第18話

「へいお待ち!」

午前の授業終わり、部室の資料室では空による寿司屋が展開されていた。

空も瑞雲みずも先生も、昨日のことは嘘かのように仲良く話している。切り替えが上手いというか、隠し方が上手というか……

僕の前にまた握り立てのマグロが4貫置かれた。

ていうかもう、飽きたんだけど……さっきからマグロしか食べてないし。

「それより空、そろそろ別のネタが食べたいんだが」

「私、マグロしか用意してないよ?」

ほら、瑞雲みずも先生も飽きてきてるし。

「かなかなも食べる?」

「わたしはおにぎりがあるし、遠慮しておくわ」

そう言って隣でおにぎりを食べ続ける。

瑞雲みずもせんせー、マグロ余るんだけど」

「俺は知らないぞ。自分で持ち帰れ」

空の隣にはさばかれた1匹のマグロ。骨やらも散乱している。

丸々1匹なんて持って来るから……


プルルル、プルルル……


瑞雲みずも先生がスマホを持って席を立つ。先生の顔つき的に大事な電話らしい。

「はい、瑞雲みずもです……え?マジのやつか?……わかった。すぐ行かせる」

そういって電話を切った。幹部の話だろうか。

「おい、空、仕事だ。場所は唯我独村ゆいがどくそん

唯我独村?めちゃめちゃかっこいい名前だな。

「えぇ、またあそこ?今、寿司食べてるから後ででいい?」

「今すぐ行け!」

結構、重大なことらしい。

「えぇ……」

うわぁ、行きたくなさそう。


バッ


空は錆び付いた窓を思いっきり開けた。

窓にこびりついていた蜘蛛の巣が中を舞い、風で室内のプリント類も中を舞った。

空は窓枠に足をかける。

「んじゃ、瑞雲みずも兄行ってくる!」

そう言うと、空は黒い霧を撒き散らしながら窓から外に飛び出した。

馬鹿な、ここは4階だぞ。

僕は焦って窓から下を覗く。

地面に綺麗に着地した空は僕らに元気よく手を振って走っていた。

こんな時間帯から仕事?

「仕事?」

「あぁ、幹部の仕事だ。あいつはあれでも幹部だからな。教師の俺が言うことじゃないが、正直学校よりも幹部の仕事の方が大事だ」

なんの仕事してるんだろう。そんなに忙しくて重要な仕事……

「先生、この魚どうするんですか?」

確かに。仕事で空居なくなったから持ち帰る人がいないじゃん。

「先生?」

「あぁ……なんだ?」

この感じ、聞いてなかったな。

「魚、どうするんですか?」

「空のやつが置いてったからな。さて、どうしたもんか……」


『輝斗?』

後ろでなんかソワソワしてると思ったらうんこが声をかけてきた。

僕の周りをグルグル回るし、縦にも横にも斜めにもグルグル回ってて正直目障りな所はあった。

「なに?」

『我、それ食べてみたい』

「え」

どうやって食べるか知らないけど、この状況を考えると結構ありがたいのでは?

「先生、僕のうん……悪魔がマグロ食べたいって言ってるんですけど」

危ない、危ない。危うく食事中にうんことか言うところだった。

「あげていいぞ。むしろ食べてくれ」

うんこはニコニコでマグロを食べた。一瞬にして、目の前のマグロは消え去り、魚の骨やらも消え去った。一緒に食べたらしい。

『輝斗!これ美味しい!初めて食べた!!おかわり!!』

ないよ。それで終わりだよ。


キーンコーンカーンコーン


やば。もうこんな時間か。授業始まるじゃん。まだ次の授業の準備してないよ……急がないと……

「あぁそうだ、輝斗、珠数木すずのき、次の授業の担当の先生に空は早退したって伝えておいてくれ」

いいなぁ。授業めんどくさいし、ぶっちゃけ僕も早退したい。

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