第15話 死闘

「“ライトニング“!」


 まずは、視界を奪うためお得意の魔術を放つ。

 フルプレートの鎧でおおわれているこいつに目があるのかは知らんが、それを確かめるためにも牽制は必要だろう。

 

 効果が定かじゃないからまだ加護は使わない。


「ウ“ッ」


 目を覆い、わずかに怯む。

 よし、効いているみたいだ。


「死ねぇ!!!」


 わずかな隙をつくように、一気に加速しトーデスブリンガーに近づく。

 腕を狙い、決死の勢いで剣を振るう。


 だが、寸前で相手が避ける。

 やはり、中級魔術では効果が薄いんだろう。

 すぐに視力が復活し、回避されてしまった。


 だが、まだ距離は殆ど離れていない。

 目の前には態勢の悪いデカブツ。

 ならば、ここで一気に……!


「“シーセン“!!」


 間髪入れず、魔術を叩きこむ。

 クリティカルが出るように“望み”、それは見事に成功する。

 魔力の流れが完璧だった時特有の感覚。

 クリティカルは、シーセンの威力を数倍にはね上げる。


「ナッ!?」


 俺の指先から放たれた鉄の塊は、フルプレートの鎧を撃ち抜きトーデスブリンガーの脇腹を貫いた。

 鎧から血があふれ出している。

 ここで一気に畳みかける!

 手元の剣を両手で握り直し、踏み込む準備を整える。

 俺と敵の距離は殆どない。

 至近距離で肉薄し、必殺の距離だ。


「音切りっ」


 今度こそ、腕を切り落とそうと剣を振り上げる。

 

「“ネクロシールド“」

 

 黒い靄がトーデスブリンガーの腕を覆う。

 魔力の盾に防がれ、俺の剣の勢いが一気に衰えていく。

 くそ、だめか……!


 後ろに飛びのき、距離をとる。

 あいつ、魔術まで使えるのかよ……。


「アキラメロ」

「お前がなっ」


 さて、どうするか。

 てのひらを見ると、120と書かれている。

 クリティカル1発30か…。

 となると、まだまだ行けるな。


 クリティカルとファンブルは、ファンブルの方が倍出にくい、少なくともゲームではそうだった。

 ならば恐らく、ファンブルでは60減るのだろう。


 ブラインドで視界を奪い、今度こそ音切りで決める。

 ブラインドはクリティカルじゃなきゃ効かないだろう。

 

「コロス」


 作戦を考えていると、まるで俺の思考を止めようとしているかのように、今度は向こうから突撃してくる。

 やるしかない、ここで決めよう。


「“ブラインド“!」

 

 完璧な魔力の流れで魔術が決まる。

 クリティカル成功。

 間違いなく、加護は機能している。


「ナゼ!?」


 トーデスブリンガーが焦りの声を上げる。

 そりゃそうだろう、二連続クリティカルなんて本来ならあり得ない。


 とはいえ、もって数秒だろう。

 俺は一気に距離を詰め、足に向かって指を向ける。

 歩みを止めず、走りながら魔力を籠める。


「“シーセン”っ」


 クリティカルによって強化された一撃が、トーデスブリンガーの足の肉をそぎ落とす。


「ナ?!」


 貫かれた太ももから血が噴き出し、体重を支えきれなくなり片膝をつく。

 見ると、脇腹の血は止まっている。

 恐らく回復したんだろう。

 つまり、ここで決めきらなければ時期に足も復活して、俺は殺されることになる。


 幸運の残機は残り60。

 決めるなら、ここしかない。


「音切りっ!」


 トーデスブリンガーの首元に向け、剣を振り払う。

 これで息の根を止めてやる!!

 トーデスブリンガーも身構え、魔力を込めている。

 “あれ“が来る。


「“ネクロシールド“」


 腕への攻撃を防がれた魔術を使い、俺の攻撃を防ごうとする。

 確かに、発動すれば間違いなく俺の攻撃は通らない。

 奴もそれがわかっているんだろう、絶対的な自信があるのか、防御の構えはとっていない。

 寧ろ、反撃に意識を使っているように見える。


 だが、それが……それこそが敗因だ。

 俺は、奴の魔術のファンブルを望む。


 その瞬間、奴の首にかかりかけていた黒い靄は霧散し、無防備な〝弱点〟が晒される。

 

った」


 俺の剣が、容赦なくトーデスブリンガーの首を切り落とす。

 固いフルプレートの間、着脱できるよう開いている隙間をすりぬけるように剣が走る。


 首が床に落ちる鈍い音が聞こえる。

 振り向くと、トーデスブリンガーの首と胴体は綺麗に離れ、血が噴水のように流れ出る。


「か、勝った……」


 どうにか、勝てた……。

 てのひらの数字は、0になっている。

 薄氷の勝利だ。

 

 でも、これでどうにか……。

 

「クオンに会える……」


 達成感で頭が震える。

 アドレナリンが過剰分泌されている感じだ。

 

 周りを見渡すと、どんどん靄が晴れていく。

 月明かりに照らされ、風が身体を横切る。

 壊された壁が目に入る。


 ああ、帰ってこれたのか……。

 どうやら、保養所に帰ってこれたらしい。


「おかえり、ルイス」


 後ろから声が聞こえる。

 少しかすれた声が、今の今まで泣いていたことを思わせて、心が苦しくなる。

 それでも、誰の声なのかはすぐにわかった。


「ただいま、クオン」


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