第6話 主人公

第1班 

 アルド・ヴィッテルスバッハ

 グスタフ・ベックマン

 クリスタ・アイゼンスタット

 クオン・フォン・バーデン

 ルイス・ルーデンドルフ

 カズハ・レーニンゲン


目的地:第一保養所


第一試験場の壁に貼られている組み分け表をみて、俺は崩れ落ちそうになるのを必死にこらえた。

なんで、よりにもよってこんな……!

せめてアルドかグスタフ、どっちかにしてくれよ!


「やあ、君たちが一緒の班なんだね。僕はアルド、流石に名前ぐらいは知ってもらえているかな?」


 爽やかな声と共に、人当たりのよさそうなオーラを纏いながらアルドが話しかけて来る。

 隣にはグスタフと、白髪の小柄な美少女がいる。

 女の子の方はクリスタかな?

 アルド戦記のメインヒロインの一人で、アルドの幼馴染キャラだ。


「クオンよ、よろしく」

「……ども、カズハです」


 クオンとカズハも挨拶を返している。

 信じられない位塩対応だけど。


「ルイス・ルーデンドルフです。よろしくお願いいたします、殿下」

「殿下はよしてくれ、俺たちは学友なわけだし、せめて学校では気楽に接してくれ」

「善処します……」


 余り深く会話して目を付けられたくない。

 適度な距離間でいたいものだ。


「俺はグスタフ・ベックマンだ、よろしく」


 後ろから大男が近づいてきて、ぬっと顔を出しながら挨拶をしてくる。

 顔に迫力があって怖すぎる……。

 ゲームでももちろん登場する強キャラだし、気を付けないと……。


「私はクリスタ・アイゼンスタットです。みんな試験ですごかったよねっ! 私は、そんなに優秀じゃないけど……仲良くしてもらえると嬉しいなっ」


 か、かわいい……。

 元気で快活な中に儚さがあるのがすごく良い……。

 なんかこう、クオンやカズハとは違う正当なヒロインって感じが、流石メインヒロインの一人だ……。


「二人ともよろしく、仲良くしてくれ」


 出来るだけ印象に残らないように、可もなく不可もなく。

 それが今回の目標だ。

 カズハとクオンも頼むぞ……。

 俺は祈るように二人を見る、が。

 視線の先にクオンはおらず、やや前方、つまりは一歩前に出てクリスタの目の前にいた。


「クリスタさん、一つ言っておくわ」

「え、わたし?」

「ルイスに色目を使ったら、殺すわ。アレは私のよ」

「え、えぇ……?」


 終わった……。

 どう考えても最悪の初対面だ。

 俺の馬鹿!!!

 どうして一言釘を刺しておかなかった……!


 前方の三人は、それはもう啞然とした顔をしている。

 あーあ、最悪だよ……。

 

「ははっ、これは気を付けないとな」


 アルドが手をたたいて笑う。

 グスタフは、かなり訝しげにクオンの顔を見ている。

 クリスタは、怯えてる感じだ。

 三者三様だな。


「き、気を付ける、ね?」

「ええ、よろしく」


 クオンがまるで言ってやったわ、みたいな顔でこちらを見て来る。

 完全にドヤ顔だ、うぜえ。


「むむむ」

「カズハは変なこと言うなよ」

「……わかってるよ」


 小声でカズハに今度こそ釘を刺す。

 カズハの場合は平民だから洒落にならん、殺されても文句は言えないだろう。


「でも、クオンさんは伯爵家の人間だろう? よく結婚を許してもらえたね」

「許してもらうために、ここに通うのよ。ね、ルイス?」

「あ、ああ」


 不思議そうにしている三人に事情を説明する。

 こんな面子に主席を取る、なんて言ったら笑われそうだけど、みんな楽しそうに聞いていた。


「素敵ですっ、わたしが出来ることならなんでも応援しますっ!」


 特にクリスタはたいそう感動したようで、目をキラキラさせて話を聞いていた。

 他の二人も馬鹿にする様子は無かった。

 

 あれ、こいつらいいやつ?

 いやまあ、そりゃあ主人公なわけで。

 善人なのは間違いないだろう。

 

 だとしたら、このままちゃんと暮らしていたら敵になることもないのでは……?

 主席になるのは厳しいかもしれんが……。

 いやほんと、どうしよう……。

 兄貴達を殺して男爵になるか……?

 でもそれがバレたら目の前の王子に粛清されるかも知れないしなぁ……。

 というか、出来れば家族は殺したくないよ……。

 

 それにしても、なんでアルドは二年も早く学校に通ってるんだ……?

 よし、聞いてみるか。


「殿下……じゃない、アルドはなんで学校に通うことに?」

「ん? ああ、まあ、色々あったんだ」


 遠い目をしながらはぐらかされた。

 うーん、言いたくないのか?

 もう少し深く聞いてみるかな?


 ふと、アルドの隣を見るとグスタフが無言でこちらを睨みつけている。

 深く聞かない方がよさそうだな。

 虎の尾は踏むべきじゃない。


「そっか、まあ気が向いたら教えてよ」

「助かるよ」


 グスタフも満足したようにうなづいてる。

 聞かなくて正解だったみたいだ。


「さて、そろそろ宿舎に向かおうか。俺たちは第一保養所らしい。場所は、俺がわかるよ」


 流石王子、国の地理は頭に入ってるみたいだ。

 大丈夫かな、この後ゲーム通りならモンスターが保養所に出るんだよな。

 しかも、夜に。

 怖いなぁ……。


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