第14話 ルイスのいない時間

「ああ、いたいた! おーい!」


 オーガとかいう雑魚魔物を駆逐した後、私たちは急いでルイス達がいる東側に向かった。

 1秒でも早く合流したくて、疲れた体を必死に動かしたおかげで、存外早く到着できた。


 ああ、早くルイスに逢いたい。

 会って、オーガを倒したこと褒めてもらいたい。

 ルイスにつきまとって従者を名乗るカズハとかいうメスじゃ倒せなかった魔物も、わたしにかかれば一撃で倒せたって言えば、きっとこの女は解雇だろう。

 ふふふ、いい気味ねっ。


「クリスタ! 大丈夫だったか!?」


 細身の男が小さい女……クリスタ?とかいう女の呼びかけに応じて手を振っている。

 嬉しそうに顔をほころばせているのがたまらなく気持ち悪い。

 後ろにいるデカい男は辺りを警戒しながらこちらに目線だけ送っている。


 ……ルイスがいない。

 不愉快ね、最悪だわ。

 こんなどうでもいい虫けらじゃなく、私はルイスに会いたいのに。


「殿下、ルイスはどこに……?」

「それが……」


 ストーカー女の問いに、細身の男が言いにくそうにしている。

 ……どういうこと?

 まさか、ルイスに何か!?


「早く説明しなさい、ルイスはどこにいるの?」

「おい、殿下に向かってなんだその口の利き方は!」


 デカい男が割り込んでくる。


「黙りなさい、早くルイスの場所を教えるの、でないと……次無駄な事で口を開いたら殺すわ」

「な……!?」


 私は本気だ。

 今は緊急時。

 こんなゴミの話なんて聞いている暇はない。


「落ち着け、グスタフ……ルイスは、魔物に捕まっている」

「なんですって……?」


 頭がくらくらする。

 ルイスのいない未来なんて、絶対に考えたくない。

 そんな事はあり得てはならない、何があっても。


「トーデスブリンガーっていう魔物、知ってるか?」

「知らないわ」


 知るわけがない。

 魔物になんて何の興味もない。

 

「死の国の騎士ともいわれている魔物だ。そいつが、ルイスを死の国に閉じ込めている」

「どうして、そんな事わかるんですか?」


 カズハがデカい男に尋ねる。

 確かに気になる、それがわかるってことは、この男たちはルイスが連れていかれるのを黙ってみていたって事になる。

 使えない男どもめ。


「いきなり奴がこの壁を破って入ってきたんだ。それで……」

「それで? あなた達ががぼーっと見てる間にルイスが連れ去られたってわけね」

「本当に一瞬だったんだよ!」


 どうでも言い訳を喚いている。

 このゴミの鳴き声を聞いている暇は今の私には存在しない。

 

「で、どうやったら助けられるの? その死の国? とやらには、どうやったらいけるのかしら」


 ルイスを助けるためなら、死の国だろうが地獄だろうが関係ない。

 どこにだって行く。

 私の人生にはルイス以外なんの価値もない。


「無理だよ、どうやっても行けない」

「……は?」


 嘘をついてるんだとしたら、目の前の男を今すぐにでも殺してしまいたい。

 くだらない、実にくだらない最低の嘘だ。

 信じない、信じてなる物か。


「じゃあ、ルイスはもう帰ってこないんです……か?」

「いや、希望はある。ルイスがトーデスブリンガーに勝てばいい」

 

 カズハの問いに、細身の金髪が答える。

 なんだ、あるじゃない簡単な方法が。

 

「そんな簡単な方法があるなら先に言いなさい」

「残念だけど簡単じゃない、あいつは僕でも勝てないよ」


 細身の金髪がうだうだとわけのわからない事を言っている。

 息が臭いから消えてくれないかしら。

 気色が悪い、ルイス以外の男が近くにいるだけで身の毛がよだつ。


「だから何?」

「僕より弱いルイスに勝てるとは思えない」


 この声からしてナルシストの、気持ちの悪いなよなよした棒は、どうやら自分の実力が分かっていないらしい。

 周りから過大評価され続けて今日まで生きてきたのね。

 じゃなければ、こんなにも狂った自己評価はできないわ。


「あなたがルイスよりも強い? 冗談じゃないわ」

「悪いけど、これは事実だよ」

「ルイスは誰よりも強くて、誰よりも優しくて、誰よりも格好よくて……そして、誰よりも私の事を愛してくれる、救ってくれる英雄なの! あなたみたいな……」

「ストップ! クオン様、流石にそれ以上はまずいです!!」


 カズハが私と金髪の棒の間に入る。

 折角私が間違いを正してあげているのに、なんて女なのかしら。


「どきなさい」

「クオン様、あなたがここで殿下の機嫌を損ねれば、ルイス様にも迷惑がかかりますよ?」


 うっ……。

 それを言われると痛い……。

 確かに、こいつは腐っても第三王子。

 私たち夫婦の立場を考えたら、それはよくない。


 追っ手を皆殺しにして逃亡するのも楽しそうだけれど、誰もがうらやむ最高の夫婦になるほうがきっと幸せだと思うもの。


「大丈夫、これ位でどうにかしたりはしないよ」

「そう、寛大な心に感謝するわ」


 ルイス以外に出来る精一杯の感謝を伝える。

 本当なら、一ミリたりとも謝罪や妥協はしたくないけれど……。


「とにかく、今はここでルイスが勝つことを祈るしかない。どちらにせよ決着がつけばここに出て来る。」

「そうね……」


 デカい男の言う通りだろう。

 何もできないのは癪に障るけど、待つしかない。


 お願い、ルイス。

 勝って、戻ってきて。

 私はもうあなたがいない世界には耐えられない。


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