第10話 クオンの実力
轟音と共に目を覚ます。
何事かとドアを見ると、3メートルは有るかという人型の化け物があたしの部屋のドアを破壊してこちらに向かってきている。
なに、どういうこと!?
全然意味が分からないけど、取り敢えず枕元にある刀を手に取る。
お父さんが故郷で使っていた物らしいこれは、みんなが使う“剣“とは違い、薄く、細いけど、圧倒的に切れ味がいい。
とりあえず早くここから逃げるか、あいつを倒すかしないと……。
あいつは何者だろう?
大きさや見た目からして、鬼人系の大型モンスター……。
となると、オーガとか?
わからない、あたしはモンスターに詳しくないし……。
仮にオーガだとしたら、ダイヤモンド級の冒険者じゃないと一人で倒すのは難しいはず。
どちらにせよ、一人で倒すにはなかなか厳しいモンスターね。
ルイスとか、せめてあの気に食わない伯爵令嬢が居れば……。
「グオォォォ!!」
オーガが雄叫びを上げながら近づいてくる。
狭い部屋の中にある家具やらなんやら、全部壊しながら来る様は狂気の沙汰だ。
正直、すごく怖い……。
「“速度強化“!」
私が唯一使える魔術で自分の身体能力を上げる。
これで、無理矢理避けるしかない!
狂ったように走り寄って来るオーガの攻撃を寸での所でかわし、部屋の廊下側に出る。
これで逃げ道は出来た……!
すぐさま部屋の外に出て、ルイス達がいる東側の部屋に向かおうと走り出す。
……でも、駄目だった。
目の前に10匹くらいゴブリンが待ち構えている。
最悪すぎるっ。
仕方ない、オーガがこちらに来る前にこいつら全員斬り殺す……!
「グギィ……」
こちらを向き、警戒したように身を低くするゴブリンたち。
後ろからは、ドスンドスンと大きな足音が聞こえる。
恐らく、そろそろオーガが部屋から出て来るだろう。
やるしかない……!
刀の鍔に手をかけ、全神経を目の前の敵に集中する。
後ろは気にしない、前だけ見る。
「死ねぇぇぇ!!」
速度強化の魔術で速くなった身体で、ゴブリンの首を正確に狙う。
ゴブリンが反応することすらできない圧倒的な速度で、容赦なく切り落としていく。
一刀流奥義、“撫で切り“
あたしの流派、一刀流における多対一を想定した奥義。
身体強化の魔術と、この刀のおかげでどうにか使えるこの技は、この国ではあたしと父しか使えない。
ルイスだって使えない、あたしの切り札だ。
……でも、まずいな。
「グオォォォオオオオ!!!」
オーガが部屋から出てきてしまった。
獲物が逃げ、仲間が死んだことにお怒りみたい。
うん、これはもう戦うしかないわね。
こいつがルイスの元に行ったとき、少しでも戦いやすくするために、せめて腕の一本位は持って行ってやる。
「“プロテクション”!!!」
突如、目の前に魔力で出来た壁が出来る。
「カズハさん、早く逃げましょう!」
「え、クリスタさん!?」
クリスタさんがあたしの手を掴んで走り出す。
ど、どういうこと……?
「あれだけ大きな音で戦ってたらわたしだって起きますよ!」
「それで、助けに来てくれたの?」
「もちろん、とにかく早くクオンさんと合流しましょう」
後ろからオーガの怒り狂った声が聞こえる。
プロテクションで出来た魔力の壁に武器をたたきつけているみたい。
「そ、そうね」
「あの壁はそんなに長くはもちません。クオンさんを起こして、そのあとはアルドに助けて貰おう!」
アルド……あの王子様か。
ルイスは随分と彼を警戒している様子だったけど、信用できるのかな……?
「あ、ついた!」
少し走ったらクオンの部屋に着いた。
まあ、そんなに離れてないし当たり前だけど。
ていうか、なんでクオンは起きないの?
結構大きい音出てるよね?
馬鹿なの?
「クオンさん! 起きてください! 大変なんです!」
クリスタが部屋のドアを叩き、大声で呼びかける。
特に何の反応もない。
しばらく待っても、一向に起きてこない。
その間に、オーガが壁を壊したんだろう。
グオオオオオォォォという、大きな声と共に近づいてきているのがわかる。
「や、やばいです! どうしましょう!?」
「しょうがない、壁を壊すわ!」
緊急事態だから仕方ない。
あたしは、刀に手をかけ集中する。
「やめなさい」
扉の中から声が聞こえる。
ようやく起きたみたい。
「クオンさん! 早く出てきてください! 急がないと、魔物が!」
「うるさいわね……」
心底機嫌が悪そうな低い声でクオンが返事をし、扉を開ける。
部屋の中にはまさに寝起きって感じの顔で、クオンが立っている。
「なんなのよ……」
「この屋敷に何故かオーガと、あとゴブリンがでたんです! 早く逃げてアルドに助けてもらわないと……!」
「アルド……?」
クオンの声がより低くなる。
そこそこ付き合いが長いからわかる。
これは、怒っている。
「そう、アルドならオーガでも倒せると思うから、早くいこ?」
「なんで私がルイス以外の男に助けられないといけないの?」
そう言って、部屋の外にのそのそと歩きながら出ていく。
あたしたちの前に立ち、廊下の先のオーガを見据えながら怒りで魔力が身体から溢れ出している。
完全に、スイッチが入っている証だ。
「え、えとね! アルドはすっごく強いの、だから、ね?」
「クリスタさん、無駄よ。 こうなったらもう何も聞こえてないわ」
身体中に漏れ出した魔力を纏い、さながら英雄譚に出て来る魔王のような様子だ。
こうなったクオンを止められるのはルイスしかいない。
「グオオオオオォォォ!!!」
あたしたちを見つけたオーガが血走った目で走り寄る。
こん棒のような武器を振り回し、窓やら家具やらをぶち壊しながら、ひたすら一直線にこちらに近づく。
「“うるさい“!!!」
クオンがそう叫ぶと、オーガの身体は爆散し、辺りには血と臓物だけが散らばった。
廊下には“オーガだった何か“があるが、それがオーガだとはもう誰にも分らない。
そんな、むごい死に様だ。
魔術ではない、ただ巨大すぎる魔力をぶつけただけの一撃。
それだけで、私が死を覚悟したオーガを消し去ってしまった。
「で、誰に助けてもらうのかしら?」
落ち着いたのか、身体から出る魔力が無くなったクオンがこちらに振り向きながら尋ねて来る。
「す、すごい……」
クリスタの身体は恐怖と驚愕で硬直している。
やはり、クオンは別格に強い。
でも、だからこそルイスをこんな危険な人から救い出したいって、改めて思う。
あの人は、もっと普通な人と……。
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