第3話 お父様か怪物か
レイトの目が覚めた時、ベットではなくその横に置かれている犬が寝るようなかごに丸く寝かされていた。大きさは人間用というありがた迷惑な仕様であった。
「丁度起きたわね。」
ベットの向こう側を覗くと出かける準備をしたサリヤが化粧台に座っていた。
「行くわよ。」
「行くってどこに?」
寝起きで朦朧とした頭で答えるレイト。
「朝ごはんよ。ついでにお父様に挨拶をして。」
お父様と聞いてレイトの眠気が覚めた。
(あの化け物に言葉通じるのかな?)
「...また失礼なこと考えたでしょ?」
「いえいえ、まさか。」
「そうそう私のことはマスターって呼びなさい。」
「なんで?」
「あんたと私は主従関係なのよ?恋人みたいに名前で呼び合ってたら変でしょ?」
(...そんなもんなのかな?)
「わかりましたよ《マスター》。全く、どっかの宇宙映画みたいにマスターって呼ぶなんて考えもしなかった。」
「?まあいいわ。あと、あんたは召喚のせいで記憶喪失ってことにするから。名前以外思い出せないってことにしなさい。」
「なんで?」
「魔力がないばかりか、この世界のことを全く知らないからよ。他の世界のやつだってわかった日には下手したら解剖されるかもよ?」
レイトの背筋が凍る。それはごめんだという怯えと今まで味わったことのない緊張がレイトを包んだ
「行くわよ。気を引き締めなさい。もしあんたがほかの世界から来たっていうのなら、初めてみるものが多いんじゃない?」
………
「...やっと食堂か。」
二人は食堂についた。いやレイトにしてみればやっとついたと言ったほうが適切だろう。ここまでの道のりで驚かないようにするのが彼には大変だったのだ。異世界、魔界ということで覚悟はしてたレイトだったが現実は厳しかった。
(人型のやつはいい。ティーナさんみたいなちょっと違う感じのやつはいい。物凄い異形のやつがだめだ!人の体のくせに髪の毛が触手のやつ、腕が何本も生えてるやつ!勘弁してくれ。)
などなど自分でも吐かなかったのはえらいなと思い、寝起きから精神が削られていたレイトだったのだ。
「おはようございます、サリヤ様。」
「おはよう、ティーナ。」
扉の横にいるティーナに挨拶をするとサリヤが中に入っていった。レイトも後に続く。まず彼は中の広さに圧倒された。体育館位の広さの部屋の真ん中に長方形のテーブルが置いてあり、その上には朝食ゆえか少なめの食事が置いてある。
「ティーナ。」
「はい。」
「お父様は?」
「今、こちらに来られているようです。」
「そう。では座って待っておきましょう。」
レイトはサリヤの代わりぶりにも驚いていた。部屋を出た途端口調が穏やかになっただけでなく、まとう雰囲気もお嬢様のようになっている。
(魔王の娘...か。ようやるわ。)
サリヤが椅子に座ったので座ろうとするが、他に席がなく戸惑っていると、
「椅子の後ろで立っていてください。」
「はーーい。」
「もうちょっと従者らしくしてください。」
「...わかりました、マスター。」
「よろしい。」
そんな話をしていると入ってきた扉が開いた。遂に魔王がきた!と見まがえたレイトだったがそこには高身長で髭がダンディーなイケオジがいた。
「おはようございます。お父様。」
「うむ。おはようサリヤ。」
「...えっ?」
と思わず声が出てしまったレイト。そのイケオジ、もとい魔王が視線をサリヤから移してくる。
「主の父親に向かってそれか?」
「あっ、いえ。すいませんでした。」
「まあよい。名はなんという。」
「レイトです、お父様。」
「そうか。」
そういうとテーブルに座る。
「いただきます。」
「いただきます。」
レイトは驚いたことが二つあった。一つ目は魔王が礼儀正しいこと。もう一つはサリヤの右腕がないことだ。薄々気づいてはいたが左手だけで器用に食べているのを見て確信に変わった。
「時にサリヤよ。」
「はい。なんでしょうか?」
「レイトとやらは戦力になるのか?」
「その事なのですが。彼は召喚のせいか記憶を無くしているのです。」
「……なんだと?」
魔王はレイトを睨みつける。
(いや、睨まれてもどうにもならんよ?記憶どころか元から強くないですもん。)
流石に口は出せないので心で反論する。
「ならば一刻も早く戦力になるようにしろ。お前の使い魔なのだから相当の使い手のはずだ。お前の右腕になるようにな。」
「わかっています。」
「みたところ契約のラインもつながっていないようだが、魔力を出すこともできないのか。」
「はい、そのようで。」
「そうか。」
そういうと魔王とサリヤは話さなくなり朝食を食べ始める。そして魔王が先に食事を終えた。
「ごちそうさまでした。」
