第35話
寂れた建物の中に、二つの影が現れる。
一つはガラの悪い大男。鼻をほじりながら、どかっと汚れた椅子に腰を下ろす。
もう一つ、黒衣を纏った女性が、品性の感じられない大男に声をかけた。
「ねぇねぇ、グスタフちゃん。拠点が襲われたらしいねぇ?」
声色は子供のように高い。その甘ったるい声に、グスタフと呼ばれた男は顔をしかめる。
「ああ。俺がいないタイミングでおかしな連中が荒らしやがった。しかも、せっかく手に入れた『黄金の金槌』を奪われた。許せねぇ!」
「大胆な人もいるもんだねぇ。シトリーちゃんびっくり」
くすくすくす、と桃色髪の少女は小さく笑う。状況は決してよくない。にもかかわらず、彼女はどこか楽しそうだった。
「つうかシトリー、お前の仲間は?」
「ん~? ブエルちゃんたちなら死んじゃったよ~」
「はぁ? 何が起きてやがるんだ」
「さあねぇ。でも、悪魔を二人も同時に倒すなんて、今回の敵は結構強いかも?」
「俺のアジトを襲った奴と同じか?」
「みたいだね。情報くらいは入ってきてるよ」
「相変わらず耳のいい奴だな」
けっ、と不機嫌そうにグスタフは腕を組む。視線はシトリーに向けたままだ。
「……で? 俺は何をすりゃあいい?」
「ん~……今のグスタフちゃんじゃ絶対に勝てないだろうから、幾つか強化系のアイテムをあげるね? 頑張って殺して来てよ、敵」
「いいぜ。どのみち、邪魔する奴は排除しなきゃいけないからな」
にやりとグスタフは笑った。
シトリーはグスタフに死ねと言ったようなものだが、グスタフはそれを承知で戦いを求める。
盗賊団なんてただの隠れ蓑。男は本能的に闘争を求めている。それを知っているからこそ、シトリーも自由にさせた。使い勝手のいい駒ゆえに。
「じゃあまた後でね~。装備は運んでおくからさ」
「おう。精々……お前も足を掬われないように気をつけろよ?」
「あはは、グスタフちゃんは面白いこと言うなぁ」
すっとシトリーの目が細められる。彼女は妖艶な笑みを浮かべて言った。
「魔族であるシトリーちゃんが、ただの人間に負けるはずないじゃん」
▼△▼
キャロル王国を騒がせている盗賊団のアジトから、目当てのアイテムを奪い取った。
そのアイテムが持つスキル『合成』で、SS級武器の作成にも成功し、キャロル王国で達成しておきたい目標の半分が終わる。
残り半分は、キャロル王国を牛耳っている最強クラスの敵の一人、『魔族』の討伐とダンジョンのクリアだ。
盗賊団のアジトに捕らえられていた奴隷たちの解放も済ませ、俺とカトラ、アイシスの三人は宿に向かう。
そこで今後の予定を改めて話し合うことになった。
「——ダンジョン、ですか?」
俺の部屋に集まった二人の内、カトラが真っ先に俺の言葉に反応を返した。俺は頷く。
「ああ。明日、カトラとアイシスの強化を含めてダンジョンに行く」
「私たちの? どういうこと?」
強化、という単語が気に入ったのか、アイシスの瞳に輝きが宿る。
「そのまんまだよ。明日向かう予定のダンジョンに、ちょうど二人にピッタリなアイテムがある」
「それを……いただけると?」
「そういうことになるな」
正直、今後のことを考えるなら俺が持っててもいいが、せっかく仲間がいるなら共有しないとな。
少なくとも、今の俺には何の役にも立たないアイテムだし。
「ずいぶん気前がいいのね。報酬は私たちの体? エッチ」
「違うわッ!」
人を勝手にエロ親父にするな! 見たくないとは言ってないけどな⁉
「あら残念。混浴くらいなら許してあげるのに」
「こ……こんにゃく⁉」
カトラ、それ食べ物。
「混浴よ、混浴。自分の体型に自信がないのかしら?」
