第31話 覚悟を決めて

 手のひらの数字を見る。

 0と書かれている。

 

 あの女神は、代償を取り立てるといっていた。

 つまり、100万近い不運が俺に襲い掛かって来るって事だ。


 今のところ、その形跡はない。

 目の前にあるカヤの死体。

 俺もまたこうなる可能性があるはずだけど……。


 恐ろしいけど、気にしすぎるのも良くない。

 とりあえず今は現状を乗り切ったことを喜ぶべきだろう。


「帰るか……」


 そう、帰れる。

 最大の障害は既に排除した。

 あとは捕虜を助け、残党を殲滅するだけでいい。


 早く帰って、ジルの作ったご飯を食べよう。

 カズハの身体もどうにかしないとな……。


「ルイス!」


 後ろからクオンの声が聞こえる。

 振り返ると、カズハを抱えたクオンが笑顔で手を振っている。


 なんか、返り血で色々とやばいことになってるけど……。


「無事でよかった……」


 カズハも安心したように笑顔を見せてくれる。

 被害は大きかったけど、3人とも無事ここを出られそうだ。


「捕虜の人たちは?」

「結構無事な人が多かったわ」

「それはよかった……。あとは残党狩りだな」


 カヤを殺したのは実質女神だからな!

 せめてここくらいは活躍したいものだ。


「あー、えっと……」

「それならもう殲滅したわ」

「まじか……」


 だから返り血でとんでもないことになってるのな。

 カズハなんて、顔中血まみれだ。


「カズハを拷問した犯人だけは捕獲してあるわ」

「そうか、やっぱりあいつが犯人じゃないんだな」

「あいつ……?」


 カヤは確かに自分は犯人ではないと言っていた。

 じゃあやっぱり加護が誤発動したのか……?


「あ! あの女、あたしの腕を斬った……!」


 カズハがカヤの遺体を見てそう言った。


「あなた、拷問したのはトールとかいう冒険者って言っていなかった?」

「拷問してきたのはあいつですけど、腕を斬られたのはそこの女です」


 ……そういうことか。

 俺は確かに“カヤの腕を斬り落としたやつに会いたい”と望んだ。

 

 この加護、やっぱり使い方難しいな……。

 便利だけど、完全に制御できるわけじゃない。

 今回みたいに状況を認識しきれていないとこうなるのか。


「それにしても、そこの女は何?」

「オブシディアン級の冒険者だって言ってたから、今回の首謀者じゃないかな」


 俺の言葉に、二人が目を見開き唖然とした顔をする。

 

「オブシディアン級って……」

「倒したの……?」


 ああそうか。

 二人には俺が倒したように思えるのか。


 どうする?加護の事を言うか……?

 でも、余計な心配かけることになりそうだな。

 そもそも、女神の加護なんて言って信じてもらえるとも思えない。


「いや、なんか転んで自滅した」

「はぁ……?」


 とりあえず嘘ではない。

 転んだ拍子に自滅したのは間違いなく事実だ。


「ほんとだぞ? 転んだ時に剣を落としてそれが頭に刺さって死んだんだ」

「わけがわからないわ……」


 俺がそういうと、クオンは頭を抱える。

 カズハが怪訝な顔で俺を見ている。


 疑われてるのかなぁ。


「まあ、今はそんな事どうでもいいわ……。早く帰りましょ?」

「ん? ああ、その前にちょっとだけ調べてもいいか?」

「何を?」

「こいつらは依頼されたって言ってたんだ。つまり、本当の首謀者は別にいるってことだ」


 領地を滅茶苦茶にして、カズハをこんな目に逢わせた首謀者が確実に存在している。

 俺は、そいつが誰であろうと絶対に許さない。

 確実に殺す。


「その痕跡を調べたいって事?」

「そういうこと」

「わかったわ、手伝ってあげる」


 何かしらあるかも知れん。

 そう思いながら、部屋をあさってみた。


 クオンと、クオンに抱かれているカズハも一緒に部屋の捜索を始めた。

 この部屋は司令室の役割をしていたらしく、広くてスペースがありながらもたくさんの書類が転がっていた。


 そして、その中に……。


「これって……」


 クオンが机の中にあった手紙を見つける。

 そこには、王室の魔術刻印が刻まれていた。


 この刻印は、王室かれ送付された手紙にしか刻まれない。

 つまり、こいつらは王室関係者からの依頼で俺たちの領地を攻撃していたことになる。


「王家の人が……ってこと?」

「い、いや……。関係者でも、例えば大臣とか護衛の騎士とかなら代理で送ることも出来る」


 だから、王族に狙われているとは限らない。

 限らないが……。


「だとしても、これはまずいわね……」

「ああ……」


 相手が王族、もしくはそれに近い関係者だった場合。

 この場合、俺たちは王族とガチンコで敵対することになる。


 どうする……。

 諦めるか……?


「ルイス、あたしのために復讐するつもりなら辞めてね?あたしは、ルイスと一緒にいられればそれでいいの。それが一番の幸せ」

「ありがとう、カズハ」


 カズハのため。

 いや違う、そうじゃないんだ。


 俺は、俺の大切なものを壊そうとした奴らが許せないんだ。

 絶対に、許すわけには行かない。


 だから……。

 

「でも、俺は例え王室関係者だとしても。いや、王だったとしても必ず殺す」

「どうして!?」

「俺が許せないからだ」


 カズハにこんな苦痛を与えたやつには相応の罰を与えなければならない。

 俺は決めたんだ。

 “悪役貴族”になる、覚悟を。


 それに……。


「どちらにせよ、対策を練らないとまた同じ目に逢うわ」


 クオンが冷静に呟く。

 その通りだ。

 だってそうだろう?

 今回の計画が失敗したから諦めるとは思えない。


「そうだ、だから覚悟を決めよう」

「そうね」


 俺たちは、この国を敵に回しても戦える準備をしなければいけない。

 覚悟を決めて、備えるんだ。

 そのために、“加護“も”原作知識“も、なにもかも全部使う。


 俺は、なるしかない。

 この国を倒す悪役貴族に。

 主人公たちの“ラスボス”に。



 

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