第22話
ここに来たのは僕が捕まった時以来。
僕はまたここで捕まろうとしている。っていうか捕まった。閉じ込められた。
窓もなく、家具どころかゴミも一切ない。部屋の端には互いの死角を補うように監視カメラが2つある。ドアもひとつしかなく、外から鍵が掛かってる。
まさしく監禁部屋って感じだ。
改めて僕という存在は危険なんだなと感じる。
遡ること数分前。
僕は
「いいかい、てるてる。私たちは今から大事な会議があるんだ。ここで大人しく待っていてね」
「……独りですか?」
「君の悪魔がいるだろう?1人じゃないよ」
実質独りじゃないか。
「私たちの目で監視してたいところだけど、君を会議に連れてくことができないからね。だから仕方なぁく閉じ込めるの。あ、何かあったら電話してね」
僕は独り。取り残された。
単語帳やら持ってきたけどやる気は一切起きなかった。
「つかれたなぁ……」
僕は部屋に寝転んだ。
床のひんやりとした温度が背中を伝う。
『輝斗?元気?』
僕の顔を覗き込むうんこ。
「うん、元気」
僕は
こうやってうんこと2人だけになると、去年のことをよく思い出す。
あぁ、散々だったなぁ。
光が居なくなってから僕は何も出来なくなった。学校にも行けなくなった。
元からある程度頭がよかったおかげで、受験はなんとか乗り越えた。これだけは、唯一の幸いだったと言えるだろう。
僕がゆっくり寝転んでいる間、うんこは家具ひとつないこの部屋を、興味深そうに回っていた。
うんこは服に大量の鈴をつけており、うんこが動くたびに鈴の音が部屋中に煩く鳴り響く。
シャン……シャン……
どこかで聞いたことあるような、いやに不快な音。
僕はそんなうんこを横目で見ながら、一年前のことを思い出していた。
『ねぇ、輝斗。結局、輝斗は光のことどう思ってたの?』
「……?」
どう思ってた?僕はただ、光は大事な親友だと……
『嫌いだった?気持ち悪かった?』
そんなことない。そんなことあるわけない。
「……大切な……親友だった」
『本当に?』
本当にってなんだよ。お前は今まで光を、ついでに僕も見てきたんじゃないのか。僕が光を嫌いだなんて思うはずがない。なんでそんなこと思ったんだよ。逆にお前にはそう見えたのか?
『我は輝斗がどう思ってるのかわからない。なんであのとき一緒にいたのかも、なんであのときああ言ったのかも……わからないよ』
「……あのとき?」
『体育?だっけ。輝斗が茶色のボールもって話してたときのことだよ。光にいつもいやなことをしてくる人たちと一緒に喋っていたときの』
頭が真っ白になった。
聞かれていたのか。うんこに。たぶん、たぶんあの時のことだと思う。僕が肩身を狭くして、いやな空気の中やった体育。4人組作った時の……
……言った
言った。あぁそうだ、僕はその時彼らの言葉を肯定したんだ。僕に目が向くのが怖かったから。ハブられたり無視されたりはもちろん、殴られたり蹴られたりするのが今度は自分になりそうで怖かったから。僕も光みたいになるのが怖かったから。彼らの「キモい」とか「ウザい」とかを肯定したんだ。
うんこは全て、全て聞いていたのか。
言ったのか。光に。
全部とは言わないが。
『ごめん、輝斗』
光はそれを聞いてどう思っただろうか。
光の目には僕がいじめに加担しているように見えてしまっただろうか。絶望しただろうか。そもそも光にとって僕という存在は友達ですらなかったのかもしれない。いじめを止めることができなかったから。ただの元クラスメイトだったのかもしれない。
本当に僕はいじめられたくなかっただけ?
あぁ、違う。それは僕が都合のいい理由をつけているだけだ。
本当は僕は全く光のことを信じていなかった。ずっとずっとうんこなんて神は存在しないと思っていた。勝手な中二病だと、1人でずっと何か話している変なやつだと。
親友?ばっかじゃねぇの。
信じられなくてなにが親友だ。親友だったなら信じれただろ。いや、そもそも親友ならば自分の身も顧みずにいじめを止めたんじゃないのか?親友ならばもっと違う言葉っだってかけられたはずだ。追い込まれてるのだってわかってたんだ。
それで僕は親友を名乗っていたのか。あーあ、こんなことならいっそ……
「てるてる!たっだいま!」
気がついたら会議が終わっていた。1時間はかかると聞いていたが、随分と早かった。
「やぁ、こんにちは、輝斗くん」
空の後ろにいた男性が声をかけてきた。
「僕の名は
誰?
「おい、
「ちょっとまてっ……少しくらい、話をっ、ああああああああぁぁぁ」
青年が大の大人を引きずって帰っていった。
「俺の父が迷惑かけて悪かったな!あ、そうだ、みずちゃ、また今度一緒に飲もうな!」
「ああ」
……嵐のように去っていった親子だったな。
「さてと、帰るか」
僕は空と
「……てるてる?」
「何?」
「……いいや、なんでもないよ」
僕は小さくため息をついた。
今日は特に何もしていないはずなのにとてつもなく疲れた。
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