第9話 vsオーガ
オーガとの距離は20メートルもない。
戦うならばをつけるなら、気づかれる前にすぐに攻撃をつけるのがベストだ。
だが、大きな懸念点がある。
「おい、グスタフ」
「なんだ」
「武器が無いんだが……」
「はぁ!?」
グスタフが静かに、だがかなり焦ったようにキレる。
さっきはどうにか魔術と素手で対応したが、オーガ相手にそんな事出来るわけがない。
困った、本当に困った。
「お前、魔術は使えるのか?」
「ある程度は……」
「何が使えるのか教えろ」
俺は自分が覚えている魔術をグスタフに教える。
魔術にはいくつかの種類があり、それぞれ対人、対軍、対地魔術と、それぞれ対象にする相手でカテゴリが異なる。
そのカテゴリの中で更に対人魔術だけは、初級、中級、上級、特級と別れている感じだ。
そして、腕の良い魔術師でも中級魔術以上の魔術は、そんなにポンポン種類を覚えられるわけではないのだ。
例えば俺の場合は中級魔術だと、
・光を放つ“ライトニング”
・敵の視界を奪う“ブラインド“
・指の先に鉄を生成し、それを高威力の爆発で射出する“シーセン“
の三種類だけだ。
他は初級魔術だけだ。
上級魔術は原則使えない。
取り敢えず、レパートリーは全てグスタフに伝えた。
「まあ、ない袖は振れない。ルイスは魔術で援護、俺が近接攻撃。これでいいな?」
「それで行こう」
「よし、じゃあ俺が攻撃する瞬間にブラインドを頼む。あとは流れでどうにかするぞ」
なんとも適当な作戦だが、緊急時だし仕方ない。
幸い、オーガはまだこちらに気づいていないようだ。
オーガみたいな大型で力のある魔物は大抵警戒心が薄い。
襲われることが少ないから、本能的に気にしていないんだろう。
準備を終えたグスタフが、気づかれないように背後からゆっくりと近づいていく。
慎重に、ゆっくりと……。
暗い廊下、物音を立てるようなものは何もない。
オーガは殆ど警戒した様子もなく、ただただ廊下を歩いている。
まるで、アルドがいる部屋がわかっているかのように一直線に目指しているようにすら見えて来る。
ギシギシと、大きな音が廊下から鳴る。
たまたまグスタフが踏んだ板が老朽化していたのか、床の軋む音が鳴ってしまったみたいだ。
普段なら気にならないような音も、真夜中の廊下では轟音に近しい音だ。
案の定、流石のオーガも気づき、グスタフと目が合う。
「グオオオオオォォォ!!」
突如、オーガが威嚇するように叫びグスタフに走り寄る。
最悪だ!
どんだけ運が悪いんだよ、くそっ。
「ブラインド!!」
オーガを対象にブラインドをかける。
目に黒い靄がかかり、視界を失ったオーガは壁に激突する。
「うらぁ!」
その気を逃さずグスタフがオーガの身体に剣で斬りかかる。
対格差もあって、腰のあたりを斬りつける格好になったが、あんまり深くは傷つけられてなさそうだな……。
「グスタフ、距離をとれ!」
「いや、もう一撃!」
そう言ってグスタフが今度は脇腹辺りに剣を突き刺さそうと構える。
が、オーガが振り回していた腕がグスタフに直撃し、吹き飛んでいく。
「おいおい、まじかよ……」
グスタフは倒れこんだまま動かない。
やばい、メイン火力が……。
なんで、こんなにグスタフが弱いんだ……?
ゲームではもっと頼りになったのに。
少なくとも、オーガに一撃でやられるような耐久ではなかったはずだ。
……いや違う、あれは2年後なんだ。
今はまだ15歳、ゲーム内でのレベル1にすら到達していない。
そりゃあ、勝てるわけない……。
「グオオオオオォォォ!!!」
再度雄叫びを上げ、オーガが近づいてくる。
恐らくブラインドの効果は既に切れているだろう。
「ライトニング!」
強い光を放つことに集中したライトニング。
ブラインドで目が暗闇に慣れた直後にこれなら、かなり効果があるだろう。
「グオォォォ!?」
案の定、効果は絶大みたいだ。
剣らしき武器を振り回し、喚いている。
暗闇で使うライトニング、めちゃくちゃ強いな……。
このまま一撃で仕留めるしかない。
よし、いくぞ……!
指先に魔力を集中し小さな鉄の球を形成。
それを一気に爆発魔術で弾き飛ばす。
言ってしまえば、指先を銃に見立てて弾を発射する。
「シーセン!!!」
剣が使えない今の俺の最大火力。
それを、オーガの胸にブチコム。
「グォォォォォ!?!?」
オーガは、苦悶に満ちた叫び声をあげ胸から血が噴き出る。
これは、やったか……?
「グゥゥゥ!!オオォォォオオォオ!!!」
オーガが血走った目でこちらに突撃する。
こいつ、これで死なないのかよ!?
ていうか駄目だ、絶対避けられない。
死ぬ、これは間違いなく……!
ごめんな、クオン……。
「チェンジ」
声が聞こえた瞬間、俺の視界に映る光景が全く別の物になる。
隣には倒れこんだグスタフがいて、目の前にはオーガが何かに突撃している。
さっきまで俺がいた位置にいる“何か“に。
そして、その“何か”は一瞬でオーガの腕を斬り飛ばし、苦悶の声をあげながら倒れこむオーガの首を切り落とした。
「ふぅ、危なかったな」
オーガを切り殺した“何か“……アルド・ヴィッテルスバッハが笑顔で近づいてくる。
まるで軽い力仕事をした、みたいな。
そんな、なんでもない行動をしたかのように振る舞っている。
化け物、だ。
これが、主人公。
俺の本能が告げている。
こいつとは敵対してはいけない、と。
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