第3話 お義父様

「ルイス様、お客様がお見えになっております」


 クオンが帰ってこない事に頭を抱え、どうやってやり過ごそうか考えていると、部屋にジルが入ってきた。

 昔と比べて更に大人っぽく妖艶になったなぁ……。


「客?」

「はい、ドミニク様です」

「お父様が?」


 自分の父親の名前を聞いて、クオンが正気に戻る。

 ドミニク様とは、クオンの父の名前だ。

 

「ルイス様にお話があると……何をしたんですか? もしや、ついに手をっ!?」

「出してないよ!」


 ついさっき出しかけたけど……。


「まあ、いいです。お待たせしてはいけません、すぐにご準備を」

「ん? ああ、たのむよ」


 寝起きでボサボサの髪を、ジルが丁寧に梳かしていく。

 なんかこう、貴族っぽくていいな。


「……もう一人増やす気なの?」

「何を?」

「妾」


 クオンが恨めしそうにそう言って、俺の方をジーっと見つめて来る。

 ジルは面倒くさそうにため息をついている。


「妾になるつもりは毛頭ありませんので、ご心配なく。でも、時折視線が気になるのは子供のころから変わっておりませんね。……それと、そろそろお着換えのために服を脱がせますのでクオン様は外でお待ちください」


 そう言って、ジルはにやりと笑う。

 こいつ、完全にわかってやってるな。


「煽らないでくれ……」

「ちっ、まあいいわ……。私はとっても寛容だから許してあげる」

「寛容?」


 クオンは不満そうに俺を一瞥すると、部屋から出ていった。

 

「なあジルさんや、ああいう言動は控えてくれよ」

「申し訳ございません、つい、からかい甲斐があるもので」


 慇懃無礼なメイドに見えて、意外とお茶目なところがあるんだよな……。



 ―


 ――


 ―――


 さて、着替えも終わり準備も整ったところで客間に向かう。

 そんなに広い屋敷でもないが、これでも一応は貴族の屋敷だ。

 それなりの調度品は揃えてあるし、どこにだしても恥ずかしくない……はずだ。

 

「やあルイス君、久しぶりだね」

「お久しぶりです、ドミニク卿」


 おお、なんか貴族っぽいやり取りだ。

 基本は村にしかいないからこんな“それっぽい”挨拶するのは滅多にない。

 いいな、こういうの、好き。


「おーそーいー、おーそーすーぎーっ!」


 俺がいい感じに中二心を満たしていると、不機嫌なお姫様が声を上げる。

 言わずもがな、クオンだ。


「申し訳ございません、着替えにお時間をいただいたもので……」

「まあ、別にいいけれどっ」


 そう言ってそっぽを向いてしまう。

 どうやらジルのからかいで機嫌を悪くしたらしい。


「はぁ……。まあ、取り敢えず話を進めさせてもらうよ」

「あ、はい……」


 呆れたように娘を一瞥し、すぐに俺を真剣な目で見つめるドミニク卿。

 なんだろ、緊張するな……。


「君と、そこの我が子が親密な関係なのは理解している。君が呪いを解いてくれたこともだ」

「はい……」


 呪いの事はドミニク卿も気づいていたらしい。

 流石に女神の物とまではわかってないが、何かしら呪術の類だということはわかっていたそうだ。

 だからこそ、自分が娘を殺さないように娘を田舎に追いやり、定期的に引っ越しまでさせていたそうだ。


 ……世間一般ではそれを“捨てた”と表現する気もするが、それは今俺には関係ないし問い詰めないでおこう。

 

 ちなみに、あの日の事はしっかりバレている。

 俺が屋敷に侵入し、キスをした事で“たまたま“解呪されたということにはしているが……。


「だからね? 君の事も無碍には扱いたくはない。ただ、わかるだろう?」

「ええ、それはもちろん」


 気まずそうにドミニク卿が声を細くする。

 要は、娘をあきらめろと言いたいんだろう。

 理由は、さっき部屋で考えていた通りの理由だ。


「ただね、娘から聞いてるとは思うんだが……君が、王立騎士学校で主席になれば、例外を認めようじゃないか」


 無茶を言う親子だ……。

 

「無理難題だというのはわかる、だが……主席になれば王族の騎士になることも可能だ。そうなれば、身分としてもギリギリ恰好はつく。なんとか周りを説得することもできる」

「ですが、私の実力ではそもそも主席など……」

「大丈夫、私が全力でサポートするわ!」


 クオンが胸を張る。

 裏ボス様のサポートがあればいける、のか?


 いやいや無理だろ……。

大体、17歳になった主人公たちが一斉に通い始める学校に、年下の俺が行って勝てるわけないだろ。


 ……あれ?

 17歳になった主人公?

 確か、俺と主人公――アルドって、同い年じゃなかったか?

 うん、間違いない、同い年だ!

 だったら、あいつらより2年早く学校に通うって事だよな?

 ……なら、どうにかなるんじゃないか?

 

 俺だって、何もしてなかったわけじゃない。

 武勲を立てるためにそれなりに訓練は積んだ。

 腐っても“中ボス“になる男。

 鍛えた俺なら、ましてや、バックに裏ボスがついてるなら、そこらの本当のモブになら勝てるかもしれない。


「なあ、悪い話じゃないだろう? 君と結婚できないとなった時のクオンの暴走は……考えたくもない。それは君も同じじゃないか?」

 

 ドミニク卿が怯えた表情で問いかけて来る。

 皆殺し√はドミニク卿も嫌なんだろう。

 

 俺もいやだ。

 それに、何よりも嫌なのは。

 どこの馬の骨ともわからんやつにクオンを……俺の女を触れさせるのは我慢ならん。

 アルド達が現れないのなら十分に勝機はある。

 なら、少しくらい頑張ったっていいだろう。

 NTRは好きじゃねえんだ。


「ドミニク卿、いえ、ここは敢えて“お義父様”! ぜひわたくし挑戦させていただきたい!」 




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