第25話

目、腫れてないかな。

昨日は散々泣いた。寝れなかった。寝ようと思っても訳もわからず涙が止まらなかった。やっと寝たと思ってもまた1時間後くらいに起きて。泣いて、寝れなくて。

そもそも僕はそこまでメンタル強くはなかったんだ。本当に今年に入ってからの数ヶ月がこうなだけで、僕の本質は何も変わっちゃない。どこまでも暗く、醜い。去年だってこんな元気じゃなかったし。

あぁ、頭痛い。体が重いずっと寝てたい。疲れた。

そんなどうでもいい下らないことを思いながら、僕は先生と空に連れられて、天邪の屋敷の地下にあるでっかい資料室のようなところに来た。

「輝斗、ほいっ」

そういって、先生は僕に何かを投げた。あまりに咄嗟なことで、僕は反応できず、赤いカーペットが敷かれた床に落とす。

取れなくて申し訳ない。

拾い上げてみると、真っ白い手袋だった。

「輝斗、俺らの許可なくもの、触るなよ。それと、触るときは必ず手袋をはめろ。あと、みてわかると思うが古いものが多いからな。丁重に扱えよ」

「……わかりました」

嫌な空気。なんというか澄んでない。窓がないからだろうか。

僕は息を吸って吐き出す。あまりの空気の悪さに息が詰まりそうだ。

「たしか、ここら辺だったような……」

空は高い本棚を見渡す。先生はパソコンをいじってる。

かという僕は突っ立ってるだけで何もしてないし。はぁ……僕ってほんと役立たずだな。僕、この場に必要ないんじゃね。そうだ。絶対にいらない。僕、ここで何してるんだろ。あーあ、消えちゃいたい。

「空、やっぱりデータに入ってないわ。そっちはありそうか?」

「んー、もうちょいで見つかりそう。多分、ここら辺に……あ、あった」

空は大量の分厚い本を僕の前のでかい机のうえまで持ってきた。

どさっという音を立てて置く。

古く乾燥した茶色く変色した紙をパリパリと音を立ててめくる。後に続いて瑞雲みずも先生もやっていて、まだ確認していない本をパラパラめくる。

僕はやはりただ突っ立っているだけ。本当に僕という存在は意味があるのか。もう2人だけでいいじゃないか。邪魔者にはなりたくない。帰りたい。

「あ、あった。これだ」

「ほんとだな。しっかし随分古いな。いつのだ?」

「64年前」

「意外に経ってないんだな」

「てるてる、ほいこれ」

そう言って2人が見ていた、一番薄い本を渡される。

僕は慎重にページを開く。

怖い。少し触れただけで全てのページがバラバラになってしまいそうだ。手袋はつけているけど、僕が触ると汚してしまいそう。

僕はなんとか勇気を出して、ページを開く。

そこにはびっしりと文字が書いてあった。

僕はなんだか読めない気がしてすぐに閉じた。何かわからないがこわかった。

「輝斗、読んだか?」

「……すみません。まだ読んでないです……」

申し訳なくなった。

空は僕が持っていた薄い本を取り上げると、ページを開いた。

どうやら、僕が全然読めていないのを見かねて、一緒に読んでくれるらしい。

ここまでやってもらわないと僕は何もできないのか。本当に僕は無力だ。

「あ、この頃は唯我独村って名前じゃなかった頃だね。ほらここに『堕猫村だねこむら』って呼ばれてたんだ。その名の通り、この村では猫を堕とすんだ」

空は読みながらページをペラペラとめくり、簡潔に話してくれた。

僕は全くと言っていいほど読めなかった。読もうとしても単語ひとつ読めないままページが過ぎ去っていく。

正直、空の説明はとてもわかりやすかった。僕のほとんど機能していないようなバカな頭でもよく理解できた気がする。

「あ、ここからは人の名前だね。んーこれくらいしかないかも。どう?瑞雲みずも兄は何かあった?」

「一応、全て開いてはみたが、全部魔人の死亡記録だったな」

「まさか、これ全部人の名前なの?な訳ないでしょ」

「いや、全部だ。儀式のやり方とか載ってないか?」

「それはここに載ってるよ」

空はさっきまで見ていた本をもう一度開く。瑞雲みずも先生は開かれたページを覗き込んだ。

「あーそうか。これは魔人が増えるわけだ」

「え、嘘でしょ、瑞雲みずも兄、儀式の話わかるの?」

「契約を書き換えたときに学んだ」

「は⁈独学で⁈だって、あれまだ研究ちゅ……」

空は全部言い切る前に何かにハッとしたように言うのをやめた。

急にしずかな空気になる。

相変わらず空気はよどんでいて、僕はすごく居心地が悪い。

「なんでもない」

一度冷静になった空が、この沈黙に終止符を打った。

その後も、唯我独村についての話が行われていた。終始僕はこの場にいてはいけない役立たずのように感じてならなかった。

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