第11話

 俺がシオン・クライハルトに転生して数日。


 ダンジョン一層の隠しエリアにいるダークエルフを倒したり。

 魔物に襲われていた少女カトラを助けたり。

 カトラの力を借りて王都内にある寂れた教会の地下でSS級スキルを入手したり。

 その力でダンジョンの一層を攻略したり。


 我ながら慌ただしい日々を過ごした。

 おまけに、実の兄であるヴィクトーをぶん殴り、ヴィクトーとその母親に恨まれたり。父親には期待されて学園へ行け! と言われたり、大変濃厚な特典まで付いてきた。


 ぶっちゃけ最初は学園に興味など微塵もなかった。断るつもりだったが、クライハルト侯爵がマジだったので断りきれなかった。甚だ遺憾である。


 まあ、学園にはゲームでは知り得なかった情報やアイテムがあるかもしれない。それを唯一の楽しみにしておこう。あと、学園にはヴィクトーもいるのであいつでもボコッてストレス解消するか。これまでのお礼にな。

 そして何より、ヴィクトーをボコると決めた以上はもっと力を付けないといけない。今より強く、ヴィクトーも母親のメリッサも手出しできないほど強く。


 そのために、俺は学園入学まで暇をしているカトラを連れ回し、共にダンジョンの四層まで攻略を進めた。


 彼女はいい。貴重なS級スキルを持ち、家も名門。胸も大きくて実力も才能も不満もなく、将来的にパーティーを組んで高難易度のダンジョンを攻略する予定だ。

 カトラ自身も、俺に誘われると嫌がるどころかとても嬉しそうに笑っている。これは脈ありかな? なんて。


 そんなこんでさらに時間は流れていく。幸いにもヴィクトーたちは最初の失敗で学んだのか、数日は大人しく過ごしていた。無論、ここで退く連中には見えないが。




▼△▼




「シオン様、ご準備は終わりましたでしょうか」


 コンコン、というノックの音が聞こえてくる。

 ベッドに腰を下ろしていた俺は、読んでいた本を閉じて答えた。


「ああ、荷物もまとめたよ」

「ではすぐにでも馬車を走らせます。玄関扉へお越しください」

「分かった」


 コツコツコツ。足音が部屋の前から遠ざかっていく。


 今のは俺専属のメイドだ。これまでメイドの一人すらいなかったのに、急に当主の奴が付けやがった。おそらく監視と期待を込めて……なんだろうな。浅ましいにもほどがある。


「まあ、利用できるものはなんでも利用するけどな」


 呟き、床に置いてあった荷物をインベントリのアイテム欄に収納する。これはシステムであってスキルじゃない。非常に便利だが周りにはスキルだと言い張っている。


「さて……行くか。王立学園へ」


 ベッドから立ち上がり、最後に鏡で自分の姿を確認してから部屋を出た。


 今日は学園入学——ではなく、入学に必要な資格を得るための試験を受けに行く。

 この世界には魔物がいて、ダンジョンがあって、スキルという強力な力が存在する。それだけに、貴族だって自分の力を磨き、国はそんな貴族や平民を選別し優秀な兵士として育て上げる義務がある。


 王立学園の試験は、抱えられる数に限界があるため、無能と有能な学生を分けるために用意された。それを受けにいくところだ。


 階段を下りて一階に。玄関扉の近くにはこれでもかと使用人たちが集まっていた。その中心に、兄ヴィクトーと母メリッサがいる。

 二人は階段から下りてくる俺を見ると、不愉快そうな表情を隠そうともせずにさっさと外へ出た。よかったよ、ほんと。あいつらと同じ馬車じゃなくて。


「シオン様、馬車へ」


 メイドに促されるがまま俺は馬車に乗った。メイドも一人同乗し、学園に着くまでの間、ひたすら静かな時間を過ごす。


 なんだかなぁ。彼女、クールで話しかけにくい。監視も仕事の内だろうし、もの凄く気まずかった。

 一度、試しに「面白い話ない?」と聞いてみたところ、いきなり怪談を語り出した時は正気を疑った。マジで怖いよこの人。




 そんなこんなで時間は流れ、馬車が学園に到着する。

 すでに学園の敷地内には、俺やヴィクトーといった貴族以外にも多くの平民たちの姿が。

 彼らもこの国の宝だ。実力があるかスキルさえ所有していれば試験に挑む権利を得られる。


 まあ、たいていの平民は貴族に潰されて家に帰るわけだが。


「到着しました、シオン様。会場は降りて左側にある建物の中です」

「へぇ、意外と立派じゃん」


 校舎の前で馬車が停まる。他にも、多くの貴族の家門が刻まれた馬車が停まっている。


 俺はメイドと共に馬車を降り、メイドの案内で正面左側に建てられた巨大な建物の中へと向かう。

 外にいたほぼ全ての生徒がそちらへ移動している。この先で、試験が行われているのだろう。建物に近づくと、中から熱気と歓声、叫び声などが聞こえてきた。


「白熱してるねぇ」


 靴を履いたまま建物の中に入ると、そこはまるでコロシアムみたいな造りになっていた。

 四角形のフロアに、中心には二つのリング。石で出来たリングの上では、今まさに入学をかけた大事な試験に複数の生徒が挑んでいる。


 見たとこ事前に教えてもらった通り、生徒同士がぶつかり合い、より勝利を重ねた生徒がどんどん合格を言い渡される仕組みだ。

 トーナメント戦に近いな。なるべく平等性を重視して五勝しないと合格にならないというルールだ。


「シオン様はいかがしますか? 手続きはあちらの受付で出来ます」

「もちろんすぐに手続きをしてくれ。相手は誰でもいい。どうせ誰が相手だろうと関係ない」

「畏まりました。では——」

「待て!」


 受付へ向かおうとしたメイドを、聞き慣れた声が引き止める。

 俺は「うげぇ」という心底呆れた顔で声のしたほうに視線を移した。俺の横には、少し距離を取ってヴィクトーが立っていた。周りに友人が数名並んでいる。


「お前の初戦の相手は俺だ! 前みたいな卑怯な真似が通じると思うなよ!」

「……なんでやねん」


 まさかヴィクトーから俺に挑戦してくるとはな。

 見たとこ、装備をしっかり固めてある。雰囲気も前よりよくなった。静かにしていた間に経験でも積んだか?


 内心「悪くないな」と呟いて口角を吊り上げる。にやり、と不敵に笑った。




「今度は右頬を殴り飛ばしてやるか」


 神様も言ってた。左の頬を殴ったらついでに右の頬も殴れと。


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名前:シオン・クライハルト

性別:男性

年齢:15歳


レベル:26

体力:20

筋力:40

敏捷:30

魔力:11

ステータスポイント:18


武器

『エルフ族の短剣 C』


スキル

『自然の恵み C』

『亡者の檻 SS』

(コボルト)(ゴブリン)

(コボルトロード)

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【あとがき】

やっぱ拳じゃんね☆

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