第28話

 休むことなくダンジョンの中を駆けていく。

 現在、俺とリリンは王都にあるダンジョンの9層を突破した。一日で合計3層も超えるハンターなど俺くらいしかいないだろう。


「ハァ……誰かさんのせいで無駄に疲れたな」


 目的地である10層に足を踏み入れた俺は、げっそりとした表情でそう呟いた。

 隣から不満の声が上がる。


「それはいったい誰のことだ?」

「自分の胸に手を当てて考えてみろよ」

「私は悪くない。言われた通り雑魚共を殲滅してやったではないか」

「俺が戦ってるのに広範囲攻撃スキルを打つのは悪くないと?」

「……チマチマ攻撃してるお前が悪い」


 ぷいっとバツが悪そうにリリンは視線を逸らす。最初から自分が悪いと思っているならやるな。

 こいつは短気だから少しでも時間をかけると広範囲技を使う。

 お前のスキルに必要な魔力は誰が出してやってると思ってんだ?


「それより、まだダンジョンに潜るのか? いい加減、外が暗くなってくるぞ」

「安心しろ、目的地はここだ。次で最後になる」

「ということは……強敵か」

「よく分かったな」


 にやりと俺は笑う。

 そのタイミングで、眼前にピラミッドみたいな形の建造物が見えてきた。サイズはそこまで大きくない。


「ん? なんだあれは」

「隠しエリアだ」

「全然隠れてないが?」


 お前は何を言ってる? とリリンの怪訝な眼差しが眉間に刺さる。


「言いたいことは分かるが、一応隠しエリアってことになってる」


 10層はこれまでのエリアと違ってボスまで一本道。しかし、この建造物は一本道から逸れた先にある。ほら、隠してあるだろ?


「まあ隠していようがなかろうがどうでもいい。あそこに何がある」

「神様」

「…………は?」


 またしても「お前はなに言ってるんだ?」の顔を作るリリン。

 まるで俺が異常者みたいな扱いだなおい。


「だから神様だよ。厳密には、神の力が宿った石像が置いてある」

「よく分からないが……その石像でも持っていくのか?」

「無敵だなお前。そんな罰当たりな真似するかよ」


 俺を盗人かなんかだと思ってんのか? こいつ。

 俺が奪うのは犯罪者や敵からだ。それと魔物やダンジョンな。……あれ? じゃあ石像パクってもいいんじゃね?

