第26話

 イベント『昏き欲望』によって王都はめちゃくちゃにされた。

 幸い、被害者の数も倒壊した建物も悪魔たちの数に反してそこまで多くなかった。もちろん、だからと言って死んだ人が少なくてよかったとは言えないが。


 それでも人々は前を向く。すでに復興作業を進め、徐々にいつもの生活が戻ってきた。

 そんな中、俺は一人でダンジョンに潜っている。

 今日はソロだ。カトラが実家に戻って忙しそうにしている。先にレベルを上げておくのは申し訳ないが、時間は有限なので正しく使わないと。




「おい、シオン。今日はどこまで行くんだ?」


 転移装置を使って七層までやって来た俺は、スキル『亡者の檻』を使いリリンを召喚する。黒いモヤが晴れ、美しい少女が姿を現すなり訊ねた。


「最初の一言がそれか」

「挨拶でもしてほしいのか? おはよう」

「はいはい、ありがとうございます」


 つい最近殺し合ったというのに、俺たちはそこそこ打ち解け合っていた。少なくとも軽口を叩けるくらいには。


「で? どこまで行くんだ」

「今日は一気に十層まで行く予定だ」

「十層? またずいぶんと急いでいるな」

「別に急いでねぇよ。まあ、早く強くなる分にはいいだろ?」

「うむ。お前が強くなればそれだけ私の復讐が早まるというものだ」

「そうそう。だからお前には期待してるぞ」


 にっこり。俺はリリンに満面の笑みを見せる。

 リリンが怪訝な表情を浮かべた。


「な……なんだその顔は。気持ち悪い」

「誰が気持ち悪いだこら」


 絶世の美男として有名なんだぞ、俺は。女性からのアピールも結構凄い。

 無能だった頃は顔だけの男だとみんなが笑っていたくせにな。当然、届いた手紙はもれなく全て燃やした。モブ共と恋愛なんて時間の無駄だ。


「いいからお前は俺の言う通りにスキルを使ってくれ」

「私のスキルが目的だったのか」

「正解」


 パチパチパチ。正直者の俺は素直に拍手した。


 悪魔の女王リリンは遠距離攻撃タイプだ。今はまだ敵が弱いから身体能力も高く見えるが、中盤以降の敵には通用しない。

 だが、突出したスキルの攻撃力は別だ。そして彼女は複数の広範囲攻撃スキルを持っている。それこそが俺の求めていた力。

 広範囲攻撃スキルがあれば狩りが圧倒的に楽になる。


「ふんっ。体が目的とはゲスめ」

「誤解を招くような言い方するんじゃねぇ! つうかてめぇ、ロリだろ」

「ロリ? ロリとはなんだ」

「ガキってことだよ」

「ぶち殺す……」


 キュイィィィンッ‼


「おいいいいいい! また俺ごと自爆する気か⁉」

「ふふ。最近気づいたのだ。自分ごとお前を攻撃すればいいとな」

「ふざけんな! 謝るから許してください」


 ダンジョンに入って早々ダメージなど負ってられるか。送還するという選択肢もあるが、無理やり帰したら次に呼んだ時暴れそう。ここは素直に謝るのが吉だ。


 俺の謝罪を受け取って彼女は魔力を霧散させる。


「分かればいい。私はガキではなく大人のレディだ。歳もお前より上だしな」

「じゃあババアってことか」

「本当に殺すぞ」

「ごめんなさい」


 ガキって言ってもババアって言ってもキレんのかよ。年上に見られたいのかと思っていたが違うらしい。女心は難しいな……。


「まったく……さっさと行くぞ。道中の敵はまとめて私が消し飛ばしてやる。感謝しろ」

「へいへい。頼りにしてるぜ、相棒」

「誰が相棒だ」


 憎まれ口を叩きながらも横に並んだリリンと共にダンジョン七層の奥を目指す。

 ちなみに、七層から九層までのボスの魂は奪わない。亡者の檻はストックするだけでも魔力が消費される。リリンがいるのにそんな無駄な出費などしていられるか。


 それに、十層の隠しエリアで目当てのSS級スキルを手に入れられれば、亡者の檻に頼らなくてもよくなる。あのぶっ壊れスキルをな。

 今から楽しみだ。




——————————

【あとがき】

次のSS級スキルは何でしょうねぇ……。

制限はあるものの、正直亡者の檻より強いかも?

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