第36話
ダンジョンに入って早々、複数のゴーレムに周りを囲まれる。
こいつらは、このダンジョンで生まれた魔物。攻撃力と耐久力の高い個体だ。通常なら倒すのに苦労するが……今の俺には関係ない。
インベントリから『死神の短剣』を取り出す。死神の短剣は、傷つけた相手に様々な弱体化を付与する武器。格上はもちろん、ゴーレムみたいに防御力の高い相手とも相性がいい。
漆黒に塗り潰された短剣の切っ先をゴーレムに向ける。
「さあ……ダンジョン攻略スタートだ」
言い切るのと同時に地面を蹴った。素早くゴーレムの懐に入ると、やたらとデカい胴体に短剣を打ち込む。
ゴーレムの体は人間の何倍もある。そこから繰り出される一撃は驚異的だし、分厚い全身に刃物でダメージを通すのは難しい。レベルを上げた今の俺でさえ、素手で殴り倒したほうが早いくらいだ。
しかし、死神の短剣を前にすれば、その巨体はデメリットにしかならない。
短剣がゴーレムの岩肌をわずかに傷付ける。攻撃が成功し、どす黒いオーラのようなものがゴーレムの体を覆った。
【状態異常《猛毒》が付与されました】
【状態異常《弱体化/防御力》が付与されました】
【状態異常《弱体化/速度》が付与されました】
【状態異常《麻痺》が付与されました】
【状態異常《盲目》が付与されました】
目の前にずらりとシステムメッセージが表示される。
これこそが、死神の短剣の効果。今回付与された状態異常の数は5か。あんまり多くないな。けど、中にはゴーレムに最も適した状態異常がある。それは、上から二つ目の『弱体化/防御力』。
先ほど俺は、ゴーレムの防御力の高さを評価した。動きの鈍いゴーレムは、攻撃力以上に防御力が厄介だから。でも、その防御力を低下させた。
にやりと笑ってカトラたちに告げる。
「俺の目の前にいるゴーレムの防御力を下げた! アイシスは他のゴーレムの動きを止めろ! カトラはこのゴーレムに集中だ!」
「了解」
「お任せください!」
俺の指示に、二人は疑う素振りもなく即答した。行動に移るのも早い。
俺が指示した瞬間に、アイシスの足下から冷気が吐き出された。冷気に包まれたゴーレムの足下が、次々に凍結していく。
ナイス、アイシス! あれならもう、ゴーレムは俺の攻撃を絶対に避けられない。後は片っ端から状態異常を付与していき、弱体化したゴーレムを全員で叩けばいい。
目の前のゴーレムをカトラに任せ、俺は残ったゴーレムに連続して死神の短剣をぶつけていく。
戦闘は、すぐに終わった——。
「お疲れ様、二人共」
戦闘終了後、全てのゴーレムが消え去るのを待ってから俺は口を開く。
複数のゴーレムに襲われたというのに、誰一人として負傷した者はいない。戦闘時間もほんの一瞬だった。俺の予想以上に、カトラとアイシスは優秀だな。やはり、このまま育てるに限る。
「お疲れ様。その短剣、凄い能力ね」
髪をさらりと一撫でしたアイシスが、ジッと俺の右手に握られている死神の短剣を見つめる。
「欲しくなったか?」
「ええ、とっても」
「素直だな。代わりの物を用意するから許してくれ」
「ん、ありがとう」
アイシスは冗談だったのか、俺の言葉に微笑む。
彼女は表情があまり変わらない。何を考えているのか読みにくい。だが、可愛いからヨシッ!
