第20話

僕は伸びたカップラーメンを食べながら瑞雲みずも先生の話を聞く。

空が魔人を殺す仕事に就いたきっかけ……

「この話、外でもいいか?」

「えぇ、あ、はい」

咄嗟にはいと言ったものの、え、今から外出るの?

僕は先生の後に続いてベランダに出た。

白い月も雲で隠れているおかげか、暗い。


「天邪の家は大人になる前に必ず、角憑き、輪っか憑きになるための儀式を行うんだ。

大体の天邪の者は10歳の時に儀式を済ませている。

もちろん、長年考えられてきたちゃんとした儀式だ。危険性は低い」

瑞雲みずも先生はタバコを1本取り出し、ライターで火をつけた。

ライターの火が暗く沈んだ先生の顔を照らす。


「12年前、俺が16の頃だ。俺には5歳下の可愛い妹がいた。

妹が契約した悪魔はベルゼブブ。多分、名前くらいお前も聞いた事あるだろう。一般の人にも知れ渡ってる有名な悪魔だ。ランクとしては当時トップのS。

しかし、妹は悪魔に対する耐性がほとんどなかったんだ。

儀式から2年しか経っていないのにも関わらず、髪は真っ白、おまけに角まで生えてきた。もう、いつ魔人になってもおかしくない状況だった。


そんな中、俺らはいつものように3人で剣の練習をしてたんだ。

もちろん子供だけでそんなことやるわけない。幹部のひとり、俺の祖父が俺らの練習の様子を見ていた。

本当にみな、いつも通りだった。

祖父がトイレに行ってる時に、それは起こってしまった」


何となく、予想はついた。瑞雲みずも先生が「妹がいる」ではなく、「妹がいた」と言った時から。


先生は静かに煙をはいた。

タバコ白いの煙が真っ黒な空に吸い込まれていく。

一呼吸してから一言。


「……魔人になったんだ」


何となく予想はついていた。先生も言いたくはなかっただろう。

先生はまた、ゆっくり話し始めた。


「妹は化け物になった。それは俺を見ると真っ先に俺を襲ってきた」



「俺は何も出来なかった」



「……そんな中1番速く動いたのは空だった。あいつは躊躇なくそれを殺した」


「迷わず、誰よりも速く剣をとり、殺した。正直、空の動きが1歩でも遅かったら俺は死んでいただろう」


「空はヒーローだった。魔人を倒し、被害を最小限に留めた当時9歳の『天才』。だから今あいつはあの仕事をしている」


「イカれてる。あいつは」


「少なくとも俺ら4人で7年、一緒に過ごしてきた仲だ。それをあいつは躊躇なく殺した。あいつはどんな悪魔より悪魔だ。あまりのイカれっぷりに現在の幹部はみな、心のどこかであいつに怯えているだろう」


ため息と共に先生は髪を長い前髪をかきあげた。

先生の右目の上あたりの傷跡がちらりと見えた。

知らなかった。

「どうした?輝斗」

「いや、別になにも……」

その傷もその時にできたものなのか……

「暗い話して悪かったな。さ、部屋に戻るか」

先生は立ち上がり、優しく笑った。いつもは全く笑わないくせに。


それから僕らは冷たくなったカップラーメンを食べ切り、それぞれで風呂に入って寝た。

今日、初めて知ったことも沢山あった。

空は、どう思って仕事を続けているのか。

先生はどう思って空と接し続けているのか。


今はよくても、もしかしたらこの関係が崩れる時が来るのかもしれない。

来るか分からないそんな未来が、僕は少し怖くなった。

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