第11話 鎧の戦士
物語の主役になりたいという夢をあきらめたのはいつからだろう。
人生はいつだって自分中心で、自分こそがこの世界という物語の主人公であるという確信を忘れてしまい、ただのモブキャラに過ぎないという現実を知ったのはいつだっただろう。
前世でいつだったかはもう覚えていない。
でも、今この人生では、自分が“自分”であると認識したその瞬間に、自分はこの世界の主役ではなくただの“悪役”で、誰も気に留めない端役だってことに気づいた。
そのはずだった。
でも、俺はいつの間にか浮かれていた。
クオンを救った時、俺はもしかしたら主役なんじゃないかと思った。
世界を変えられる、そんな力があるんじゃないかって、思ってしまった。
だけど、現実は全然違う。
目の前に立つ男……アルドこそが、本当の主役なのだ。
仲間のピンチに颯爽と駆け付け、一瞬で敵を切り伏せる。
格好良すぎて輝いて見える。
ああ、なんだこれ……。
こんな姿、クオンやカズハには絶対見せたくないな……。
「ルイス、大丈夫か?」
「俺は大丈夫……ただ、グスタフが……」
「ん? ああ、グスタフなら問題ないよ」
横にいるグスタフを見る。
首が明らかに変な方向に曲がっているし、全然大丈夫に見えないけど……?
「こいつは信じられない位丈夫だからな」
「はぁ……」
アルドがグスタフの元に向かい、頬を叩いている。
ひん曲がった首がくでんと動き、元の普通の位置に戻る。
え、なにそれこわ……。
「痛いんだからもう少し優しく起こしてくれ……」
「オーガを甘く見た報いだな」
「次は気を付ける……」
そう言って、何事もなかったかのようにグスタフが立ち上がる。
なんですか、それ……?
俺のデータにはないぞ?
「首はその、大丈夫なのか?」
「え? ああ、まぁ……。自己回復魔術を極めてるからな」
「へぇ……」
そんな設定無かったはずだが、原作が改変されている?
原作知識が信用できなくなってきた……。
「ところで、あの魔物はなんなんだ?」
「俺たちもわからない、ルイスは何か知らないのか?」
「いや、わからん」
これが試験だって事は言わない方がいいだろう。
なんで知ってるんだ?ってなるに決まってる。
「取り敢えずクオンたちに合流しませんか?」
「ん、ああそうだね。もう一匹いたら大変だ」
アルドの同意も得たし、急いで西側の女子たちがいる部屋に向かう。
俺の信用にならなくなりつつある知識が正しければ、もう一匹出てるはずだ。
まあ、だとしてもクオンがいるからどうとでもなる気はする。
「ところで、ルイスは武器を持ってないのか?」
「トイレに行く途中で出くわしたもので……」
「ならほら、一本貸すよ」
「あ、ありがとうございます」
そう言って、アルドが持っていた予備の剣を渡してくる。
装飾が明らかに豪華で、あからさまな高級品だ。
嬉しいけど、値段聞きたくねえ……。
ガタッ
武器を貰い廊下を歩いていると、物音が聞こえる。
その音はどんどんと大きくなり、窓が揺れる。
「な、なんだ!?」
「わからない、とにかく武器を構えよう!」
アルドが的確な指示を出す。
さすが王子だなぁ……。
なんて、感心している場合ではない。
ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタッ
明らかに窓の揺れが大きくなる。
尋常じゃない気配、絶対良くない何かが来る……!
直後、廊下の窓側の壁が勢いよく破壊され、“何か“が突入してくる。
信じられないほど強烈な衝撃波、そして感じる威圧感。
目の前にいる“何か“は、明らかにオーガのそれを超える脅威だ。
「……」
轟音と共に訪れた“何か”は、入ってきた時とは正反対に、寧ろ静かすぎるくらいに黙ってこちらを見つめる。
全身に黒い甲冑を着込み、手には巨大な斧を担いでいる。
人間……?
いや、魔物か……?
どちらともとれる。
そして、そのどちらだとしても間違いなく俺たちの敵だ。
「俺とルイスで囮になる。お前だけは逃げろ」
は?
なんで俺も囮の頭数に入ってるんだ??
「そんなの駄目だ!」
そうだそうだ!
忠誠心は結構だが、死ぬなら自分だけにしやがれ。
「だが、こいつは明らかに別格だ!」
「だからと言って……!」
二人が言い争いを始める。
このままこいつらを囮にしてやろうか?
……まあ、それは最終手段か。
今は目の前のこいつをどうにかしなければ。
道を塞ぐようにたたずみ、こちらの様子を注意深く見守る鎧の戦士。
こいつは何者だ?
原作のキャラ、ではないような気がする。
と言っても、魔物だったらわからんが、人間で斧を持った黒ずくめの鎧キャラなんていないはずだ。
「オマエダ」
黒ずくめの鎧の戦士が、そう言って俺に指をさす。
オマエダ、ってなんだ……?
「え?」
指をさされてから数瞬後、俺の視界には鎧の戦士しかいなくなっていた。
は?
え、なんだこれ?!
周りを見渡す。
黒い靄で囲われた謎の空間。
床も無機質な黒い何かで塗りたくられている。
なんなんだ、これ?
「シヲウケイレロ」
そう言って、目の前の鎧武者が一気にこちらに近づいてくる。
急いで剣を抜き、振りぬいてくる斧を受け止めようと構える。
が、駄目。
明らかに間に合わない距離だ。
必死に飛びのき、距離をとる。
さっきまで自分がいた位置に、斧が振り下ろされる。
判断が遅れてたら死んでた……。
「くそが!」
やるしかない。
周りには誰もいない。
こんな謎の空間に隔離された以上、こいつを殺すしか生き残る道はない。
一刀流にはいくつかの奥義がある。
その中でも“撫で切り”は多対一での切り札だ、俺は使えないけど。
使うには身体能力も、それを補う魔術も、何もかも足りていない。
なら、一対一の奥義なら?
それならば、俺でも使える。
それだけは、子供のころからずっと練習してきた。
剣を構え、鎧の戦士を見据える。
床に振り下ろされた斧を担ぎなおし、再度こちらに向けて突撃の構えをとっている。
力では勝てない。
なら、速さで勝つ……!
鎧の戦士が動き出す刹那、その一瞬の隙を突きこちらから動く。
一刀流奥義“音切り”
音すら切り裂く速さで、敵を切り伏せる。
単純にして明快。
故に、力さえ伴えば最強の業だ。
足に力を溜め、一気に開放する。
鎧の戦士の首にめがけて突撃を……。
突撃を、かけようとした瞬間。
俺の身体が、急停止する。
いや、正確には俺だけじゃない。
目の前の鎧の戦士も止まっている。
「ぷー、くすくす! あんたバカじゃないのっ」
声が聞こえる。
酷く性格の悪そうな、嘲笑混じりのいけ好かない声。
「ねえねえ、どうしたらそんなに頭が悪くなるの? 親? それとも、教育かしら??」
目の前にこの世の物とは思えないほど綺麗な女が現れる。
金色の髪に豊満な胸、愛くるしい二重の瞳。
そんな姿の女性から、俺を罵倒する数々の言葉が飛んでくる。
まじで、なんなんだこの女……?
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