第23話

 俺の足下から生まれた闇が、二匹の魔物を形作る。


「な……なんだ、その力は……⁉ 貴様、私の知ってる悪魔と同じスキルを持っているのか!」

「違う違う。あんな雑魚のクソスキルと一緒にすんな。俺のほうが有能だ」


 リリンが言ってるのは、街中の住民たちを操っているあれだろ? ゾンビを生み出すことしかできないスキルと同じにされても困る。俺のスキルは魔物専用だが、その分質がいい。

 今からそれを証明してやる。


「行くぞ!」


 俺はコボルトロード、ゴルゴンと共に地面を蹴る。リリンへ接近した。


「ッ! 三対一とは卑怯な!」

「集団で戦争を吹っかけてきた奴の台詞とは思えないなぁ!」


 エルフ族の短剣を振る。

 リリンは回避のために腰をわずかに下げた。しかし、彼女の回避が間に合うより先にぴたりと動きが止まる。

 俺の隣でゴルゴンの双眸が輝いていた。


「石化⁉ ——きゃっ!」


 両脚を同時に石化されたリリンは俺の攻撃を避けられない。胴体を深々と短剣が抉る。

 最初は首を狙っていたが、石化されても急所だけは的確に守ったな。そのせいで体勢がぐらついている。


「ゴルゴンがいるんだから石化も使えるに決まってるだろ?」


 ちゃんと首がついてるからな。


 そしてゴルゴンの反対側にいたコボルトロードがカトラスを振り下ろす。その一撃をリリンは防御した。倒れこむように地面に叩きつけられる。


「かはッ!」


 剣で攻撃を防御したのはいいが、衝撃までは殺し切れない。口から血を吐いて苦しそうに息を漏らす。

 彼女に攻撃する前に短剣のスキル『精霊の祝福』は使っておいた。全てのパラメータが+20された今の俺の攻撃は、彼女にとって脅威となりえる。


 倒れたリリンに短剣を振り下ろすが、


「舐める……なぁ!」


 リリンが咆哮を響かせた。

 広範囲攻撃を喰らってわずかにダメージを受ける。


「効かねぇよ、それくらい」


 再び短剣を振り下ろした。

 リリンは首を傾けて致命傷を避けるが、俺の短剣は彼女の肩を刺し抉る。

 血と苦痛が零れた。


「ぐ……ぁあ!」

「せっかく苦しませないように首を狙ってるのになんで躱すんだ?」

「だま、れ……私は……まだ、死ぬわけには……いかない!」


 至近距離でリリンが広範囲高火力スキルを発動。先ほどのあれだ。掌に魔力が集まって、


「チッ。ゴルゴン」


 即座に俺はゴルゴンの石化を発動させる。だが、問題はこのあと。

 この女、自爆覚悟でスキルを使ったな。最初から防がれることを前提に、自分ごと俺を吹き飛ばす気だ。


「諸共消えろ、人間……!」

「させるかよ」


 パキパキと石化したリリンの腕。俺はその関節部分を狙って短剣の柄で叩く。

 石化の呪いを受けると一時的に防御力が低下する。バフ込みの俺の筋力ならリリンの腕を破壊するのは難しくない。


 次いで、壊したリリンの手を掴んで放り投げた。できるだけ遠くに。


 宙を舞うリリンの手。その掌に収まった魔力が暴走を始め——最後には周囲を巻き込んで盛大に爆ぜた。




「……ったく、爆発オチなんて最悪だな」


 爆風によって巻き上げられた土煙が立ち込める中、俺は体に纏わりついた闇を消し去って立ち上がる。

 リリンの魔力が爆発する直前、コボルトロードを盾にした。『亡者の檻』にはこんな使い方もある。


 そして自爆したリリンはというと……。


「かはっ! ごほっ! ……ま、まだ生きているのか……化け物、め……」

「お前がな」


 俺と違ってあの爆発を受けてなお普通に生きていた。さすが悪魔の女王。頑丈すぎる。


「でもよかった。これでようやくとどめを刺せる」


 短剣を手にリリンのそばに戻る。すると彼女は、大量の血を吐きながら言った。


「待て……人間」

「ん?」

「私は、死にたく……ない。まだ、死ねない……のだ」

「復讐が残ってるからか?」

「ああ」


