第13話 幸運の加護
「いい? あなたには幸運の加護をかけてあげる。動けるようになったらてのひらをみてみなさい」
「てのひら?」
「そこに数字が書いてあるわ、それがあなたの持ってる幸運の残機」
「幸運の残機……?」
なんだそれ。
人生で一度も聞いたことが無いワードだ。
「そう、あなたが今までにあった幸運と不幸を差し引きした“運の値“が幸運の残機よ。あなたは自分の運をコントロールできるようになるの」
「つまり、残機の数だけ運が良くなるって事か?」
「ちょっと違うわ、“望んだ幸運”を引き寄せることができるの。もちろん、その望みに応じて幸運の残機は減るけどね」
ふむ……。
字面だけ聞くとメリットしかなさそうだ。
ここで引ければ!って場面で貯めこんだ運が使えるとなれば、戦闘だけじゃなくどんな場面でも有利になる。
「その望みがどれくらい残機を減らすのかはわかるのか?」
「そんなことしたらつまらないじゃない! もちろんわからないわよっ」
つまらない。
またそれだ。
こいつは本当に……。
まあいい、今は怒るだけ時間の無駄だ!
「残機に気を付けて望みをセーブしないといけないって事か……」
「……まあ、そういうことよ! これがあればあいつ位ならどうとでもなるんじゃない?」
女神がトーデスブリンガーに指をさしながら、楽しそうに笑う。
勝てるかねぇ……。
いやまあ、勝つしかないんだ。
覚悟を決めよう。
「ちなみに、さっきみたいに無策で突撃しようとしたら即死よ?」
「無策じゃない! あれは奥義で……」
女神が目を細めてこちらをみる。
完全に舐め腐った、馬鹿にした目つきだ。
「別に奥義でも何でもいいけど、あんたの方が力も早さも全部下なのに突撃してどうにかなると思う?」
「……思わないけど」
「でしょぉ?」
女神が、すさまじいドヤ顔で俺を見下す。
うざすぎるが、正論だ……。
でも、あの場面はああするしかなかったんだ。
万が一の勝ちを拾う以外、どうしようもなかったのは間違いのない事実だ。
「さ、そろそろいい? 私はもう帰るわよ」
「ちょっと待ってくれ! 最後に一つだけ」
「えー、なによ?」
立ち去ろうとしていた女神を引き留める。
面倒臭そうにため息をつきながら、どうにか歩みを止めてくれた。
「お前、俺のことはこれから見えるのか?」
こいつは玩具にすると言った。
つまり、今日までは見つけられなかったらしい俺を見ることが出来るようになったという事かもしれない。
「そうね、あなたに私の加護が付与されたんだもの、見えるに決まってるわ!」
「なら……クオンにはもう手を出さないでくれ。俺を玩具にするんだ、それで十分だろう?」
こいつがまたクオンに何か呪いをかけたらもうどうしようもないかもしれない。
それだけは阻止しないと……。
「へぇ……そうね、じゃあこうしましょう」
女神が口角を上げ、気味の悪い笑みを浮かべる。
それはそれは楽しそうに、こちらを見ている。
「“あなたが生きている間“は、何も手出ししないと約束するわ」
殊更“生きている間“を強調するってことは、つまり……。
「俺が死んだら?」
「今度は、もっと楽しい呪いをかけてあげるっ」
そう言って、女神はケタケタと大きな笑い声をあげる。
なおさら、絶対に生きないといけない理由ができてしまったな。
とにかく、まずはここから出ないといけない。
トーデスブリンガーを倒して、生きてここから帰る。
「じゃ、がんばってね~」
女神は本当に楽しそうに帰っていった。
直後、指を鳴らす音がする。
目の前の戦士が、鎧を鳴らす。
俺ももう、身体が動く。
戦いの合図は既に鳴っている。
てのひらを見ると、150と書かれている。
これが多いのか少ないのかはわからない。
ただ、今は兎に角0じゃなかったことを喜ぶべきだろう。
息をのみ、敵との距離を測る。
相手も同じく警戒しているのか、武器を構えるだけで攻撃してくる気配はない。
「ふぅ……」
息を吐き、幸運の使い道を考える。
魔術には“ファンブル“と“クリティカル“が存在する。
“ファンブル”は、発動が無効になる。
“クリティカル”は、威力が上がったり本来なら実力差で効かない相手にも通ったりする。
どちらも、発動条件は“運”だ。
つまり、コントロールできるってことだ。
使うなら、これしかないだろう。
「シヲウケイレロ」
トーデスブリンガーが聞き覚えのあるセリフを吐く。
そうか、こいつあんまり知能は高くないな?
魔物は所詮魔物って事だ。
なら、勝機はある。
深呼吸をして、思考を整える。
無限ともいえる一瞬で、俺の中の腹は決まった。
作戦は立てた。
あとは、動くだけだ。
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