「シオン様、このままダンジョンの奥を目指しますか? このダンジョン、なかなか強敵が多そうに見えますが……」
「安心しろ、カトラ。俺たちなら問題ない。それに、すぐに二人が強くなる」
「私たちが……?」
首を傾げるカトラに、俺はそれ以上は何も言わなかった。隣に並ぶアイシスが回答を求めていたが、言葉より実物を見せたほうがいいだろう。俺は、二人を連れて通路の奥へ歩いていく。
しばらくすると、Y字に分かれた二つの道が見えてくる。その手前で足を止めると、おもむろに左側の壁を——蹴り飛ばした。
「し……シオン様⁉」
いきなりの俺の奇行に、カトラがぽかーんとした表情を浮かべる。結構可愛いが、口説いてる場合じゃない。高い筋力パラメータが左壁をぶち壊し、人が一人分入れるくらいの道が現れた。
「隠し通路?」
「正解だ、アイシス」
俺はここに用があって来た。奥にある隠しエリアには、ちょうど二人にピッタリなアイテムが落ちてる。
なおも多くは語らず、俺は薄暗い通路を突っ切っていく。少しして、台座らしきものを発見。大きめの台座には、透き通るような青い氷の剣と、輝く十字架のネックレスが置いてあった。
▼△▼
シオンたちがダンジョンに潜っている頃、シオンたちを探す影があった。
「おい、情報は集めてきたのか?」
「それが……どうやら街中にはいないようです」
大柄な無精髭の男——グスタフに問われた若い男性は、首を左右に振ってから報告する。
「となると、街の外に出たのか? いったい何のために?」
「さあ。ひょっとすると、ダンジョンにでも行ってるんじゃありませんか?」
「馬鹿。わざわざ外からこの街に来て、用事はダンジョン? どんだけ戦闘狂なんだよ」
かつてダンジョン攻略を諦めた過去を持つグスタフは、若いシオンたちの狙いが分からず頭を悩ませた。
そこへ、新たな影が伸びる。
「——ふふーん! お困りのグスタフちゃんに、耳よりの情報を持ってきたよーん!」
「シトリー……連中の居場所を突き止めたのか?」
「ぶい! どうやらお友達の言うように、ダンジョンに潜ってるみたいだよ~? 面白いねぇ。まあ、シトリーちゃんの部下を殺すくらいだし、ダンジョンの一つや二つ、攻略できちゃうだろうけど」
「そういやそんなこと言ってたな。……悪くない状況だ」
シトリーからもたされた情報を聞き、グスタフは笑みを浮かべる。
「マジでダンジョンに行ってるなら、戻ってくる頃には疲れ切ってるはず。そこを襲えば、意外と楽に勝てるかもしれねぇな」
「シトリーちゃんもその意見にさんせーい。頑張ってね? グスタフちゃん」
「お前が殺してもいいんだぞ?」
「ないない。ありえなーい。シトリーちゃんは人間ごときに構ってる場合じゃないの。大事な大事な人形たちの調整をしなきゃ。そろそろ完成するし」
「そうかよ。まあいい。——おら! お前ら行くぞ! 獲物はすぐ近くだ!」
凶悪な顔で仲間たちに声をかけるグスタフ。その表情は、勝ちを確信していた。
▼△▼
「シオン様、これが?」
隠しエリアに置いてある二つのアイテムを見下ろし、真っ先にカトラが訊ねてきた。俺は素直に頷く。
「ああ。白金の十字架はカトラに。神聖系のスキルを強化してくれるぞ。おまけにスキルが一つ獲得できる。で、氷の剣はアイシスに。お前のスキルを強化してくれる希少な補助武器だ」
「やった! やったやった! ありがとう、シオン様!」
無邪気な子供みたいにアイシスが走っていく。迷わず氷の剣を手に取り、宝物みたいに掲げた。
カトラも恭しく頭を下げたあと、残ったネックレスを回収。すぐに装備した。
アイシスが入手した氷の剣は、S級アイテム『凍剣グレイシア』。説明した通り、所有者の氷雪系能力を強化してくれるアイテムだ。S級なだけあって、強化倍率が非常に高い。効果範囲なども拡張されるため、かなり便利な代物だ。
そしてカトラが手に入れたのは、A級アイテム『敬虔なる十字架』。神聖属性のスキルを強化し、装備中はA級スキル『
「ありがとうございます、シオン様。このアイテム、大事にしますね」
「そうしてくれ。まあ、二人にはすぐに働いてもらうけどな」
「ボス戦ね? 私たちも一緒に戦っていいの?」
「頼む。正直、次の戦いは……一人じゃめんどくせぇんだ」
このダンジョンのボスは、道中に出てきたゴーレムの親玉みたいなやつ。クソ硬い上にクッッッッッソHPが高いという紛れもないクソ仕様。俺一人でも倒せるが、アホみたいに時間が溶ける。今回は彼女たちにも協力してもらおう。
隠しエリアを出て正規の道に戻る。ゴールは目前だ。
侯爵家の落ちこぼれに転生した俺は、元世界ランキング1位の最強プレイヤー 反面教師@6シリーズ書籍化予定! @hanmenkyousi
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