第27話 救出

 カズハに触る汚い男を切り捨てる。

 俺の物に手を出す“ゴミ“を一人この世から排除したが、それでもまだこの地下にはたくさんの屑がいるだろう。

 俺は、そいつらを全員殺さなければならない。


「ルイス……ごめんね」


 片手片足、そして片目。

 それぞれ一つずつ失い、痛々しい傷だらけになったカズハが、かすれた声で俺に謝罪する。

 謝るのは俺の方だ……。


 一体どれほどの拷問を受けてきたのか想像もできないようなボロボロの姿だ。


「カズハ、遅れてごめん。一人で向かわせてごめん……」


 俺が謝罪すると、カズハが声をだして泣き始める。

 それだけここでの生活が辛かったんだろう。

 当然だ、こんなにもボロボロになっている。


「約束を守ってくれただけで、あたしは……それより、学校は……?」

 

 こんなボロボロになっているのに、それでも俺を心配してくれる。

 本当に心の優しい子だと実感する。


「気にしなくていい、俺は男爵になるから」

「そっか……」

「ああ、だからゆっくり休んでくれ」

「……うん」


 じめじめとした暗い地下室で休むなんて辛いとは思うが、とりあえずここを焼き払うまでは我慢してもらおう。

 ここにいる“敵“は、全員生きたまま焼いても足りない位だ。

 絶対に許してやらない。

 

「本当に、よく耐えてくれた……。生きててくれるだけで俺は……」


 そう言ってカズハを抱きしめる。

 綺麗だった肌は傷だらけになっている。

 身体からは血と汗の匂いが漂う。

 まともな扱いを受けていなかったことは容易に想像がついてしまう。


「でも……もうあたし戦えない、役に立たない……」


 腕も足も一本ずつ失い、もう戦士としての能力は失われたと言っていいだろう。

 だけど、それがどうしたって言うんだ。

 そんな事どうでもいい。

 生きていてさえくれれば、それで十分だ。


「大丈夫だよ、カズハがいてくれるだけでそれ以上なにも求めない。俺と一緒に過ごしてくれればそれで……」

「ルイス……」


 カズハが俺の胸で涙を流す。

 抱きしめながらしばらく過ごすと、部屋のドアが開く。


「感動の再開をしているところ悪いけれど、この先に敵がいること忘れていないかしら?」

「わかってるよ、クオン」


 後ろからクオンが入って来る。

 見えてはいないけど声でわかる。


「ここにはどれくらい敵がいるの?」

「たぶん……50人くらいです」

「呆れた……、そんな人数にやられるなんて」


 クオンが言うことも正論だ。

 総人数1000人近かったはずが、このざまなんてあまりにもひどい。

 

「カズハ以外の捕虜はいるのか?」

「途中から別室に移されたから……。でも、かなりの数がいると思う」

「そうか……。クオンはカズハを連れて人質の救出を頼む」

「いいけれど……ルイスはどうするの?」


 そんなもの、決まっている。

 実に簡単な答えだ。


「カズハを傷つけた屑を殺す」

「ふふっ、いい表情してるわ」


 クオンが俺の目を見て嬉しそうに笑う。


「ルイス、だめ……!相手は、間違いなくダイヤモンド級以上の……」

「大丈夫、絶対勝つよ」


 そのために今まで運を溜めてきた。

 俺の手のひらには1万を優に超す数が刻まれている。

 それに、クオンが身体能力向上の魔術をかけてくれた。


 今の俺はあの王子並みの身体能力がある。

 十分に勝機はあるだろう。


「クオンはそれでいいの……?」

「夫が覚悟を決めたならそれを後押しするのが妻の役目よ」


 まだ夫じゃないけどね。

 

「だからって……」

「クオン、後は頼んだ」

「ええ……あなたも、絶対に勝ちなさい」


 納得しないカズハには悪いけど、これは俺のプライドだ。

 本当ならクオンに来てもらえば一瞬で勝負ありだろう。

 でもそれじゃあ、俺の心が許さない。

 カズハをこんな目に逢わせたやつだけは、必ずこの手で殺す……!


「ルイス……!」

「大丈夫」


 一度振り返り、カズハに笑顔を向けそのまま扉を開き外に出る。

 そして俺はカズハの腕を切り落としたやつに会いたいと、望む。


 手のひらの数字が少しだけ減り、加護が発動したことを確認し当てずっぽうで地下を歩き回ると、他の部屋よりも豪華な扉を見つけた。


 間違いない、ここだ。

 俺の直感が告げている。


「……よしっ」

 

 ほんの少しだけ緊張する。

 今から戦うのは元ダイヤモンド級冒険者。

 1000人の兵を殺せる敵だ。

 

 だがそれでも、負ける気はしない。

 違うな。

 負けるわけにはいかないと確信している。


 扉を開ける。

 目の前には、黒い装束の人間が立っていた。




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