第26話
僕は2人の少し後ろを歩く。
ここは唯我独村近くの森。初夏、日は高く登っており、ジリジリと暑い。まだ昼だと言うのに僕ら以外に人の気配は一切なかった。
2人とも歩くの早い。ついていけない。
電車をおりてからもう30分以上過ぎている。
きっと僕の体力が無さすぎるんだ。
ゴンッ
痛っ
下を向いて歩いていたら街灯にぶつかった。頭が痛い。
顔を上げると、いつの間にか木々を抜けていて、開けた集落にたどり着いた。等間隔に並ぶ家、等間隔に並ぶ街灯、きちんと舗装された一本道。その道の先には周りの建物より飛び抜けてでかい塔があった。
誰1人として人がいない。そこらへんに飛び散っている血。
「全滅にしてはやけに綺麗だな」
綺麗?どこが?僕は目の前に広がるあまりにひどい惨状をみていられなくなって、視線を落とした。
「まぁ、気をつけているからね。あんま雑にやってると
「あぁ……」
2人とも楽しそうだな。僕が話に入っていなくても。そりゃ、そうだ。2人は小さい頃から一緒なんだから。数ヶ月一緒に居ただけの僕とは訳が違う。やっぱり、いつもいつも僕は1人余る人だ。
『輝斗、大丈夫?』
お前に何がわかる。どこからそう見たって大丈夫じゃないだろ。
僕は精一杯の笑顔を作ってうんこの方をむく。
「……だいじょうぶ」
うんこ見れなかった。せっかく心配してくれたのに。ごめん。大丈夫じゃないのに大丈夫って言ってごめん。嘘ついてごめん。
ところどころ血が飛び散っている。これは全部、空が殺した魔人の血なのか。魔人は全員殺されたのか。
「いいなぁ……」
もしも、もしも僕が魔人になったら、
空は僕のこと殺してくれるかな
バカだ僕は。なんてこと考えたんだ。空に殺してもらおうなんて。これ以上空に迷惑かけてどうするんだよ。でも、あぁ、僕は生きてる方が迷惑か。こんな僕はきっと死んだほうが世の中のためだ。
でも、僕がここでうんこと入れ替わったら、うんこの力を使ったら僕は魔人になれる?
こんなこと思う僕はきっと死んで地獄に落ちるべきなんだ。
ぴちゃっ
血溜まり……
僕は急いで足を上げる。最悪。最悪だ。今すぐに帰りたい。いやだこの場所は。きらい。きらい、嫌い。怖い、こわい。
僕の頭の中であの日の記憶が一気に駆け巡る。
忘れたい、忘れられない、忘れてはいけない記憶。
バラバラになった四肢、そこから溢れ出る鮮血。体の中から飛び出した内臓。それらが作るドス黒い血溜まり。
血、血、血、血、血。
吐き気のする残状に僕はその場にうずくまった。気持ち悪い。震えが止まらない。
「てるてる、大丈夫?」
「……だい、じょ……ぶ」
かろうじて返事はできたものの、動けそうにない。鼓動がうるさい。目の前の状況から目が離せない。吐きそう。
「ちょっと休憩しようか」
上手く動けない僕は空に引っ張られて、人がいなくなった空き家に入る。
何にもできなくてごめん。上手く話せなくてごめん。
僕は
この家は他の家に比べて血の一滴もなくやけに綺麗だった。
「落ち着いた?」
僕はもう一度大きく深呼吸をする。まだ震えが止まらない。繰り返し思い出すだけで消えたくなる。
「……うん」
ひどいところを見せてしまった。本当にいつもいつも空には申し訳なく思う。
「……てるてる、なんかあった?」
空が僕に優しく話しかけてくれる。
何かあったんだろうか。なんでこうなったかもわからないし。特に何かあったわけでもない。本当になんでもないんだ。僕は勝手に1人で病んで、勝手に大勢に迷惑かけて。
……消えちゃえばいいのに
「私でよければ話くらい聞くよ」
何から話したら良いのだろうか。こんな僕の話を聞いてくれるのだろうか。話してもいいのだろうか。
迷惑になるとはわかっていても、僕は気がつくと話初めていた。
「僕は……僕には友達がいたんだ。そいつはいつも明るくて、僕にも優しくて……バカで、僕の大切な友達だったんだ」
「うん」
空は静かに聞いてくれた。
「……でも、そいつはいじめられてて……ある日から学校に来なくなったんだ」
言葉に詰まりながらゆっくり話す僕を空は静かに見守っててくれた。
「ある日……そいつは、死んだ……自ら、電車に、轢かれた……」
「ずっと一緒だと、思ってた……1年先も、10年先も、ずっとずっと一緒で……初めての、僕の親友……僕にとって、そいつは僕の光だった……後悔ばかり、しても、そいつは、戻ってこないし、僕が、とめればよかったんだ。僕が、止めれなかったから、僕が、しっかりはなしを、きかなかったから、しっかりあいつを見ていなかったから……全部、全部、全部」
僕が悪かったんだ。
「そんなことないよ」
そういうと空は僕を優しく抱きしめてくれた。
「てるてるは優しいね。てるてるは何も悪くないよ。大丈夫。悪いのはてるてるじゃない。光くんは君に優しい君にあえて幸せだったと思うよ」
嬉しかった。その言葉が嘘だったとしても。肯定された、その事実が嬉しかった。
空はどこまでも優しかった。そんな空に抱き抱えられながら、僕は泣いた。身体中の水分が全てなくなりそうなほどただひたすらに泣いた。
それから僕は疲れて寝た。その後の唯我独村の調査は全部空がやってくれた。
今日、僕は、空のやさしさに救われた。
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