第17話
ふぅ、さっぱりした。やっぱり風呂っていいよな。入る前はめんどくさいとか思ってるけど、入って後悔しないし。
なにせ、空の家の風呂、めっちゃでかいんだよな。1人で占領しちゃった。贅沢だなぁ。みんなで入る風呂もいいけど、1人も悪くない。
僕はリビングに向かう。
「あれ、いない……」
机にはなにかやりかけのパソコンが置いてあった。
「空、行く前にちょっといいか?」
玄関の方から
僕はそそくさと廊下に出ようとする。
「空、お前魔力使っただろ」
真剣な声。僕は廊下に出るのを辞めた。今出るのはタイミング的に間違ってる気がした。僕はリビングからこっそり覗くことにした。
「え、いつ?使ってないよ?それより、今から私仕事行くから。12時までには戻ってくるから」
「待て。逃げるな」
「学校に比べて数センチ、身長伸びたよな」
「そう?変わらないよ」
空の言う通り、学校と変わらない。と思う。
「長年一緒にいた俺の目はごまかせないぞ。逆によく誤魔化せると思ったな」
少し声を荒らげる先生に、僕は思わず1歩後ずさった。
「あ、やっぱりバレてた?」
空が言い終わる前に、
「そんな軽々と使っていいものじゃないだろ。そもそもお前は、幹部だ。自由に使うのを許された立場とはいえ、軽々と使うな!使えば使うほど減るんだぞ!寿命が!」
へらへらとした空とは違い、先生は真剣だった。
「お前、それで学校過ごすつもりだったのか!今はよくても、今は無事でも、確実に減っていくんだぞ!輝斗の監視期間、約3年間、それで過ごせるのか?無理だろ!そんなこと!死ぬぞ!もっと使い方を考えろ!!」
先生の声は廊下中に響き、しばらくして止んだ。誰も一言も話さない永遠かのように思える一瞬の虚無。先生が黙ってから、誰一人、空も僕も喋らなかった。ずっしりと重たい空気が流れている中、空がゆっくり口を開いた。
「……いつ気づいた?」
一瞬驚いていたようだが、すぐにいつもの調子に戻り、話す。
「少し前から薄々気づいてはいた。確信したのは今日の身体測定だ。なぜこんなことする?」
「私はこれでも成人男性。普通に紛れ込んだらバレちゃう。それに、
「私が死んだら、
「だから私に死んで欲しくないんでしょ」
「……っ」
「ふざけるな!!なにが『バレないように』だ!なにが『死んで欲しくない』だ!確かにそうかもしれないが、
俺はもっと自分の身を大切にしろって言ってるんだ!!」
「……うん。わかったよ。ごめんね。次からは気をつける。じゃ、私、仕事行ってくる」
空は先生の腕をどけると、手をひらひら振ってそっと出ていった。
全然気づかなかった。ここにいる時と、学校にいる時で身長違ったんだ。
「……輝斗、なにか用か?」
僕のこと気づいてたんだ。あれ、用なんだっけ。
「……あいつの仕事、幹部の仕事なんだ。あいつの役職はただでさえ魔力を使う。そのうえで日常的に使ったら……。あいつはあんなやつだけど、それでも、俺のたった一人の親友だ」
先生はまるで独り言のように話し続ける。
「実際、空の言う通りかもしれないな。俺は、1人取り残されるのが怖いのかもしれない」
……1人、取り残される?
「風呂は後で入る。悪かったな。変なの見せて」
そういうと、僕の頭をくしゃくしゃと撫でて2階へ上がって行った。まるで僕の父であるかのようだった。
僕はぽつんと1人廊下に取り残された。
自分を大事にしろ、か。
もし、光にその一言が言えていたら、なにか変わったのだろうか。
今更、もし、なんて考えても無駄か。どれだけ考えようが、後悔しようが、いないものはいないんだ。
僕は居心地が悪くなって自分の部屋に戻った。
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