きちんと礼をして席を立つ魔王。部屋を出るときに振り向いてレイトのことを見た。
「レイトとやら。」
「はい?」
「...いや、早く戦力になるように。」
言葉がでず返事ができないでいると魔王は直ぐに部屋をでた。するとサリヤはティーナを呼ぶ。
「彼に食事を持ってきてあげて下さい。お腹が減っていると思いますので。」
ぐぅーー。
その言葉に促されるようになるレイトのお腹。
「そういえばなんも食べてない。」
そこでティーナが持ってきたのは普通のおにぎりだった。
「先日の暗黒茸はあわなかったとお聞きしたので人間がよく食べている物を用意させていただきました。」
「あっ、わざわざありがとうございます。......うまっ!!」
「ありがたきお言葉でございます。」
ティーナにお礼を言ったあと、二人は食堂を後にした。廊下で周りに誰もいなくなった時にサリヤに問いかけをした。
「ねえマスター。」
「何でしょうか。」
「契約のラインって何すか?」
「私とあなたの契約の証のようなものです。本来なら召喚した時にします。…ですが貴方には魔力が無いようなので契約は出来るのでしょうか?」
「さーー?ラインって事は首輪みたいなもんすか?」
「かもしれませんね。ちなみに契約を結べばお互いに力を共有できます。つまり私は貴方の、貴方は私の力の一端を使えるということです。」
「俺に力はないですけどねー。」
「そのようで。そのあたりをはっきりさせるためにとりあえず図書室に行きましょう。」
「図書室って確か……」
「メイガスがいるところです。何かしらの進展はしてるでしょうし。」
「昨日の今日で?」
「この城の図書室だったら大抵の文献はあります。そこにメイガスの知識が合わさればまさに百人力ですからね。」
「はーー。メイガスさんを凄い買ってるんすね。」
「ええ、まあ。私の教育係でしたから、信頼しています。」
「後、魔王ってあんな感じでしたっけ?もっとこう化け...ごつい感じじゃなかったっすか?」
「...次はないですよ。あの姿はお父様が普段使っている物です。本来の姿だと城の中では邪魔な時もありますからね。一族の変身魔法です。」
「へーー、魔法。じゃあマスターも本来の姿があるんすか?」
「いえ、私はこの姿だけです。」
「そうなんですか。」
会話がなくなり黙って歩くだけになり重い雰囲気になったから
(この話題はやめておこう。)
と考えたレイトの前に大きな扉が見えてきた。上には図書室と書かれてる。
(図書室か。魔法がある世界なんだからすごいんだろうな。)
そう覚悟をしてサリヤの後に続いて図書室に入る。するとそこには!
「おお、サリヤ様。ご機嫌麗しゅう。」
本らしき物は一冊もなかった。20畳ほどの広さで真ん中に長机が2つと椅子があるだけだった。魔法っぽいところといえば、並んで置いてある机の間に直径1mほどの光る球が浮いているくらいだ。
「おはようメイガス。何かわかりましたか?」
「はい。約300年前の文献に異世界から来た男のことが載っていました。」
そういうとメイガスは光の球を引き寄せて手を入れる。そして手を抜くとそこには古そうな本が握られていた。レイトが呆然としていると
「あれは、ライブラリーキューブでございます。無限に入る本棚といったところでしょうか。図書室の管理とはあの球体の管理のことでございます。」
後ろにティーナが立っていた。
「......いつの間に...」
「今着いたところです。あのライブラリーキューブはとても扱いにくく、完璧に使いこなせるのはこの国に2人しかいません。」
「へーー。そんなにすごいやつなんですか?あの球。」
「はい。なんでも何万冊も入っていて、管理者以外でも触れられますが、お目当ての本を確実に引けるのは管理者だけだとか。」
「管理者?」
「はい。メイガス様と魔王のドルファス様が管理者となっております。」
「あっ、名前あったんだ...」
「もちろんです。サリヤ様に聞かれたら怒られ...」
「話を始めていいかしら?」
サリヤを見るといかにも不機嫌なようだった。
(魔王のことは触れないほうが身のためだな。)
「すいません。」
「では、始めましょうか。メイガス。」
「はい。まずこの文献にあった異世界から来た男の事から。この男は着物のような服装をしていて、エド、という所から来たと言っていたそうです。レイト様、このエドという場所はご存知ですか?」
「知ってますよ。俺のいた時代の大体300年前にあった地名です。」
「だとすると、この男とレイト様は同じ世界から来たということになりますね。」
「その男はどんな感じだったのですか?魔力などは?」
「男は戦闘力が高かったようです。現れて早々に叫びながら暴れて、こちらの戦士を刀で3人倒したとか。しかし、正規の召喚ではなかったようでこの世界の環境に適応出来ずに直ぐに死んでしまったようです。」
