第35話 後処理

 あれから1か月が経った。

 俺は学校に通いながら、必死にカズハの怪我を治す方法を探し、見つけ出していた。

 

 この王都には違法な魔術研究をしている魔術師がいる。

 名前はエルド。

 主に欠損部位の治療で生計を立て、その金を全て魔術の研究に突っ込んでいる根っからの研究者だ。

 そいつは、回復魔術ではなく“合成魔術”を使う。


 つまりは、失った腕や足を別の人間の手足に置き換えることで実質欠損部を治すのだ。

 これは、禁忌と言っていい。

 そんな禁忌の領域に手を出した魔術師は、今この王都で身を潜めている。

 

 主に裏社会の人間相手に商売をしながら、“完璧な人間“を作ることを追い求める狂人。

 それがエルドだ。

 

 なぜそんな存在を知っているのか?

 もちろん、原作知識だ。

 あれ以降幸運を使うのは躊躇してしまい、まともに使えていない。

 なら知識をフル活用するしかないだろう。


 実を言うと、エルドの存在自体はすぐに思い浮かんでいた。

 割と重要なキャラだし……。


 ただ、どうしても用意できないものがあった。

 金だ。


 もちろん、ギャンブルで当てればいいだろうが……。

 加護を使おうとすると、震えが止まらなかった。

 怖くて、とてもじゃないが使う気にはなれない。


 次はクオンやカズハが死ぬことになるかもしれない。

 俺は、それを耐えることが出来そうにない。


『ルイス様、早く準備なさらないと遅れますよ?』

「ん? ああ、わかってるよ」


 俺はそれなりに使いこなせるようになった重力魔術を使い荷物を整理する。

 今日、俺はようやく男爵になった。

 叙任式を終え、俺は父の持つすべての権利を受け継いだのだ。


 これでようやく、カズハの身体を治すことができる。

 エルドの治療は高額だ。

 とても一般人が払える金額ではない。


 でも……個人の金ではどうにもならなくても、男爵家の金を使えばどうとでもなる。

 そのために今日までカズハには耐えてもらった。

 

「さ、帳簿を確認するとしますか」


 余りにも急ぎだったため、まだ書類の整理も終わっていない。

 一応男爵ということもあり、今まで住んでいた屋敷に数人の従者はいるが、現在我が領地は危機的状況のため人出は多くない。

 

 故に、こうやって俺も手伝っているわけだ。

 ただそれも、ぱっぱぱと終わらせないとエルドとの約束の時間を過ぎてしまう。


『こちらでは?』

「お、どれどれ……」


 ジルが差し出してくれた帳簿を見る。

 確かに、今年の我が領地の金銭状況が乗っている帳簿みたいだ。


 ……やべぇ。

 あれ、ここまでやばいの??


『これは……終わってますね』

「想像よりはるかにな」


 帳簿に記載されている内容は、見るに堪えない程の大赤字だった。

 とてもじゃないが費用を捻出できそうにない……。


『どうなさいますか?』

「いやー……」


 わが家に残された資産は金貨にして10枚ほど。

 借金もかなりあり、今後の借金の返済が迫ることを考えれば使っていいお金ではない。

 今回の戦闘による被害が余りにも大きすぎたんだ。


「ルイス、ちょっといいかしら」

「ん? ああ、いいぞ」


 執務室でどうしようか唸っていると、クオンが部屋に入って来る。

 ずいぶんと晴れやかな表情だ。


「どうかしたのか?」

「トールを完全に支配下に置いたわ」

「本当か!」


 あの日以降、トールは屋敷の地下でずっと拷問を受けていた。

 もちろん復讐の意味もあるが、一番の理由はほかにある。


 支配の首輪と呼ばれるアイテムを使うためだ。

 これを使えば、相手の意思に関係なく相手を従わせることが出来る……のだが。

 効果が発動するには対象が完全に屈服していなければならない。


 流石はダイヤモンド級冒険者と言ったところで、奴はこれまで地獄の拷問を受け続けても心が折れていなかった。

 

 だが、今日遂にその心もおれたようだ。


「ええ、連れてきたわ」


 そう言って、俺の部屋にボロボロのトールが蹴り飛ばされて入って来る。

 目は完全に死んでいて、精神は還付なきまでに崩壊しているようだ。


「クオン、こいつの心を治してくれ」

「ふふっ、わかったわ」


 これからこいつにはさらなる地獄を味合わせる。

 それなのに、心が壊れてたら意味が無い。


「クレンズ」


 クオンの魔術がトールにかかる。

 すると瞳に光が戻り、トールの身体が小刻みに震えていく。


「やあ、おはようトール」

「お、お前……!」


 首に手をやり、自分の状況に確信を持ったのだろう。

 顔中が汗にまみれていく。


「状況は理解しているかな?」

「殺せ!!!殺してくれ!!!!」

 

 そう言って、トールが大きく口を開け舌を噛み切ろうとする。

 自分が終わったことに気づいたんだろう。


「“辞めなさい“」


 クオンの一言で、トールは動けなくなる。

 これが支配の首輪の力だ。


「さて、君にはやってもらいたいことがあるんだ」

「……」

「“返事”」

「……なん……ですか」


 トールが怯えたように返事をする。

 

「いやなに、俺は今金に困ってるんだ。だからね、稼いできて欲しいんだよ」

「稼ぐ? 依頼を受けろっていうのか?」


 確かにダイヤモンド級冒険者らしく働いてもらえばそれなり以上に稼げるだろう。

 だが、それじゃあ何の意味もない。

 それでは復讐にならない。


「違う、そうじゃない」

「じゃあ、なんだよ」

「娼婦になってもらいたいんだ」

「はぁ……? まさか、お前!?」


 トールは一瞬呆れた顔をした後、すぐに真意に気づき大声を上げる。

 こいつは姿かたちを変える魔術が使える。

 それを使って、汚い男どもに身体を売らせる。

 そしてその金は俺が全て貰う。


 我ながら完璧すぎる考えだ。


「よかったじゃない、これからは拷問を受けずに済むのよ?」

「おま、お前ら……!!!」

「“動くな”」


 心底嫌だったんだろう。

 抵抗しようと俺につかみかかろうとして、すぐに制圧された。

 

「娼館なら僕が紹介するよ!」


 スオウが部屋に入って来る。

 カズハも車いすに乗り、満面の笑みだ。


「一番汚くて、クズの集まる場所で頼む」

「裏通りなんてそんな店ばっかりだよ」


 それもそうだ。

 精々苦しみぬいてもらわないとな。


「辞めてくれ……! 頼む、なんでもする!!」

「あたしがそう言った時、あなたは辞めてくれた?」


 カズハが静かに、だけど心の底から怒りを込めてトールを責める。

 その言葉で、トールは押し黙ってしまう。


 こうして、トールを売ることが決まり金銭面に多少なりとも余裕はできた。

 でも……。

 やはり、カズハを治すには恐らくお金が足りない。


 ならば、出来ることはすべてやるしかない。


「カズハ、ちょっと一緒に出掛けようか」

「え? うん、わかった」


 俺は、手元にあったいくつかの証書を鞄に仕舞い、部屋を出る。

 トールの諸手続きはクオンとスオウに任せ、俺たちはエルドの住まいに向かった。


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悪役貴族の俺が原作知識で呪われ系裏ボス女子を救ったら、激重感情のメインヒロインが誕生した いろはに政宗 @rushia0127

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