第12話

「ふぁ〜おはよぉ〜」

土曜日。現在時刻12時過ぎ。空がせっかく作ってくれた朝食も冷めていた。

「先生、遅いですよ」

「休みの日くらい、ゆっくり寝てもいいだろ」

「先生、朝から空が居ないんですけど」

「あいつは仕事中だ」

この前も仕事とか言ってた気がするし忙しそう。

「空ってなんの仕事してるんですか?」

「……まぁ、そのうちあいつからそういう話するだろう。多分俺が今話すことじゃない」

何それ。気になるんだけど。今度聞いたら教えてくれないかな。


あー暇。暇だぁ。特にやることも無いしなぁ。勉強するか……

そんなこと思いながら、瑞雲みずも先生が朝ごはんを食べている前で、古典のノートを開く。


……ふと、後ろに気配を感じた。

「うわぁぁぁっ」

後ろにいたのは赤い顔した化け物。歯は金色に輝き、頭からはフサフサの毛が生えた化け物。

「……獅子舞?」

『これ、獅子舞っていうの?』

「そうだね、獅子舞だね」

そこには何故か獅子舞を被ったうんこがいた。しばらく見ていないと思ったら、何やってんだ?

「お前の悪魔は面白いな」

気づいたら目の前の先生が笑っていた。

見てるのか、悪魔の力を借りて。

「獅子舞は悪魔祓いに使われたりするんだ。それを、悪魔が被るとは」

そうなのか、知らなかった。

『へー、そうなんだ……あれ、……あ、外れない……あれれ』

うんこが獅子舞を外そうとしてる。抜けないらしい。可哀想に。

『これ、あ、角が引っかかって……あ、痛い痛い、折れるっ』

さ、放っておいて古典勉強しよ。

四段活用……下二段活用……下一は蹴るだけ……

『抜けなぃぃぃぃ、ぁぁ、輝斗、助けてぇ』

上一段はひいきにみいる……だっけ……

『てるとぉぉぉぉぉぉ』

あ゙あ゙もう!集中出来ない!!


スポッ


『あ、抜けた』

あぁ、もう……あ、抜けたじゃないよ!鈴を沢山つけたり、急に僕らの制服着たり、何着ても構わないけど、せめて簡単に脱ぎ着できるものにしてくれ……気が散る。

『我、ちょっと被ってみたかっただけなんだ……』

「どこで見つけだんだ?そんなの」

『なんかね、下界から帰ってきた時に偶然見つけてさ』

「下界?」

「俺らが住んでいるのが人間界。それを挟むように、天使が住む上の界、天界、悪魔が住む下の界が下界と呼ぶんだ。簡単に言えば、天国と地獄みたいなものだ。あ、曲ではないからな」

最後の一言がなければ、頭に天国と地獄が流れ出すことはなかったのに……

「で、下界まで何しに行ってたんだ?」

『妻に会いに』

「「妻ぁ?!」」

え、うんこに妻いたの?え、すっごいいなさそうなのに。

『我にも妻の1人や2人くらいいるよ?』

えぇ……まじか……

『結構可愛いんだ。特に髪が綺麗でね。彼女が動く度、髪は光に反射して金色に輝くんだ。とっっっっっても綺麗なんだよ』

うんこは幸せそうに笑った。

「そういえば、うんこっていくつ?」

『いくつって?』

「歳だよ歳」

『歳ってなぁに?前、光から聞いた気がするんだけどあんま分からなかった』

はああ、そんなのも知らないのか……

思わずため息が漏れる。

「……あ、そうか。悪魔は死なないから歳という概念がそもそもないのか」

今まで黙っていた先生が口を開く。

「生まれてからどれくらい経ったかってことだよ」

『生まれてから……?……いち……に、さん、……し……』

指を折って数え始めた。そのペースで数えると日が暮れそう。

『分からない……覚えてないや』

そういうものか。なんかうんこ精神年齢とか低そうだし、てっきりまだ若いのかと……


「おい、輝斗?手が止まってるぞ。それ、週末課題じゃないのか」

あ、忘れてた。そもそもなんでこんな話になったんだっけ?まぁいいけど。気づいたら手が止まってた。まぁ、まだ明日もあるし、焦らなくていいんだけどね。

僕はそんなこと思いながら普通に1時間で全部終わらせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る