急にアイシスがカトラを煽り出した。カトラがむっとした表情で返す。
「……自信がないのは、むしろアイシス様のほうじゃありませんかぁ? うふふ~」
わざとらしく自分の胸を腕で持ち上げるカトラ。アイシスが「うぐっ⁉」と短い呻き声を漏らした。
「あんまり調子に乗らないことね、カトラさん。シオン様の好みは私かもしれないでしょ?」
「まさか。普通、壁には惚れませんよ?」
「殺すわ」
「受けて立ちます」
互いに武器を構える二人。俺は慌てて二人の間に入った。
「やめろ! 宿の人に迷惑がかかるだろ⁉」
「「…………」」
他人にも迷惑がかかると知ると、さすがの二人も矛を納める。
不満そうな態度で視線を逸らすと、刺々しい声でアイシスが言った。
「ところで、シオン様」
「ん?」
「シオン様がくれるっていうアイテムは、私たちを強くしてくれるのかしら?」
「ああ、それね。アイテムに頼りすぎるのはよくないけど、その通りだよ」
答えると、直後に、
「やったわ! 強くなれるのね⁉」
アイシスが珍しく興奮し出した。
「今より遥かに強くなれる。今後、俺の合成スキルでさらに強化できるだろうし」
「ありがとうございます、シオン様」
「ありがとう、シオン様!」
二人とも揃って頭を下げた。そこまで喜んでくれると嬉しいな。
「でも……わざわざ私たちの強化のためにダンジョンへ?」
「違うよ。そのダンジョンには、俺が欲しいアイテムがある。超重要なアイテムがな」
ぶっちゃけると、俺がキャロル王国に来た最大の目的は、三つのアイテムを手にするためだ。
一つは、武器を合成できる『黄金の金槌』。
もう一つは、これからダンジョンで手に入る『鬼神の眼帯』。
そして最後に、『月の欠片』というアイテム。
これを手に入れるためにここまで足を運んだ。盗賊と悪魔の撃退はおまけに過ぎない。
「なるほど。シオン様はまた強くなろうとしているのですね」
「まあな。俺は最強を目指す。二人には次点くらいにはなってもらうぞ?」
「お任せください!」
「ふふ、最強にも手が届くかもしれないわよ?」
胸を張ってカトラが答え、アイシスは不敵な笑みを作る。
「俺を超えられるなら超えてみろ。それもまた、大歓迎だよ」
言って俺たちは別れる。準備を済ませて後日、キャロル王国の首都近隣にあるダンジョンへ向かった。
▼△▼
キャロル王国にあるダンジョンは、エリシア王国にある大迷宮とは少し違う。
というのも、キャロル王国のダンジョンは単なる迷宮だ。大迷宮ほどの規模はなく、一つ一つ散らばったダンジョンをクリアしていく形になる。
一般的なダンジョンの印象に近い。ひたすら下層に下りていくエリシア王国のダンジョンとは色んな意味で違う。
反対に、キャロル王国のダンジョンは、一つ一つの攻略難易度が高いことで有名だ。
今、俺たちが潜っているダンジョンも、そこそこ難易度は高い。少なくともエリシアダンジョンの五層より下の難易度だ。ひょっとすると、十層を超えているかもしれないな。
しばらく薄暗い洞窟の中を歩いていると、俺たちの前に複数の魔物が現れる。
土の体を持つ、巨大でガタいのいいゴーレムが。
「ご……ゴーレム!」
「気を付けろ、カトラ、アイシス。こいつらの動きはともかく——攻撃力は結構高いぞ。絶対に攻撃に当たるなよ?」
言いながらインベントリから『死神の短剣』を取り出す。
さあ……ダンジョン攻略といこうか。
——————————
【あとがき】
お前文字通り絶壁だからぁ!笑止!
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