第19話

上手くも不味くもない……さすがカップラーメン。

ここに来て初めての空のいない夕飯。誰も夕飯を作ろうとしないのでカップラーメンになった。

プルルルル……プルルルル……

「……もしもし」

あ、このだるそうな言葉の返し方、相手は空か。

先生は電話をスピーカーにして僕にも聞こえるようにしてくれた。

電話越しにジーといったなにかの鳴き声が聞こえてくる。場所は田舎か?

『やぁやぁ!てるてる!元気してる?』

「あ、まぁ」

少しの時間いなかっただけで、懐かしさを感じるようなうるささ。

『てるてる〜瑞雲みずも兄の料理食べてないよね?』

「食べてないけどなんかあった?」

『なら良かった。いや~、瑞雲みずも兄の料理はめっちゃ不味いからね。無事でよかった』

「おい、そんなことよりそっちの状況はどうなんだ?」

空の言葉を遮るように話す。

『あぁ、過去1酷かったよ。一体どんな儀式をしたんだろうねぇ。なかなかこんな酷いことないよ。あ、珍しいし、写真撮っとこ』

マイク越しにシャッター音が聞こえる。

『あぁ……でも、もうこれで唯我独村に行くことは無くなるだろうね』

「は?……どういうことだ?」


『全滅だよ』


「……は?」

全滅?なにが?

「……それってどういう……」

『そのまっ……あ、え?……え、うわっ……えぇ……』

真剣な瑞雲みずも先生とは違って、電話の向こうから空らしくない、あたふたした声が聞こえた。

「……空?」

『え、あ、ごめん、ちょっとたんま……』


「……全滅……まさか……」

瑞雲みずも先生、全滅ってなに、が……」

先生の顔を見ると、真っ青だった。


『ソノマンマダヨ。ゼンインシンダサ』


この一瞬で何があったのか、空は鼻をつまんだ声で話す。

……死んだ?

『ワタシガキタトキニハ、モウオソカッタヨ』

「……そうか」

「……空、鼻つまんで喋ってる?」

こんな空気だけどどうしても気になってしまった。

『ベツニ、ハナツマンデナイヨ』

「……空、報告はそれだけか?」

『ソレダケ』

「じゃ、切るぞ」

空のいつものようなふざけた話が嫌だったのか、すぐに切った。少し、強制的に切ったようにも思えた。


「……この人殺しが……」


スマホをしまいながら少しイライラした様子で吐き捨てた。

……人殺し?誰が?え、まさか空が?どういうこと?

僕はとりあえず生ぬるくなったカップラーメンに手をつけた。

先生は手をつける様子はなく、何かを考え込んでいた。

……空の仕事だろうか。人殺し?

「……先生、空はなんの仕事をしてるんですか?」

本当は聞いてはいけないのかもしれない。だけど、気になる。

よく仕事で居なくなるし、それに瑞雲みずも先生の言った人殺しってのが気になって仕方がない。

「そうだよな。これだけ空が仕事に行ったりしてると気になるよな」

話してくれそう?

「……輝斗。魔人になったらどうなるか知ってるか?」

えっと確か……

「死ぬんですよね」

「あぁ、ほとんどの角憑きと輪っか憑きはそう伝わってるだろう。実際は違う。本当は言っちゃダメなんだがな……本当は、んだ」

殺される……

「魔人になると理性もなくなりただ暴れ回る。悪魔と天使には寿命がないおかげで、魔人も寿命がない。そんな怪物を止めるには……殺すしか方法がないんだ」

誰が……まさか……


「その仕事は一部の幹部の仕事」


「空の仕事だ」


魔人を殺す仕事……

「あの仕事は正直、狂ってるやつしか出来ない。空の2つ前の担当だったやつは、仕事のおかげで限界まで追い込まれてたらしいし、1つ前のケツアゴのもやしも、あまりのキツさに仕事を放棄した。ケツアゴのもやしが放棄した分も含めて空が今、全部やってるんだ。そのうえで毎日あのテンションだ」

仕事……毎回魔人を殺しているのか。

「いずれ、俺もその時が来れば、空に首をはねられるだろうな。親友だろうが躊躇せずに」

……先生のいう通り、本当に狂ってるのか?確かに頭のおかしい奴だけど頭がおかしいだけで……でも、だけど、今の話を聞くと空は狂ってるのかもしれない。

先生は空と一緒にいた時間が長いから、少ししか一緒にいなかった僕には狂ってると一概には言えないけれど。

あぁ、こう考えてる今も、空は魔人を、元人間を殺しているのか。

「元々、あいつは魔人を殺す仕事に就く予定ではなかった。もっと別の立場の予定だった。あるきっかけがあったんだ」


「……少しだけ、そのきっかけの話をしようか」

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