「正規の召喚?」
「レイト様のように主に呼ばれたわけではなかったのです。所謂はぐれ使い魔ですな。ごく稀に何かの拍子でそういった事が起こるのです。」
「………それは。」
(それはどんな気持ちだったんだろう。いきなり知らない場所に引っ張ってこられて、死んでしまうなんて。俺だってマスターとかの助けがあって何とかなっている状態だし……。その侍には戦う力があったが俺にはない。俺がそういう風に召喚されてたら発狂していたかも…。)
「……レイト。」
「は!はい。」
「続けますよ。」
かなり考え込んでいたレイト。三人とも彼を見ている。
「す、すいません。」
「それでメイガス。契約の話は?」
「はい。結論から申し上げますとちゃんとした契約が出来るかはわかりませんでした。申し訳ございません。一応契約を結ぶ術式は組めます。しかし、それにレイト様が耐えられるかどうかがわからないのです。」
「耐えられるかどうか?」
レイトはもちろんサリヤやティーナも何かわかっていなかった。
「まず根本的にレイト様は魔力に全くの耐性がありません。契約するとなるとお互いの魔力をわけあうのではなく、無理矢理サリヤ様の魔力をねじ込む形になります。表現が難しいですが、今ある最適量の血液がある身体にもう1人分の血液を押し込む用な感じといいますか…。」
「つまり失敗すると体が内部から破裂しかねないと言うこと?」
「その解釈で間違いありません。」
(……怖。)
「というか話の腰を折って申し訳ないんですけど、魔力って、どんな感じのやつなんですか?」
「どんな感じと言われても……。我々、この世界にとっては空気と同じくらいあって当たり前の物です。」
「レイト様の世界には魔力は無かったんですか?」
今まで聞き役だったティーナがレイトに聞く。
「無いですね。オカルト……そんなものはあり得ないってのが俺がいた世界の考え方でしたね。もちろん、それを使える人なんていませんでしたし。」
(ゲームよか漫画の中だけのものだったな。)
「そうですか。この世界では魔力は体の中で作られています。生成する内臓は無いのですが、ちょうど臍辺りで作られているのが解っております。作られる量は生物や個体でそれぞれ違います。空気中にも舞っていますが、それが何処で作られているのかはいまだ判明していません。」
「因みにサリヤ様はこの国で二番目に魔力量が多いんですよ。」
「はぁ、マスターって凄いんですね。じゃあ一番はお父さん?」
「そうですよ。私の家系は代々魔力量が多いんです。なので魔王になれたといっても過言ではありません。」
「流石魔界の王様……。」
「……違いますよ。」
「はい?」
「魔王は魔界の王様ではありません。只の魔界の代表です。魔界を統治している分けではないんですよ。」
「えっ?どういうことですか?」
「魔王とは魔界の代表の称号なんです。人間との会談などはドルファス様が対応します。ですが他の魔界の国、生物全てがドルファス様に忠実と言うわけではありません。現に対立している国もありますからね。なので基本的にはディスブル国の王様と考えて貰って構いません。」
「はー。でも魔力が多いから魔王になれたんでしょう?って事は魔界で一番強いって事ではないんですか?」
「正直わかりません。ドルファス様の魔力はそこいらの魔物よりは多いですが、魔界で一番強いかと聞かれるとわからないと言うのが答えになります。魔界で5本の指には入りますが実際に戦ったことはあまりないので。」
勿論最強だと信じていますけどね、と付け足すティーナ。
「因みにサリヤ様の御一族が魔王になったのは千年も前なんですよ。」
「千年間も魔王とか凄いですね、マスター。」
「……別に私が凄いわけではありません。」
「……話を戻しましょう。サリヤ様とレイト様の契約の事ですが私としては部分契約をオススメしたいと思います。」
「部分契約?私の一部と彼を契約するの?」
「はい。レイト様の身体を魔力に馴染ませていき、少しずつ契約を進めていくのがよろしいかと。」
「……それしかないようですね。レイト。」
「あっ、はい。」
「話は聞いていましたね?」
「はいっす。部分契約とかって…。」
「部分契約というのは言葉の通り、私の一部と契約すると言うことです。具体的には……一割程度の魔力と契約してもらいます。」
「そんな一部分と契約?なんて出来るんですか?」
「私とメイガスがいるから大丈夫です。契約後の事についてはその時に話した方が実感がわくでしょう。とりあえず契約陣を描く部屋に行くのでついてきなさい。」
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