第19話
「ぐぎゃっ⁉」
悪魔の左腕を斬り飛ばす。
真っ赤な鮮血が宙を舞い、やや黒ずんだ悪魔の右腕が重力に従って地面に落ちる。
傷口からは大量の血が流れ、悪魔の表情は苦悶に満ちていた。
「意外と可愛い声を出すんだな……お前」
もう少し倒すのに時間がかかると思っていたが、予想よりステータスの差がない。これならあと一手で終わる。
すたすたと迷いなく悪魔に近づく俺に、悪魔の男は耳障りな声を上げた。
「く、来るなッ!」
「断る」
なんで優勢の俺が命令を聞かなくちゃいけないんだ。俺の歩みは止まらない。
「クソッ……! 人間のくせに! 脆弱で俺たちに殺されるしかない家畜以下のくせにぃぃぃぃ‼」
きぃきぃと喚いている間に俺はエルフ族の短剣を振った。
反応が遅れた悪魔の首が落ちる。最後はあっけない。
「現実を見ろよ。今、お前が見下してる人間に見下されてるぞ?」
地面に転がった悪魔の首を見下ろし、俺はくすりと笑った。
この手の敵は自分が不利になると怒りで警戒心が緩む。ゲームの時より雑魚だな。
短剣に付いた血を払う。
「お疲れ様です、シオン様。圧勝でしたね」
戦いが終わりカトラが近づいてきた。
「ああ、カトラもスキルありがとうな。聖域があるとやっぱ違うわ」
ゲームの時より相手を弱く感じた要因の一つは、カトラの存在。彼女の強化スキル『聖域』はゲームでもずいぶんお世話になった。改めて効果の高さを実感する。
「そ……それほどでもありません。私はただ、応援することしかできませんから」
「大事な役割だよ。それに、まだイベントは終わってない」
ちらりと空を見上げる。
俺の視線の先では、至る所から煙が上がっていた。他にも、周囲から多くの悲鳴が聞こえてくる。
「すでに街中には複数の悪魔が侵入してるはずだ。女王……悪魔たちのリーダーまで来ているかどうか分からないが、このままじゃ被害はどんどん広がる。カトラ、複数の敵が現れたらお前にも戦ってもらうぞ」
「はい! 覚悟はできています!」
「それじゃあ早速、声のしたほうに……ッ!」
移動しようとして俺は即座に足を止めた。カトラも何かが近づいてくるのを察知する。
「この気配は……」
「複数だな。気をつけろ、カトラ」
俺は短剣を。カトラは鞘に収まっていた剣を抜いて構える。すると、周囲の脇道や路地裏のほうから複数の人間が姿を見せた。おそらくこの辺りに住んでいたか、王都のどこかに住む住民だろう。一般的な平民の格好をしている。
「……え? 住民の方、でしょうか」
彼らを見てカトラが剣を下ろす。無用心にも近づいていった。
「皆さん、ここにいると危ないですよ。危険な化け物が今、王都中を——」
「ぐあ……グアアアアアア‼」
「なっ⁉」
カトラの目の前にいた男性の一人が、急に低い声で叫びカトラに襲いかかろうとする。それを俺がカトラの背後から短剣を突き出して仕留めた。
男の顔面にエルフ族の短剣が突き刺さり、一撃で男は絶命する。
「気をつけろって言っただろ、カトラ」
「…………」
あれ? カトラの反応が……。
「シオン様」
「どうした?」
「分かっていたならもっと早く止めてください……それか……」
くるりと彼女が反転する。俺は気づいた。カトラの顔が返り血で真っ赤なことに。
「もっと別の殺し方を!」
「す、すまん……」
確かに事前に情報を知ってる俺のせいでカトラの顔が血塗れになっていた。軽くホラーだな。
男の顔から短剣を抜いてぺこぺこ謝る。その間に周囲を住民たちに囲まれた。
「……それで、彼らに何があったんですか?」
顔を拭いたカトラが改めて剣を構え直す。
「悪魔に操られているんだ。リーダーの側近に操作系のスキルを持つ奴がいる。そいつの仕業だな」
「相変わらず詳しいですね、シオン様は」
「オタクだからな」
「え?」
「なんでもない」
おっと、変なことを反射で口走ってしまった。
「それより躊躇するなよ? こいつらはもう殺された後だ。死体を操っているに過ぎない。だから殺せ。頭部を壊せば問題ない」
「なるほど。だから先ほどシオン様は頭部を潰したんですね」
「そういうこと」
理解が早くて助かる。
俺とカトラは素早く地面を蹴った。住民たちに接近し、次々に首を落としていく。
彼らはただ操られているだけ。亡者の檻に近い性質だが、魔物しか従えられない亡者の檻に比べて、このスキルは人間専用。しかも操った人間はゾンビみたいに動くからただの的だ。肉壁くらいにしか役立たない。
集まってきた二十人以上もの住民たちを斬り倒し、軽々と殲滅を終わらせる。
「弱かったですね、彼ら」
「死体を操るだけで走らせることもスキルを使わせることもできないゴミスキルだからな」
使い手である悪魔も混乱を生み出す程度の能力だと思っている。
「でも……不快です」
「気持ちはよく分かる」
彼らは何もしていない。ただ理不尽に殺されて弄ばれただけだ。
カトラが強い怒りを表している。住民たちを殺して操った悪魔を憎み、自分の手で彼らを殺すしかなかった事実にショックを受けていた。
そこへ、
「——お前たち……何を、やっているんだ……!」
女性の声が響く。
俺もカトラも同時に声のしたほうへ視線を向けた。通りの奥から鎧を纏った騎士が現れる。
「何って見たまんまだが? 襲われて——」
「ふざけるな!」
言葉が途中で遮られる。分かりやすく女性騎士は憤っていた。
遅れてこの状況がまずいことに気づく。もしかしなくても、彼女の目から見て、俺とカトラが無差別に住民を斬り殺したように見えるのでは? と。
誤解を解こうとするが、
「街が混乱に陥っているというのに、お前たちは罪の無い人々を手にかけて……! 許せない!」
「ま、待て! 落ち着け。俺たちの話を……」
「黙れ! 王都を守る騎士として貴様たちのような外道は見過ごせない! ここで殺す!」
おいいいいい! 人の話を聞け!
鞘から剣を抜き、剣吞なオーラを纏って女性騎士がこちらに突っ込んで来る。
一度、彼女を無力化する必要があるな……めんどくせぇ!
——————————
【あとがき】
女性騎士と言えば「くっこr(それ以上はよくない!)」
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