 リリンは即答する。

 だろうな。お前は何よりも復讐することを優先していた。瀕死になった今でもそれを諦められない。


「頼む……もう少し、でいい。少しだけ……私を……」

「断る」


 エルフ族の短剣をリリンの心臓に打ち込んだ。

 刃は深々と刺さる。致命傷だ。


「がっ⁉ 貴様……!」

「ここまでやっといて謝ったら許されるとでも? 第一、お前を殺さなきゃ俺が裏切り者みたいになるだろ」

「嫌……だ。死にたく……ない。仲間にでもなんでも……なる、のに……」

「遅かったな、判断が」


 まあ、そもそも前提が違う。俺は最初から彼女がどう答えようと。殺して亡者の檻を使ったほうがいい。確実だ。

 ゆえに、これは避けられない死。俺がゴルゴンを手に入れた瞬間から、もうこの結末は確定していた。


 ゆっくりとリリンが瞼を閉じる。呼吸も止まり——死んだ。


【近くに悪魔リリンの死体があります。魂を回収しますか?】


「……回収しろ」


 システムに答え、俺は短剣を彼女の胸元から引き抜いた。血が流れる。


「シオン様……勝ったんですね……」


 恐る恐るといった風にカトラが声をかけてくる。彼女の後ろにはセレスティアもいた。

 どうやら無事らしい。


「凄い……私たちが手も足も出なかった敵を……」

「ゴルゴンの石化が無かったら確実に負けていたけどな」


 勝敗を分けたのはゴルゴンの存在。こいつの魔眼が無いとリリンの範囲攻撃を頑張って避けることしかできない。そのくせ、一撃でも喰らえば俺の体力だと即死だ。圧勝に見えて意外とギリギリだったりする。


「それより、空を見てみろ」

「え?」


 俺に言われ、二人は同時に上を見た。視線の先では、何体もの悪魔が遠くへ飛び去って行く。


「あれは……」

「悪魔たちが逃げてる。女王を失って勝てないと思ったんだろうな」


 イベント通りだ。おそらく街中に残る悪魔はもういないだろう。念のため街中を駆け回ることにはなりそうだが。


「シオン様の勝利です! シオン様が王都を救ったんですよ!」

「私は今……英雄が生まれた瞬間に立ち会っているのですね……!」

「英雄て」


 先ほどの「お前を殺す!」的な発言は何だったのかと言いたくなるくらい普通の女の子みたいな反応をするセレスティア。カトラのノリが移っているな。

 まあ、褒められる分には嬉しいけど。


「二人とも、まだ安心はできないぞ。悪魔が残っている可能性もある。ひとまず手分けして避難誘導なんかをしよう」

「はい! 分かりました!」

「お任せください。シオン様のために、粉骨砕身の覚悟で働きます!」

「む……無理しない程度にな」


 カトラはともかくセレスティア、お前はザックリ体を斬られたんだぞ。少しくらい休んでも罰は当たらないだろ。どんだけ真面目でいい奴なんだ……あ、血を吐いた。


 一応、セレスティアの容体を気遣いながら、俺たちは共に王都中を走り回った。

 もう女王はいないし、例え悪魔がいても俺たちなら問題ない。


 結果的に、俺の予想通りその後は何事もなく……『昏き欲望』は終わった。




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名前:シオン・クライハルト

性別:男性

年齢:15歳


レベル:40

体力:20

筋力:50

敏捷:50

魔力:20

ステータスポイント:21


武器

『エルフ族の短剣 C』

『ゴルゴンの魔眼 S』


スキル

『自然の恵み C』

『亡者の檻 SS』

(コボルトロード)

(ゴルゴン)

(リリン)

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【あとがき】

Q:リリンに救いはないんですか?

A:24話を読みましょう

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