第22話
「……なんだと?」
俺の提案に対して、悪魔の女王リリンは怪訝な顔を作る。鋭い視線が俺の眉間を貫いた。
「貴様、聞き間違いでなければ私を仲間に誘っているのか?」
「ああ。つまんない連中とつまんない復讐をするくらいなら、俺の愉快な仲間になろうぜ」
「ッ。実に不愉快だ……お前に私の何が分かる」
「少なくともお前の復讐に俺は必要だぞ」
「その根拠は?」
決まってる。
彼女の問いに俺はにやっと口端を持ち上げた。
「——俺、最強だから」
「……話にならないな」
ズバッと切り捨てるリリン。
やれやれと首を左右に振ってから、真っ赤な剣の切っ先を俺の顔に向ける。
「見たとこお前は私より弱い。私より弱い奴が何をほざこうと無駄だ。配下の連中と何が違う?」
「レベルやステータスだけが全てじゃないんだよ。まあ、この世界じゃ重要な要素ではあるがな」
喋りながらエルフ族の短剣を構える。
「お前に教えてやるよ。ステータス以外にも必要なものはたくさんあるってことをな」
「黙れ!」
怒声を上げてリリンが地面を蹴る。一瞬にして俺の眼前に到達した。手を動かせばいつでも剣が届く。
実際に真っ赤な剣は俺の首めがけて振るわれた。それをエルフ族の短剣で防ぐ。
甲高い金属音が響く。カトラのスキル『聖域』のおかげで俺の武器は無事だった。おそらく、聖域が無かったらエルフ族の短剣でも防げていたか怪しい。
「さすがに速いな。力もゴリラ以上だ」
今日はゴリラみたいな奴が多いな。しかもみんなクソ可愛い。
「貴様は弱いな。私の推測通り!」
いとも簡単に体ごと武器を弾かれる。今の俺じゃ逆立ちしても女王のステータスには及ばない。
だが、今の攻防だけでも充分に相手の力量を掴んだ。俺に足りないものを見つけた。
急いでリリンの攻撃を回避しながらステータス画面を開く。高速でポイントを割り振った。
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名前:シオン・クライハルト
性別:男性
年齢:15歳
レベル:33
体力:20
筋力:50
敏捷:50
魔力:20
ステータスポイント:0
武器
『エルフ族の短剣 C』
『ゴルゴンの魔眼 S』
スキル
『自然の恵み C』
『亡者の檻 SS』
(コボルトロード)
(ゴルゴン)
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残った30ポイントの内、20ポイントを敏捷に。残った10ポイントで筋力を上げた。
この戦いにおいて最も重要になるのが敏捷だ。最初は体力と迷ったが速度を上げて相手の攻撃を躱せばいい。
元々ソロプレイをしていた俺にとって、相手の攻撃を避けるのは当然。当たり前のことすぎて何ら問題はない。
ステータスを割り振ったタイミングでまたしてもリリンが剣を振る。それを回避しながら彼女の右手首を掴んだ。
「なっ!」
「そろそろ反撃といこうか」
今度は俺がエルフ族の短剣を振る。急に動きが加速した。油断していた女王のわき腹を綺麗に裂く。
「くっ! 貴様ぁ!」
リリンが体から赤い血のようなものを放出した。それは触手のように伸びて俺に襲いかかる。
これは女王の範囲攻撃スキルだ。多段ヒットするタイプの攻撃なので使い切りの防御アイテムやスキルに強いというメリットがある。
まあ俺には関係ないが。
彼女の手首を放してひょいひょいっと触手を避ける。この触手の動きにも実は法則性がある。あとは強化された動体視力で楽々だ。
「ほらほら、どうした女王! 顔色が悪くなってるぞ? 腹痛か?」
触手を避けながら今度は前に進む。一度離された女王との距離を潰して再び攻撃を仕掛ける。
彼女の攻撃は一度も俺に当たらないが、俺の攻撃は面白いくらい当たる。
おまけにリリンはパワー型のステータス。防御力——体力はそこまで高くない。次々に俺の攻撃はリリンの体力を削り、徐々に彼女の装いはみすぼらしくなっていった。
