第32話

暑い……冷房欲しい……

文化祭終わりの翌日。体育祭。正直こっちはどっちでもいいまである。なんで楽しい方先にしたんだよ。文化祭あとにしろよ。

あぁ、暑い。ここ日陰なのに。しかも今まだ6月はじめだよ?いまから夏が始まるっていうのにどうすんの?真夏はどうなるのさ。

僕はダラダラと入場の列に並ぶ。ちょうど今からリレーなんだよな。16番。空が15番。僕は空からバトンをもらって次の野球部のやつに渡すんだ。足を引っ張るわけにはいかないけど、そこそこ頑張るのもめんどくさい。

珠数木すずのきはもう個人種目で出てたから、リレーには出ない。長距離走で出てたのを少しみた気がする。速かったんだよなぁ。ぶっちぎりの1位。陸上部置いてったんだよなぁ。すごい。

『では、リレーの選手は入場してください』

僕は駆け足をする。

あんまリレーにいい思い出ないんだよなぁ。たくさんの人に抜かされていく思い出、転んだ思い出、バトンを落とした思い出、バトンを渡す人を間違えた思い出。まぁ、今の僕は前よりも足は速いわけだし、前の走者はあの空だし、よっぽどミスなんてことはないと思うけど。


スタート前。運動場が静かになる。

『オンユアマックス』

『セット』

パァン

発砲音と共に走者が走りだす。砂埃が舞う。大きな歓声が聞こえる。

高校の体育祭も思った以上に盛り上がるものだ。


リレーも残り半分を過ぎた。着々と僕の番が近づいてくる。

僕ら4組のチームは全部で8クラスある中の現在5位。早くもなく、遅くもなく。真ん中だ。

あっ

僕らのクラスの走者が勢いよく転んだ。痛そう。

観客からは、あぁ、といった声があちらこちらから聞こえた。

走者はゆっくりと立ち上がるとのろのろと走り出した。クラスで優勝を掲げていたけど、これはもう無理そうか。

すでに1位の走者とは半周ほどの差がついている。

擦りむいた膝からは血が滲んでいた。

そのまま次の走者にバトンが渡るが、差が開きすぎてる。

同じクラスのやつを見てみると、一部はもうすでに諦めたような顔をしていた。


一向に差は縮まらない。そろそろ空の番だ。

僕、いまだに空の本気見たことないんだよなぁ。それに、空は速いとはいえ、半周の差がついてしまっては抜くことができない。

アンカーまで残り6人で何人抜けるだろうか。

空にバトンが渡る頃、ちょうど僕の隣を半周差をつけた1位の走者が走り抜けていった。


正直、僕は空を舐めすぎていたかもしれない。


速い。めちゃくちゃ速い。普通に自動車くらい速いんじゃないか?

空は1人、また1人とどんどん人を抜いていく。

誰よりも速い。その上で、誰よりも楽しそうだ。

逆転できそうな展開に観客は大きな盛り上がりを見せた。

あっという間に僕の番がきた。僕の前には残り2人。

いける。いける。これは頑張れば勝てるかもしれない。

僕は走り出した。

「てるてる!頼んだッ‼︎‼︎」

空の言葉とバトンをもらい、僕はさらに速度を上げる。

近くにいた1人は抜けた、あとは1人、1位だけッ‼︎

差はどんどん縮まっている。抜ける!絶対に!僕らなら‼︎

あんなに開いていた差はもうゼロに等しい。僕は1位とほぼ同時に次の走者へとバトンを託した。


その後も僕らの一位との接戦は続いた。会場は今日イチの盛り上がりを見せた。

普通に疲れた。こんなにリレーに本気になったのはいつぶりだろう。できることはやった。あとは見守ることしかできない。


2クラスの激戦の中、ついにトップの走者がゴールテープを切った。

観客からは大きな歓声が聞こえる。それを超える声量で僕のクラスからも大きな歓声が聞こえた。

一位を見事に勝ち取ったのは4組、僕らのクラスだった。

「よっしゃぁぁぁぁ」

僕の口からも思わず喜びの声が溢れた。

勝った。勝った‼︎あんな危機的状況から挽回して勝てた‼︎正直勝てるとは思って無かったし、なんか、僕も1人抜いたし、役に立ったようですごく嬉しい。


あぁ、これが『青春』ってやつかもしれない。

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