 脳裏に余計な考えが浮かぶ。即座にぶんぶんと首を左右に振った。


「俺が欲しいのは、その石像が課す試練——をクリアしたら貰えるアイテムとスキルだな」

「ふうん」

「ふうんって……反応が薄いな」

「私には関係のない話だからな」

「そうでもないぞ」


 ぴくっ、とリリンが俺の言葉に反応する。


「どういう意味だ?」

「今回手に入る武器とスキルは、お前の復讐に必ず役に立つ」

「ほう……ならば任せろ! 私がお前に群がる有象無象を駆逐してやる!」


 急に瞳を輝かせてやる気を見せるリリン。この悪魔、ちょろすぎ。


 るんるん、と鼻歌交じりに歩き出した彼女の背中を追いかけ、俺たちは共に建造物の中へと入る。

 薄暗い通路をしばらく歩いていると、ひらけた場所に出た。奥にはまた一本道がある。しかし、その一本道の前に一匹の獣が寝転んでいた


 金色の獅子。背中から翼が生えている。どこか神々しい魔物だ。


「おい、シオン。敵がいるぞ」

「あれが今回の試練だよ。魔物の名前は『アイトーン』。太陽の神が作った神獣——のレプリカだな」

「神の眷属……ね。あの獅子を倒せばアイテムとスキルが手に入るのか?」

「ああ」


 俺は即答する。ならばとリリンが右手を前に突き出した。


「すぐ殺してやる。私の攻撃に耐えられるかな?」


 彼女の右手に魔力が集束する。球体状になった魔力をリリンはそのまま前方に放った。まるで極太の光線のように紫色の光が魔物を包んだ。

 直後、爆発。

 音と衝撃に俺は身構える。


「開幕から派手にいったな」

「相手は強敵なんだろう? 先手必勝というやつだ」

「いいね、俺が好きな言葉だ」


 けど、さすがに今の攻撃だけでは終わらない。

 爆風が巻き上げた土煙がどこかへ流れていくと、隠されていた金色の獅子が姿を見せる。ダメージは負っているが重傷ってほどじゃない。立ち上がり、俺たちを睨む。


「グルルルルッ!」

「チッ。あの獣、ずいぶん頑丈だな。お前や私より硬いぞ」

「そりゃあ元となった生き物が神獣だからな、弱いわけがない」


 言いながらエルフ族の短剣を取り出す。バフスキル『精霊の祝福』を使った。全パラメータが+20される。

 さらに足下から闇が溢れる。影のように伸びてゴルゴンを生み出した。


「気を引き締めていけよ、リリン。火力はお前に任せた」

「うむ。お前も巻き込まれないように気をつけろ」

「そこは上手く調整してくれ」

「無茶を言う」


 くすりとリリンが小さく笑った瞬間、俺とゴルゴンは同時に地面を蹴った。アイトーンに接近する。


 アイトーンは獅子の魔物。飛行能力を持つが、最も驚異的なのはそのステータスの高さ。レベルに換算すると50はある。

 10層のボスどころか中層のボス級の強さを誇る。それでも本物よりだいぶ弱いのだから笑える。


 俺は笑みを浮かべて短剣を振った。先ほどのリリンの攻撃で動きが鈍っているアイトーンに刃は当たるが——ギイイイインンッッッ!


「かっっったっ!」


 精霊の祝福を使って筋力を上げているのにまともにダメージが通らない。分かってはいたが、レベル40でもまだパラメータが足りていない。


「ゴルゴン! 石化!」

「シャアアアア!」


 命令通りにゴルゴンの瞳が輝く。背後ではリリンが魔法スキルを準備していた。

 行動阻害のゴルゴンと高火力のリリンの合わせ技。ほぼ不可避の攻撃がアイトーンを襲う。


「グルアアアアアア!」


 またしても紫色の光に包まれたアイトーンは、甲高い叫び声を上げる。

 これで体力は三割くらい削れたか? 俺の魔力も結構削られたが、このままゴリ押しで充分に勝てる。


 リリンを手に入れたかった理由がこのアイトーン退治にある。

 実はこの試練、わざわざアイトーンを倒さなくてもクリアできる。アイトーンの体力を半分ほど削れば先に通れるのだ。

 けど、それでは不十分。試練を完璧にクリアしないと目当てのアイテムとスキルが手に入らない。

 ゆえに、俺はアイトーンを殺すことに全力を注ぐ。


「グルッ——ガッ!」

「ッ」


 土煙の中から大口を開けたアイトーンが突っ込んできた。

 速い。

 ギリギリ回避が間に合った。くるりと跳んで横に着地する。


 アイトーンは翼を使って低空飛行でぐんっと横に曲がった。ほとんど減速せずにまたしても俺のほうへ突っ込んでくる。体力がもう半分を切ったのか、口からめらめらと炎が噴き出していた。

