第11話

「自己紹介でもしようよ!」


授業後僕らは資料室に集まっていた。

今日は仮入部の日。初めての部活。めんどくさい。早く帰りたい。が、まぁ、楽しみじゃない訳でもない。

「名前、クラス、あと、趣味とタイプ……でいいですかぁ?瑞雲みずもせんせー」

空が大きく手を挙げて言う。

え、タイプ??ここで?まだ出会って1週間も経ってないよ?

「えぇ、タイプ??タイプ言うくらいだったら悪魔、天使の名前でも言った方がいいだろ」

「確かに」

ナイス!先生!


ザシュッ


「……ッ」

「えっ……」


いきなり空は懐からバタフライナイフを取り出すと左腕を切った。深い切り傷から流れ出る鮮血は手首を伝い、手のひらを伝い、指を伝って床に落ちた。

空はその血で魔法陣を描く。

描き終わると同時に空の傷口は完全に閉じた。


「どうしたの?2人して。すっごい顔だよ。あ、写真撮っとこ」

そう言ってスマホを取り出す空。

……あまりに急な出来事に頭が追いつかない。

パシャ

「おー!!いい写真と〜れた!ただ結界を張っただけでこんな反応するとはね。悪魔の名前とか言うんだったら結界は張っておくべきだよ」

……にしても、やり方ってものがあるだろ…

悪魔の名前、ねぇ……僕はうんこに視線を移す……


へ?


うんこの後ろに見えたのは珠数木すずのき

さっきまで一緒に驚いていた珠数木すずのきは本……そう、英単語帳を読んでいた。

切り替え早いな。

こんなとこに来てまで勉強してるのか。見た目からして頭良さそうだし、テスト上位層か。

でも、ここに来てまで読んでるとはあまりいい態度とは思えない。それに、空のあの後で読めるものじゃない。


「それじゃ!自己紹介はじめよ〜!!パチパチ〜!じゃ、まず先生から!」

間邪まじゃ瑞雲みずもだ。担当教科は世界史。このオカルト部の顧問だ。ご存知の通り、角憑き。悪魔の名前はバラキエルだ。間邪まじゃ家幹部もやってる。3年間よろしく頼む」

ありふれたごく普通の自己紹介。問題は次……

「じゃ、次私〜。私の名は間邪まじゃ空。1年4組でーす!それから瑞雲みずもせんせーとは小さい頃から仲良し!もちろん私も角憑きで、名はラミエルでーす!間邪まじゃ幹部やってまーす!じゃ、次てるてる〜」

え、あ、次僕?待て待て、準備が……心の準備……

「えっと、僕の名は天瀬輝斗。同じく1年4組でーす……え、あっ、角憑きです。名前はうんこ?です。ふ、普通の高校生やってます?」

やらかした、やらかしたやらかした。空のテンションにつられたぁぁぁぁ。空が変な自己紹介するから、僕も迷ったじゃん。あぁ、黒歴史だぁ……出だしそうそう、やらかした……

「プッ、てるてる私につられてる〜」

やめろぉ……

「わたしは1年4組24番珠数木すずのき華凪かな。輪っか憑き。天使の名前はケルビム。よろしく」

この空間で、一言も笑うことなく、淡々とした冷静な自己紹介だった。

「せんせー、自己紹介終わったけど何やる?」

「基礎知識の確認だけしておこう。空、頼む。俺は寝る」

おい、先生……

「りょうかーい!ここからは空が基礎知識教えまぁす!

まず私たち間邪まじゃ家について。私たちは間邪まじゃという家の生まれ。間邪まじゃ家は幼い頃から訓練され、10歳になると悪魔と契約を結ぶ。結んだあとは他の悪魔の厄介事とかを片付けたり、悪魔という存在が表に出ないようにするんだ。天瀬家も同じく。天瀬家は天使と契約を結ぶんだ」

天瀬家……僕も天瀬……もしかして?

「あ、てるてるは違うよ?訓練とかしてないでしょ。運動神経悪いし」

失礼だな。間違っていないのが悔しい。

「ではここからは、基礎知識をクイズとしてお届けしまぁす!!

では第1問!

悪魔に取り憑かれたものをなんという?また、その別称は?」

角憑きだろ?あと、カブトムシ。

「チッ、チッ、チッはぁい!時間切れ〜!答えは角憑きでした〜!!2人とも、早く答えないとダメだよ〜」

その言い方悔しい。わかってたし。言わなかっただけだし。

2人ともって言うか珠数木すずのき、隣で英単語覚えてるんですけど……

「では第2問!

天使に取り憑かれたものをなんという?また、その別称は?」

「……っ、輪っか憑きで、別称はドーナツ!」

「おお、勢いがいいね」

つい、勢いよく言ってしまった。

「では第3問!

悪魔、天使にはそれぞれ命とも呼ばれる力があります。契約次第で角憑き、輪っか憑きも使えます。その力の名は?」

え、何それ、そんなのあったっけ……

「チッ、チッ、チッ」

え、なんだっけ、時間あ、

「はい、時間切れ〜!残念無念、また来年〜」

うっわぁ、ムカつくぅ……

「正解は魔力でしたぁぁぁぁ!!」

そのまんまだったぁ。よく漫画とかであるやつだったぁ

「ちなみに魔力を制御する力は耐性と体力で決まるよ!

さぁ、次の問題!第5問!

魔力に呑まれ、人では無くなったものの名前は?」

……なんだっけ、僕これ聞いた覚えあるぞ……えっと

そんな中、予想外の人物が答えた。


「魔人ね。わたし、帰っていい?こんな問題に付き合ってるほど暇じゃないの」


―沈黙

「先生も寝ているし、いいかしら」

「ダメだよ」

すかさず空が止めた。

瑞雲みずも兄はいいって言うだろうけど、それは良くない。今後部活をやっていく上で互いのことはちゃんと知っておかないといけないよ」

「3年とはいえ、そんなに仲良くする気は無いわ。わたしはただ輪っか憑きだからって理由で入っただけ。だから……」

キーンコーンカーンコーン

遮るようにチャイムがなった。

「では、わたしはこれで。さようなら」

珠数木すずのきは僕らを置いて帰って行った。

僕らもまた、数分後に部室を出た。

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