速度さえ合わせればこんなもんよ。
「ぐっ、うぅ……! 調子に……乗るなぁ‼」
「おっと」
広範囲攻撃スキルの咆哮が響く。
俺の体にビリビリと音圧がかかり、ぴたりと動きが止まった。さらに決して少なくないダメージを受ける。
こればっかりは発動が速くて回避がほぼできない。
「手加減していれば図に乗りよって……力の差というものを教えてやろう」
リリンの体から膨大な魔力が放たれる。それは俺の体に恐怖という感情を伝えるのに充分だった。
彼女の瞳が赤く光り、右手の平に少しずつ魔力の塊が作られていく。
「早かったな……本気出すの」
ゲームでも彼女の体力を一定以下まで削ると使うようになる広範囲高火力攻撃スキル。
先ほどの触手や咆哮とは比べ物にならない威力だ。直撃すれば今の俺の体力ならワンパンだろうな。回避も間に合うかどうか。そもそも間に合ってもカトラたちは死ぬ。
——だからわざわざ、ダンジョンの五層にある隠しエリアに行ったんだ。この状態の彼女に勝つために。
「俺も奥の手を使わせてもらおうか」
にやりと笑ってインベントリからゴルゴンの生首を取り出した。
俺の顔より遥かにデカいゴルゴンの頭部を見て、悪魔の女王リリンは驚愕する。
「な……なんだそれは!」
「秘密アイテム~。効果はなんだと思う?」
「答えろ! 吹き飛ばされたいのか!」
「最初から吹き飛ばす気満々のくせに。……まあ、どうせ使うから教えてやるけどな」
俺はゴルゴンの頭部をリリンに向けた。スキル『ゴルゴンの魔眼』を発動する。
「とくとご覧あれ。種も仕掛けもないぞ?」
ゴルゴンの双眸が黄金色に輝き、——パキッ、パキパキッ。
リリンの右手が石化した。
「……は?」
当然、石化を知らないであろうリリンは目を見開き放心する。
「石化だよ石化。このゴルゴンの魔眼は、見つめた対象を石に変える」
しかもそれだけじゃない。俺がわざわざこのタイミングでゴルゴンの石化を使った理由は他にもある。
ここで豆知識です。
この世界のスキルは魔力を消費して現象を起こす。そしてスキルは操作できる。
だが、スキルの操作中に石化を受けるとどうなるのか。答えは単純だ。
流れていた魔力が止まり、操作もできなくなって——中途半端にスキルが消滅するか、集束した魔力が爆発を起こす。
つまり、そういうことだ。
俺の火力では地道に彼女の体力を削ることしかできないが、彼女自身の攻撃なら話は変わる。俺よりよほどいいダメージが出るだろう。
にやにや笑う俺の目の前で、リリンの掌に集まった紅色の魔力が——爆発する。
「きゃああああ!」
凄まじい衝撃を生み出して眼前にクレーターを作った。
「く……そ! よくも……よくも私に……!」
あれだけの大爆発を受けて普通に立ち上がるリリン。タフだねぇ。
しかし、もうゴルゴンの魔眼を警戒して広範囲高火力攻撃スキルは使わないだろう。ゲームだと敵はAIだったから普通に連発してくるが、ここは現実だ。馬鹿でも学習する。
「盛大に自爆したなぁ、女王。俺のせいにしないでくれよ」
実際に俺のせいだがそれはまあ置いといて……。
エルフ族の短剣を手に、先ほどの爆発で右手を失ったリリンに近づいていく。
次いで、俺の足下から漆黒の魔力が湧き出した。
「——亡者の檻」
影のように闇は伸びて二体の魔物が姿を見せる。
コボルトロードとゴルゴンだ。
「どうする? 悪魔の女王リリン。これで終わりか?」
——————————
【あとがき】
リリンもゴリラに例えられましたが、彼女の場合はセレスティアと違って単純に全パラメータが高いだけです。筋力に特化しているセレスティアはもっと強いゴリラになれるでしょう(ちなみにリリンは魔力が突出して高い魔法攻撃タイプです)。
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