 あの状態になると、近づくだけでダメージを受ける。

 だが、俺の攻撃手段は石化とリリンの魔法攻撃だ。わざわざ接近戦を挑む必要はない。というか、挑んでもダメージがほとんど入らないので意味がない。


 俺にできることはゴルゴンに指示を出しながらアイトーンの攻撃を躱すこと。

 時に体当たりをしてきたり、時に炎を噴いたり、時に噛みついてくるアイトーン。

 たまに攻撃を受ける。たった一発、それもガードした上で強烈な痛みとダメージが発生した。


 本当に化け物だ。10層のボスが霞むくらい強い。ぶっちゃけ悪魔の女王であるリリンよりも強い。相性もいい。

 それでも、俺とリリン、ゴルゴンの組み合わせには勝てなかった。


 時間にして一時間弱。体力が削れれば削れるほど力を増すアイトーンに苦戦しながらも、なんとか討伐に成功した。

 リリンがとどめを刺し、アイトーンが倒れる。


「よっっっっしゃあああああ!」


 さすがに俺も大きな声が出た。グッと拳を握り締め、流れる血も痛みも我慢する。


「ふう……なんとか勝てたな。魔力総量がギリギリだったぞ」

「石化にお前の魔法攻撃もあったからな。でも勝った。ナイスファイト」


 すっと拳をリリンに突き出す。彼女は「ふんっ」と笑って俺の右手に自分の拳を打ちつけた。


「当然だ。私を誰だと思ってる」

「へいへい。……それはそうと……」


 感傷にばかり浸っているのはよくない。倒したアイトーンに近づき、スキル『亡者の檻』で魂を回収した。こいつは現状、最強の物理アタッカーになる。

 アイトーンとリリン、それにゴルゴンがいればしばらくは盤石だな。よほどレベルが離れていない限り負けることはないだろう。


 アイトーンの魂を回収したあと、リリンと共に奥の通路へ。その先に小さな石像が置いてあった。


「これがお前の言ってた神様とやらか」

「ああ。試練をクリアした状態でここに来ると……おっ」


 言葉の途中、石像がぱぁっと淡い光を放つ。光は二つに分かれて片方がこちらに飛んできた。俺の体にぶつかり、システムメッセージが表示される。




【スキル『太陽神の加護 SS』を獲得しました】




 よしよし! 最高クラスのバフスキルをゲット。


 本来、このスキルは、アイトーンを倒さずに得るとS級スキルに劣化する。が、アイトーンを倒せばSSだ。効果も大きく変わるため、倒す以外の選択肢はない。

 さらにアイトーンを倒した状態でここまで来ると、追加で武器が貰える。

 分かたれた最後の光が、一振りの剣を形作る。俺はその剣を拾った。


「うげっ。なんだその不愉快な剣は」

「聖剣ガラティーンだよ」


 白金のロングソードを見てリリスが顔色を悪くする。

 無理もない。この剣には悪魔が嫌う浄化の力が込められている。本能的に悪魔のリリンは聖剣を嫌悪する。


「早くしまえ! そんなもの」

「ぶっ壊れ武器なんだけどなぁ」


 どんだけ嫌なんだよ。まあいいけど。

 言われた通りガラティーンをインベントリに収納する。

 今日だけで俺はほとんど負け無しの強さを得た。少なくとも人間で俺に勝てる奴はほぼいないだろう。それだけ、得られたスキルと武器が強い。


「それじゃあ帰るか」


 やるべきことを全て終わらせた俺は、グッと背筋を伸ばして帰路に就く。


 そろそろ学校が始まる。正直、前世の記憶を思い出して嫌な気分になった。引き籠りたい……。




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名前:シオン・クライハルト

性別:男性

年齢:15歳


レベル:50

体力:20

筋力:50

敏捷:50

魔力:40

ステータスポイント:31


武器

『エルフ族の短剣 C』

『ゴルゴンの魔眼 S』

『聖剣ガラティーン A(SS)』


スキル

『自然の恵み C』

『亡者の檻 SS』

(コボルトロード)

(ゴルゴン)

(リリン)

(アイトーン)

『太陽神の加護 SS』

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【あとがき】

なんと今回はSS級のスキルと武器が二つ!

『聖剣ガラティーン』の等級は、普段がAで、特定の条件を満たすとSSになります。

察しがいい方はお分かりですね?『太陽神の加護』が関係しています。

そしてリリンがヒロインっぽいことしてる……。

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