第40話 魔法と拳
「がぁぁぁぁ!!!」
狼の咆哮がドームの中に響く。サリヤとザーガは自身の身を守ることに気を取られてレイトの援護に手が回らなかった。サリヤがレイトが飛んでいる事と狼が攻撃しようとしていることに気づいてレイトの元に行こうとしたとき、
「うぉぉぉぉ!!!!」
空に跳ばされたレイトが叫ぶ!その体には今までにないほど魔力が溢れており、その反面体制を崩しているサリヤの動きが止まる。
(魔力が、レイトに吸われている!?)
今までなかった感覚に驚くサリヤ。今まではレイトが魔法を使ってもサリヤの魔力が奪われる感覚はなかった。魔法が初級過ぎて膨大な魔力を持っているサリヤ的には減っている感覚も無かったのだ。だが今は違う。レイトは今までにないほどの魔力を消費する大魔法を使おうとしているのだ。
(......。)
サリヤはそれを止めはせず見守ることにした。この世界に来た後経験を考えてもレイトが狼王を倒せる保証はない。それでもこの一瞬だけは手を出さないことに決めたのだ。
《サンダーピアーズ!!》
天を仰ぎレイトに向かって口から雷のビームを放つ狼王!それは先ほどまでの雷よりも強力でドームを貫く勢いだった!!だがレイトも魔法を発動する!
《アイスランス!!》
手に氷の槍を作り出したレイトはそのビームを受け止める!
「受け止めた...。」
「だが押し出されるぞ!」
ビームに押されたレイトはそのままドームの頂点に押し付けられる形となった!だがビームを弾きダメージを受けないようにする姿勢は変わらない。雷の痺れも感じていないようだった!
(身体強化魔法を使うのと、ドームとの境界に氷の膜を張って雷への耐性を上げてる...。)
すべてはわからないが吸い取られた魔力の感じから察していたサリヤ。
「..そういえば。」
先ほどまでの戦いを見ていたザーガはある疑問を口に出す。
「あの人間は詠唱破棄は出来ないのではないのか?!」
今までレイトはほとんどの魔法を発動するとき詠唱をしていた。詠唱破棄は高度な技術だが初歩的な魔法で自分がよく使う魔法ならば使っていく中で自分の中のイメージが確立し、詠唱破棄が出来るようになる。だがレイトにはそこまでの経験はまだない。
「...彼は命がかかっているときに本領を発揮するようですから。」
サリヤにはなんとなくそれがわかっていた。最初のサラマンダーの時も竜人族の魔獣化の時も彼にとってはすさまじい魔法を発動させていた。その時は魔力消費は少なくサリヤから吸われることはなかったが、今は違う。
(おそらく明確にイメージを持って魔法を発動させようとしている。発動、過程、効果がはっきりわかっていてそれにかかる魔力を算出して魔法を発動させようとしてる...。)
その魔法が何かはサリヤにはわからない。わかるのは今まで教えたことがない魔法ということだけだ。
「見せて。あんたの魔法を。」
その声はレイトには聞こえていなかったはずだが、答えるようにレイトが動いた。
「なめんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
それまでは押し込まれているだけだったレイトが少しずつ雷のビームを押し返していく。
「がぁぁぁ!!!!」
押し返されたことに気付いた狼王が押し込もうと魔力を込め、雷のビームが太く、強くなるが少し押されただけで更に力強くレイトは押し返し、
「はぁぁぁぁ!!」
《アイスランス・スノウ!!!!》
自分が考えた魔法に名前を与えて発動した!レイトの足元から出た魔力は雪のように舞い始めた。
「なんだ、この魔法は、」
「......。」
ドームの中にいる二人だけではなく狼人族を拘束し終えた外の魔族もその魔法に目がいった。
「綺麗だ。」
アイリスの言う通り外から見るその魔法はドームの雷とあわさり魔法が入り混じるこの世界の中でも幻想的な光景になっていた。
「がぁぁぁ!!」
狼王は気にも止めていなかったが雪が降りてきたときその魔法は発動した。
ピキィ
狼王に当たった雪が凍りついた!!だがそれだけでは狼王は止まらないが空中に浮いていた雪のほうが変化をした
「雪が、アイスランスに変化した...。」
サリヤのつぶやきと共に空中の雪が集まりアイスランスが生まれた!雪が集まり生み出されたそれは今までのアイスランスとは違いとても大きく狼王の体長程もある大きな槍であった!
「いっけぇ!!!」
それがレイトの掛け声にあわせて槍が回転しながら動き出す!!
「雷で見えないのに当たるのか!?」
レイトの視界は狼王の魔法で奪われている。ザーガの疑問もその通りだった。しかしその疑問とは裏腹に
ザシュ!!
「ぎゃぁぁぁぁ!!!」
回転が加わった槍は狼王に突き刺さり雷のビームが止まった!ビームに押されなくなったレイトは落下するかと思われたが足の氷がドームに張り付き落ちれないようだ。
「当たった!?」
ザーガは当たったことに驚いていたがサリヤはその方法に気付いていた。
「さきの雪の魔力を目印にしたのよ。」
「そんな微弱な魔力の感知なんて出来るわけがない!」
「雪の魔法に私の魔力を混ぜていたの。それをたどったんだ。」
「な!そんなことが...。」
「主人と使い魔のつながりを利用したのよね?」
サリヤの問いかけは空に消えたがその言葉をきっかけに二人は動き出した。
「にんげんんんんん!!!」
《サンダーピアーズ!》
狼王は同じ魔法を打ち出す。ただ傷のせいか先ほどより威力が弱くなっている。
《アイスランス!!!》
レイトは持っていた氷の槍を更に強固に巨大にして持ち直すと、足の身体強化魔法を強くして踏み込み足元の氷を剥がして飛び降りる!!
「うおぉぉぉ!!」
バチバチバチ!!
雷のビームと正面から撃ち合っても押されず、逆に打ち破りながら突き進む!!ビームの発射口、狼王の口元に来た時!
「おらぁぁ!!」
発射元を槍でうち払い魔法を打ち消す!!魔力に当てられ槍もはじけ飛んでしまった!!魔法の無くなった口の奥に人影があった。狼王、ルプスだ。先ほどまでの弱弱しい気配とは違い荒々しく、攻撃的な印象を受ける。
「目ぇ!!」
槍を持たなくなった右手を振りかぶり、更に足に集めていた魔力を拳に集めて、
「覚ませぇ!!!!」
人影の頬に全力のパンチを打ち込む!!!
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