかったんだ?早馬?」
「でんわって誰でも何処でも長距離で会話が出来るって言ってたあれよね。確かにそういうのがあったら便利そう。今回はスレイプニルのおかげで早く分かったのよ。この砦にスレイプニルがいなかったら報告があと一日は遅れてたわ。」
「ああ。あのでかくて速い馬か。」
…そしてまた沈黙がおとずれた。
「......。」
「......。」
「マスター。」
「...なに。」
「人間って、嫌われてるのか?」
俺はずっとこのことを考えていた。あれが本心ではないことはわかっている。フェンリルの魔力にあてられていたことはわかっている。だが自分一人ではそれを否定も出来ないのだ。
「...そうね。」
マスターは少し考えているみたいだ。
「確かにこの魔界の中には人間を嫌ったり、目の敵にしている魔族はいるわ。」
「......。」
「狼人族みたいに一族の歴史的に人間を敵としてみてる魔族だったり、直接人間に何かをされて人間を憎んでる魔族もいる。」
「やっぱりそういうのあるのか...。」
「もちろんよ。魔界と人間界が分かたれたのは千年前って言われてる。そんな前から境界を決めてお互い干渉しないようにしてるんだから、そりゃ色々あるわよ。」
「そんなに昔から確執があるのか。そりゃあ嫌われるわ。」
「あなたは今回の戦いで強くなった。多分これからは更に嫌なものをみるかもしれない。」
「そうですね...。」
「だから、」
「私を信じなさい。」
何かを決意したような顔をしているマスター。でも俺の頭にはてなが浮かんでいた。
「マスターの事は信じてるけど、いまさら何を言ってんの?」
「これからはそれ以上に信じてってこと。あなたの敵になりうる魔族。それに対抗する手段。この世界での生き残り方。私が歩む道の全てをあなたに教えてあげる。だから、」
「あなたの《生》を私に背負わせて、あなたは私の《生》を背負って。」
「......。」
マスターの決意に俺は直ぐに答えられなかった。どうやって返そうか考えていたらマスターの方が先に動いてしまった。
「......って何を言ってるの私は。」
自分を戒めているようだ。
「ごめん。今のは忘れて。」
表情はあまり変わってないが何やら焦っているようだ。
「......ふふ。」
それを見て少しおかしくなってしまった。
「...なによ?」
「マスター照れてる。」
表情には出さず己の中にとどめておいた感情を読み取れた。
「俺もマスターの事がわかってきたみたいだな。」
「はいはい。私の負け。なんでかわかんないけど、どうかしちゃってるみたいだから今はほっといて。」
「はーい。」
俺たちはお互いから目を離し夜空を見上げた。マスターの心はちょっと乱れているみたいだから大人しくさせておこう。
「......。」
サリヤはわかっていた。自分の心が乱れている原因を。サリヤはレイトに魔力が吸われてから今までずっと心が踊っていたのだ。あのレイトの魔法はサリヤも知らない新しい魔法だった。魔法を学んで一か月もたっていないレイトが新しい魔法を考え、使い、敵を撃破した。それを見てサリヤは喜んだ。契約の時に彼に誓った戦力にするという約束が少し果たされたのだから。だからサリヤはこの自分の感情を「喜び」と認識していた。レイトの成長に対しての、自分で立てた約束への喜びだと。それが喜びだけの感情なのかは、サリヤにはまだわからない。
「マスター。」
「......ほっといてって。」
「ありがと。」
「......。」
その感謝の言葉にサリヤは返事が出来なかった。
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